俺、貴族に指名手配されました! 1
あれからさらに一週間が経ち、学園都市エクストラから少し離れ、今はだだっ広い荒野にいる善弥は、野宿の準備をしていると、商人が一人通りかかった。
「おや、こんな所で野宿ですかい?」
「えぇ、なにせ道も分からないもので、この先も道があるとなると厳しいのでね」
「おや、なら幸運と言ってもいいですね。この先、あと二キロぐらい進んだところに、帝都バレールがありすよ」
「本当ですか! なら、そこへ向かうとします!」
「私も向かう所なので、ご一緒にどうですか?」
「それならば是非!」
そうして、その商人と、帝都バレールへ向かうこととなった。
「えーっと、商人さんは貴族か何かですか?」
「レンって呼んでくさい。私は貴族ではありませんよ。ただのしがない商人です……第一、貴族が商人なんかしませんよ」
「それもそうですね……変なことを聞きました、すいません」
「いえいえ、謝らなくても良いですよ! ……でも、その事を知らないとは、引きこもりかなにかで?」
「いえ、あの、それは……」
異世界から来ましたー! なんて言えねぇし、かと言って本当に何も知らないとなるとなぁ……。
『なら、記憶喪失になった事にしておけばいい』
おぉ、ナイスアイデア!
「自分、ココ最近で記憶喪失になってしまいまして……それも、かなり深刻でしてねぇ……」
「そ、それは言いづらい事ですね……記憶、戻るといいですね」
「はい、ありがとうございます! お優しいんですね」
「よしてください! そんな綺麗な心なんて持ってませんよ。ただの貴族に顎で使われるような下民ですから」
「貴族……」
「いいんです。こうして仕事できているだけありがたいです。他の人では、仕事にすらつかせてもらえず、強制地下労働がほとんとです。今から向かう場所でも
、それはかなり見られます」
「そうですか……その、レンさんはご家族とかは……」
「両親は他界しました。病気でね……。それと、妻がいました」
「いました?」
「ええ。貴族がかっさらって行きましたよ。だけど、我々下民は力がない。抗えず、無抵抗なままなぶられましたよ……」
「それは、どこの町ですか?」
「そうですねぇ、ここから、約三十キロくらいの場所にある、第二帝都ミドルです」
「第二帝都? そんなのがあるんですか?」
「ここら辺では有名です。何でも、所有権を持つ貴族が、ご兄弟らしく、繋がりもかなり深い場所なんです」
「だから第二か……」
「おっと、そんな話をしていたら見えてきましたよ。あれが帝都バレールです」
「あれが……かなりデカいですね」
「はい。ほぼ貴族しか住んでませんが、所々で下民の方も見えます。ですが、ここでは無視してください」
「なぜ?」
「……ここのルールです。下民は口を開くな。許可された場合のみ喋れ。前に一度、そのルールを破ったものがおり、真っ先に処刑されてました……それを見て、仲間の方が決闘を挑んだのですが……」
「そうですか……」
「そう言えば、あなたは貴族なのですか? 見たところ、下民ってわけでも無さそうなのですが……」
「そうですねぇ……平民かな?」
「平民? そんなもの、この世界では無いのですが……」
「ま、そこは置いといて。着きましたね、バレール」
「ええ。ここから先は私語厳禁です。通るのは簡単ですが、通った後が大変ですから」
「わかりました。ありがとうございました。ここまで」
「いえいえ。ご武運を」
その後、レンとは別れ、宿を探すことに決めた善弥は、帝都を回ることにした。
にしてもでっけぇ……つか、宿なんかあるのかなぁ? 見たところご立派なお城があちらこちらにあるばかりで、民家なんて見当たんないぞ?
一人ぐらいはまともな貴族がいないものか。そう思っていた矢先、とても懐かしさを感じさせる建物を見つける。
おお、あれはまさにザ、民家! 行ってみよぉー!
中に入ると、これまた懐かしの光景が目に入る。
これだよこれぇ! この感じ、これこそ平民である俺にとっての休息の地だ!
そんなことで浮かれていると、受付の奥の方から、女性の声が聞こえてくる。
「あら、お客かい? こんなボロっちい宿屋へようこそ〜。私は貴族だけど、あんまり気にしないでね! この宿の中でなら自由に喋っていいわよ!」
「こ、こんばんわ」
「あらあら、イケメンじゃない! こんな汚い宿で良ければ泊まってって!」
「はい! ここで一泊させてもらいます!」
「はいね〜! じゃ、一階の一号室を使って頂戴!」
「はい、親切にありがとうございます」
「いえいえ、ゆっくりしてってね〜」
随分と変わった貴族だなぁ……ま、いいか。あとでゆっくり話してみよーかな!