理不尽冒険の始まり始まり!? 7
首を鳴らし、手足をブラブラさせながら、次の相手を待つ。
「ほら、次の相手はどいつだ? これで終わりじゃねぇよなぁ?」
次に、一年生の貴族が三人がかりで倒しに来る。
「三対一? いいの?」
「いいに決まってるだろ? やはり下民の頭は……」
喋ってる途中、善弥は躊躇なく動き、顔面を殴りに行く。
「だから言ったじゃん。三人だけでいいのって?」
「ちょ、調子にのるなぁー!!」
続いて飛び込んで来た二人も撃沈。一発の攻撃も受けずに勝利を収める。
「もっと来いよ? 全員まとめて相手にしてやるよ?」
『馬鹿! それはいくらなんでも……!』
次の瞬間だった。善弥の身体から闘気が溢れ出す。その闘気を見て、怯まないものはいなかった。
「な、何だそれは!?」
「俺もわからねぇ」
「ふざけたことをっ!」
二年生の一人が地面を蹴り、善弥へと近づく。だが、善弥にはそれが止まってるようにしか見えなかった。
なんだ……この力は……。まさかアビリティか?
そう、アビリティだ。本来、必ず一つは持ち、稀に二つのアビリティを持って生まれてくる者がいる。それは成長の過程では手にできないのだ。だが善弥は違う。この理不尽に対抗しようとする気持が、アビリティ発現の鍵だった。
その名は"逆境"。それは、こちらが不利な条件に出くわした時に発動するもので、内容としては、理不尽に立ち向かう時、成長速度が三倍になるというものだ。
だから今、善弥はこの無理な数を相手にして戦うことで、とてつもないスピードで成長していっているのだ。
善弥に向かってきた相手は、闘気に触れただけで気絶する。それほどまでに、善弥の闘気は強いものだった。
そして、そこからは一瞬だった。バトルスクール全員で襲い掛かり、絶対に誰が見ても善弥が負けると思うはずの光景が、ものの数分で皆気を失う。
それを高みの見物をしていたヘルメンドは、膝がガクガク震え、逃げ出そうとする。
「な、なんだあいつはっ!? か、勝てないぃい!!」
逃げ出そうとしたヘルメンドの前に、善弥は高速で移動する。
「おい、どこに逃げるんだ? ルールだろ? 戦わなきゃ死刑だろ?」
「ななな、なんのことだ? わわわ、私にはさっぱり……」
「てめぇに勝ちゃ、ここの支配権は俺のものなんだろ?」
「は、はは、誰が貴様なんぞに……たかが少し強くなったぐらいでいきがりおって!」
「なら、勝負しろよ?」
「だ、だから言っただろ? 私は仕事があるのだ。さ、さら……」
「行かせるわけねぇだろ?」
走り去ろうとしたヘルメンドの頭を鷲掴みにし、地面に叩きつける。
「この世は理不尽の塊だよ。だから、俺がこの世の全ての理不尽をぶち壊す。そして、この世界を平和にする。その一番初めがここだ。よかったなぁ?」
「な、何を訳の分からないことを! この世界がどれだけ広いと思っている!? 何年かかると思っているんだ!?」
「何年でもかけてやるよ。百年二百年と経ってもやり遂げる。それがここに来た理由だ」
「馬鹿な! 人間の寿命は短い! すぐに死んで終わりだ!」
「俺は死なない。おかしいと思うだろ? 不死の力、これが俺のアビリティだ。だから、俺は死なない」
「そんな力はこの世には無い!」
「まぁそう思ってるならそれでいい。ただ、ここは俺が支配する。だから、お前ここで大人しく寝てろ!」
頭を持ち上げ、強烈な左フックを、ヘルメンドの顎へお見舞いする。ヘルメンドは意識を失い、その場に崩れ落ちる。すると、一匹の鳥が飛んでくる。
『ココノ所有者ハ、ヘルメンド=ワン、カラ、ゼンヤ、ニ、カワリマシタ』
その鳥はそう善弥に伝えると、塵となって消えてしまう。何だったのだろうか?
『今のは各町のリーダーが飼うカタコト鳥だ。それが現れたってことは本当にここの所有者になったってことだ。これで学園都市エクストラは善弥のものだ』
「俺の物か……なら、今すぐにでもここのルールを変えようかな!」
『そうだ! それでいい!』
所有権を獲得した善弥は、このすぐ後、町中を歩き回り、自分が所有者になった事を伝え、すぐさまこの町の決まりを改正した。
それにより、顔を俯けていた者が顔を上げ、貴族だけが満足はせず、誰もが平和に、平等に暮らしていけるようになる。
それから二週間、町を見続けた。その効果は絶大で、少しぎこちなさはあるが、皆笑顔になっていた。
「これでよしっ! じゃあ次は、ちょっくら冒険に出てみましょうかね?」
『ああ。まだまだ沢山あるからな! 頑張ってくれよ?』
「あたぼーよっ!」