第97話 「夏本番!ワタルの熱血ビーチバイトッ!」
前回までのあらすじ! ピーチビーチの海の家へとバイトに来たワタル・アリア・ブレイドの3人! しかしそこで、アリアが巨大なサメの魔物“ヤバンザメ”に襲われてしまう! そこでワタルとブレイドは、見事な連携によってこのサメを退治するのであった! めでたしめでたし! 圧倒的めでたし!!
そして数時間後! 時刻は午前11時!
ビーチには、水着を着た人々が大量にやって来ていたッ! ここはウィンド大陸でも有数の人気を誇るビーチであり、夏は大陸中からパーリーピーポーが集うのだッッ!!
「よーし、ここからが稼ぎ時だな!!」
海の家の中からビーチを見渡し、気合十分といった様子で腕を組むブレイドッッ!!
「そうですね! 一緒に頑張りましょう!!」
隣のアリアも、拳を握って張り切っていたッ! 先程巨大ザメに頭を噛みつかれたとは思えないほど元気いっぱいだッ!
しかし、海の家の店主であるおじいさんは、顔面蒼白で椅子に座っていたッ!
それに気付いたワタルが声をかけるッ!
「武ッ!? どうしたんですかおじいさんッ! 具合でも悪いんですかッッ!?!?」
するとおじいさんが、今にも泣き出しそうな表情で口を開いたッ!
「忘れとった……」
「えッ!? 何がですかッ!?」
「焼きそばの食材を業者に注文するの……忘れとった……」
「な……何ィーーーッッッ!!!???」
ワタルは思わず驚愕したッッ!!
「……つまり、焼きそばの具材であるキャベツと豚肉を昨日の時点で使い切ってしまっていて、その補充をするのを忘れていた、ということですか?」
「そうなんじゃ、アリアちゃん……」
がっくりとうなだれるおじいさんッ!
「幸い焼きそばの麺とソースはあるが、これでは具なしの焼きそばになってしまう……。もうすぐ昼飯時だというのに、お客様に具なし焼きそばを提供するなんて、そんなことは出来ん……!」
「うーむ、それは困ったッッ!!」
“具のない焼きそばは焼きそばにあらず”――かの有名な武人、宮本武蔵もそんな言葉を残しているということは、聡明な読者の皆様であればご存知であろうッ!
するとその時、ブレイドの脳裏に悪魔的発想が舞い降りたッ!
「……なあワタル、ヤバンザメの死体、どこにやった?」
「んッ?? あれなら、海の家の裏に置いているぞッッ!!」
「あれ……食材として使えるんじゃないか?」
「な、何ィーーーッッッ!!!???」
ワタルは思わず驚愕したッッ!!
というわけでワタルとブレイドは、急いで裏手に放置していたヤバンザメの死体を回収し、海の家の奥にある厨房へと運んできたッ!
「おい、このサメどこに置く!?」
「そこのテーブルに置いとくかッッ!!」
サメの死体は全長10メートルもあるので、2人はとりあえず厨房中央の巨大テーブルの上にドカンと置いたッッ!!
「よし、昼飯時まであまり時間がない! アリアちゃんとおじいさんが店の表で諸々の接客をやっている今の内に、とっととさばいてしまおう!!」
「応ッッ!!」
力強く頷き、包丁を握るワタルッ!
そしてこなれた手つきで、ヤバンザメの死体をさばき始めたッ!
「おお、なかなかうまいじゃないか! これならなんとかなりそうだな!」
ご満悦のブレイドッ!
数分後、ワタルはヤバンザメの背中から大きくて茶色い鳥の翼を切り離し、サメ部分の解体に移行ッ!
この間にブレイドは、切り離された翼を更に細かく切り分けるッ!
これは見事な連携プレーだッッ!!
一方その頃ッ!
「ごめんくださーい」
そう言って一人の男性が、のれんをくぐり海の家に入ってきたッ!
「いらっしゃいませー!」
アリアは屈託のない笑みで挨拶をしつつ、頭を下げるッ!
すると彼女の隣にいた店主のおじいさんが、開いた口が塞がらないと言った表情で目を見開いたッ!
「……? どうしたんですか、おじいさん?」
「あ、あなたは……!!」
声を震わせて目の前の男性をまじまじと見つめるおじいさん!
その男性の恰好は、海の家へとやって来るには少々おかしなものであったッ!
整髪料できっちりと整えられた白髪交じりの頭髪に、威厳のあるハンサムな顔立ち! 全身を包む清潔感のある黒のスーツに、ピカピカに磨き上げられた革製の靴!
歳は恐らく40後半~50前半といった感じで、全身から独特のオーラを放っているッ!
「あなたは……美食家の、“山原ジェロニモ”さん!!!」
それを聞いたアリアは、思わず驚愕したッッッ!!!
「ええっ!? ウィンド大陸中のありとあらゆる名物料理を食べて辛口評論をしている、通称“辛辣の美食家”で有名な、あの山原ジェロニモさんですか!?!?」
圧倒的説明セリフッ! 解説ありがとうアリアッッ!!
「いやはや、そこまで言われると少し照れくさいですな」
そう言ってジェロニモは朗らかに笑ったッ! “辛辣の美食家”と呼ばれているが、どうやら普段は温厚な人物らしいッ!
「ところで、どうしてそんなすごい人がここに来たんですか?」
首をかしげて尋ねるアリアッ!
「いやなに、こうやって様々な場所の料理を開拓していくのも、美食家の醍醐味ですからね。高級レストランで提供されるものだけが、“美食”とは限らないのです」
「おお……なんか凄く深いことを言っている気がします!」
「それじゃあ、早速ですが料理を注文してもよろしいですかな?」
ジェロニモはそう言って、テーブル席にゆっくりと腰を下ろしたッッ!! そしてテーブルの中央に置かれたメニューの紙に目を通し、注文をするッッッ!!!
「……では、この焼きそばをお願いします」
「は、はい!! かしこまりました!!」
(ど、どうしよう……よりによって、具材がちゃんと用意されていない焼きそばを注文してくるなんて……)
困り果てたアリアが横を見ると、同様におじいさんも困惑の表情をしていたッ!
(ジェロニモさんの料理評論は、業界において絶大な影響力を誇っていると聞いた事があります……彼が“美味しい”と言えばその店は繁盛するし、“マズイ”と言えば翌日には潰れるとまで……)
ピンチ! 圧倒的ピンチッ!
この状況で彼に“ヤバンザメを具に使った焼きそばを提供する”など、もはやギャンブルに他ならないッッ!!
もしも彼がその焼きそばを食べて“マズイ”と言えば、こんな小さな海の家、簡単に人気がなくなって潰れてしまうであろうッッ!!
とはいえ、ここで“焼きそばは提供できません”と伝えたなら、彼の機嫌を損ねてしまうのも自明の理ッ!
もう残された道は、ジェロニモにヤバンザメ焼きそばを提供することだけであるッッ!!
果たして、この海の家の運命や如何にッッ!!
次回、「実食!ワタルvs美食家ッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]ウィンド大陸料理評論(著:山原ジェロニモ)……異世界転生出版
[2]正しいサメの捌き方……異世界転生出版
[3]本当は美味しいサメの食べ方……異世界転生出版
[4]目からうろこ!宮本武蔵名言集!!……異世界転生出版




