第94話 「もう帰れ!リベリオンの暴走ッ!」
前回までのあらすじ! スカイ王国繁華街の一角にオフィスを構える巨大総合出版社、その名も“有名社”! そこに編集者として勤めるマークはある日、漫画の持ち込みをしてきた新人“†レクイエム†”の原稿をチェックすることになった! しかし彼女の持ち込んできた原稿は、あまりにもクレイジーな内容であった……!
というわけで、引き続きレクイエム(リベリオン)の持ち込み原稿をチェックし続けるマーク!
(うーーーむ、褒められる部分が皆無だ……! 絵もシンプルに下ッッッ手くそだし、ストーリーもテンプレ中二すぎて面白みがない……。もういいや、やっぱり適当にアドバイスでも言って帰ってもらおう)
「そうですね……もしもレクイエムさんが少年誌での連載を狙っているのであれば、もう少しコメディ調のシーンを入れた方が良いと思いますよ」
「そ、そうですか……?」
「はい。シリアスな作品でも、要所要所にギャグを入れた方が、メリハリがつきますからね」
「なるほど! たしかにそうですね!」
レクイエム(リベリオン)はそう言いながら懐から手帳を取り出し、メモをし始めたッ!
(ふむ、しっかりとメモを取るところは好印象だ。向上心はあるらしいな)
「具体的にはどういったギャグを入れればいいんでしょうか……?」
彼女は手帳を片手に尋ねてくるッ!
「具体的に言うなら、例えば……ほら、このシーンなんかいいと思いますよ!」
マークはそう言って、1枚の原稿に目を付けたッ!
「この、主人公が驚いて思いっきりコーヒーを吹き出しちゃうシーン! こういうのはコミカルな感じが出ていいと思います! 主人公に愛着も湧きますしね!」
「……いやそれ敵に腹を切られた主人公が吐血するシーンです」
(わかるかそんなもん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
マーク、驚愕ッ! 圧倒的驚愕ッッッ!!!
「そ、そうだったんですか……これは失礼しました……」
(どんだけ絵下手なんだよ! こんなのどう見たって口に含んでたブラックコーヒーを吹き出すシーンだろ!)
彼は心の中で猛烈に毒づきながらも、必死にアドバイスを考えるッ!
「それじゃあ……とりあえず、主人公にもっと個性を持たせてみませんか?」
「個性……ですか?」
「はい、そうです。このままだと主人公の特徴が“復讐に燃える青年”だけですから。好きなもの、嫌いなもの、趣味、そういった個性をしっかりと設定して、本編で活かしていきましょう」
「なるほど、参考になります!」
彼女は快活にそう言って、必死にメモを取ったッ! そしてハッと閃いたような顔で口を開くッッ!!
「例えば、主人公の好きなものは“赤い血”、嫌いなものは“晴れ渡る青い空”、趣味は“音を消して歩く”とかでどうですか?」
「いやそういう典型的なダサいキャラはやめましょう……」
そしてマークは頭を抱えたッ!
(クソ……絶望的だ……この人絶対ヤバい人だ……早急に帰ってもらおう……)
「レクイエムさん……あなたのためを思って、この際はっきりと言わせてもらいますが……あなたに漫画家としての才能はありません……」
「……………………………………………………ええぇぇえっっっ!?!?」
マークの言葉を聞いて驚愕するレクイエム(リベリオン)ッッ!! というかもっと早く気付けッッッ!!!
「ぐ、具体的にどこが駄目なんですか!?」
「まず、絵が下手ってところですかね……」
「いやもう、そこは“そういう画風”で押し通しましょうよ! 実際プロの世界でも“そういう画風”ってことで押し通してるなんかよくわかんない作家、いっぱいいるでしょ!」
(どんな偏見だよ!!!!! いねぇよ!!!!!)
「他にはどこが駄目なんですか!?」
「キャラとかストーリーとかが、中二すぎるんですよね……」
すると彼女は突然笑い出したッッッ!!!
「ハハハ、いやいやいや編集さん、流石にこの漫画が“中二”はないでしょ! フフフ、こんなので笑っちゃった」
(いやボケてねぇよ! アンタの作品はバリバリに中二ど真ん中だろ!)
「最近多いんですよねー、シリアスな作品ってだけで“中二”って馬鹿にする風潮。でもこれ、そういう作品じゃありませんから。本当に真面目に取り組んで描いた作品ですから」
ドヤ顔で語るレクイエム(リベリオン)ッ!
(真面目に取り組んでるならネーム状態で持ち込みに来てしまうなよ!!!)
マークの中のイライラゲージは、もはや爆発寸前であるッッ!!
「こんなに笑っちゃったの、友人としりとりしてて相手が“グミ”って言った後に私が“みかん”って返して負けちゃったとき以来ですよ」
(めちゃくちゃ笑いの沸点低いじゃねぇか!!! しりとりに負けて笑っちゃうって、結構なんにでも笑うタイプのやつじゃねぇか!!!)
「分かりました、じゃあ次回作はもっと大衆向けな作風にします」
「大衆向けって、口で言うのは簡単ですが、実際に考えるのはかなり難しいですよ」
マークは彼女の能天気さに呆れながら言ったッ! するとレクイエム(リベリオン)が自信満々に口を開くッ!
「そうですねぇ、例えば“清掃員として働く19歳の青年がひょんなことから料理の楽しさに目覚め、最終的に宇宙から飛来してきた敵とダンスバトルをする”というコンセプトでどうでしょう」
(なんだそのゴリゴリのマイナー路線!!!!! せめて料理バトルであれよ!!!!! どこからダンス要素持ってきたんだよ!!!!!)
「というわけで! 早速私は新作の執筆に取り掛かってきます! また近いうちにお会いしましょう!!」
言うが早いか、パッと立ち上がって部屋を出ていこうとするレクイエム(リベリオン)ッ! この瞬間、マークの堪忍袋の緒が切れたッッッ!!!
「もう来るなーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
有名社のオフィスビルに、マークの悲痛な叫び声がこだまするッッ!!
(もう嫌だ!! もう編集者やるの嫌だ!!!)
彼の頬を伝う、一筋の涙ッッ!!
しかしマークよ、へこたれてはいけないッ! きっと明日は、良いことがあるはずだッッッ!!!
――というわけでリベリオン(ペンネーム“†レクイエム†”)は、有名社を出禁になったのであった……ッッッ!!!
めでたしめでたしッ! 圧倒的めでたしッッ!!
次回、「海の家!ワタル、バイトをするッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]異世界向け職業ガイド……異世界転生出版
[2]図説・よく分かるいろんなお仕事~編集者編~……異世界転生出版




