第90話 「激突!仁王vs悪鬼ッ!」
前回までのあらすじ! 邪々美からお茶会の招待状を受け取ったワタルは、単身邪道院邸へと乗り込んだ! そこで久方ぶりに邪道院家当主・邪道院 邪々丸と会う! そして彼は唐突に、ワタルに攻撃を仕掛けてくるのであった!
「宝剣を譲る条件は……この私を倒すことだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言って空気椅子の状態から一気に跳び上がった邪々丸は、その巨体からは想像できないほどのスピードでワタルに蹴りを放ったッッッ!!!
「武ッッッッッ!!!!!」
ワタルはその卓越した反射神経を用いてとっさに横へ転がり、相手の蹴りを避けるッ!
ズドンッッッ!!!
大砲でも当たったのかと錯覚してしまうほどの衝撃によって、先程までワタルが座っていた椅子が粉々に砕けたッ!
「邪々丸さん、何故俺と闘う必要があるのですかッ!?」
流れるような動作でファイティングポーズを取りながら問いかけるワタルッ! すると邪々丸はニヤリと笑って答えたッッ!!
「それはね……君が、とても強そうだからだ!!!!!」
「なるほどッッッ!!!」
ワタル、納得ッ! “武”の道を進むものであれば、“強い相手と闘いたい”と考えるのは当然のことであるッ! 思えば、ワタルがかつて魔王と闘った動機も“自分よりも強いやつと闘いたいから”であったッ!
「初めてワタル君を見た時……私は心が躍ったよ……久しぶりに、私と匹敵する能力を持った武人と会えたのだからね!!!!!」
そう言いながらワタルに接近してくる邪々丸ッ!
「さあ、全力で行かせてもらうぞ!!!!!!!!!!」
そして彼は勢いよく振りかぶり、ワタル目がけて強烈な正拳突きを放ったッッッ!!!
「喝ッッッ!!!」
対するワタルは体をぐにゃりと曲げ、独特な姿勢で邪々丸の攻撃を避けるッ!
「!?」
これには思わず邪々丸も驚愕ッ!
ここで読者の皆様に説明しよう! ワタルのこの動きは、アメリカ合衆国西部のイリノイ州で編み出された拳法、その名も“軟体スライム拳”であるッ!
(※軟体スライム拳……1897年、イリノイ州に住む空手家テイラー・レナーが考案した技。体をスライムのように柔軟に曲げながら戦う。相手の予測がつかない独特な動きからの攻撃が強みだが、鍛え上げられた体幹と柔軟な関節がなくては上手く扱えない。諸説あるが、テイラーはインドの“ヨガ”や中国の“酔拳”から着想を得てこのスライム拳を開発したと言われている)
そこからワタルは独特な動きで相手の懐に潜りこみ、鳩尾にアッパーを叩き込んだッ!
――だがッ!
「ぬうん!!!!!!!!!!」
ワタルのアッパーを意にも介さず、両手を合わせてスレッジハンマーを振り下ろす邪々丸ッッッ!!!
「武ッッ!?!?」
相手の強烈な一撃をくらったワタルは、勢いよく地面にたたきつけられたッッ!!
ズガンッッッ!!!
凄まじい衝撃により、大理石製の床に巨大なクレーターが完成ッ!
「どうしたワタル君! 君の実力はこんなものか!?」
「まだまだッッッ!!!」
ワタルはそう叫んで素早く立ち上がると、後ろへ跳んで邪々丸から距離を取ったッ!
「本番はここからだッッッ!!!」
「ふっ、そうこなくては!!!!! ……ん!?」
その時、邪々丸はとある“違和感”に気付くッ! そしてパッと自分の手元に視線を移すとッッ!! なんとッッッ!!!
両腕が、赤い紐によって固く縛られていたッッッ!!!
「なっ、何ィーーー!?」
読者の皆様の中に、“卓越した洞察力”をお持ちの方はいらっしゃるだろうか!? もしもいたなら、今の一瞬で何が起こったのかを理解できたかもしれないッ!
実はワタルは、邪々丸がスレッジハンマーを叩き込んだあの瞬間に、学ランの内ポケットから取り出したハチマキを相手の両腕に結び付けていたのだッッッ!!!
マジシャン顔負けの巧妙なテクニックッ! これによって邪々丸は、両腕が拘束されてしまったッ!
もちろんこのハチマキは、第51話で登場したあの“爆熱乃破血魔鬼”であるッ!
「ぬう、やるな!!!」
ここに来て初めて焦ったような表情を見せる邪々丸ッ! 必死にハチマキを引きちぎろうと両腕に力を込めるが、なかなかうまくいかないッ!
(※“爆熱乃破血魔鬼”が特殊な合成繊維でできており、並の人間の力では引きちぎることが出来ないということはあまりにも有名である)
「今だッッッ!!!」
言うが早いか、ワタルは瞬間最高時速300キロという桁外れなスピードで一気に飛び出し、邪々丸に拳の連打を浴びせたッ!
「ぐはぁ!!!!!!!!!!」
その攻撃をまともに喰らってしまった邪々丸は、巨体をぐらつかせながら後ずさるッ!
「どうだッ!」
「まだまだぁ!!!!!!!!!!」
邪々丸は憤怒の形相で全身に力を込め、思いッッッッッきりハチマキを引きちぎったッッ!! そしてッッッ!!!
「ふん!!!!!!!!!!」
目にも止まらぬスピードで足を動かし、ワタルの背後に回るッ!
「何ィッッ!?」
ワタル、驚愕ッ!
「邪道院家には100の暗殺術が存在する!!! これはその内の1つ、“千里馬足”だ!!!」
(※千里馬足……邪道院家に伝わる100の暗殺術の内の1つ。魔力を足の筋肉に集中させることで、瞬間的に凄まじいスピードで動けるようになる。名前の由来は、その動きがまるで千里を走る馬のようであったということから)
そこからワタルの背中目がけて鋭い手刀を繰り出す邪々丸ッ!
しかし、ワタルも負けてはいないッ!
「武ッッッ!!!」
再び軟体スライム拳を用いて体をぐにゃりと曲げ、相手の手刀を間一髪で避けたッ! 更にその体勢からぴょんとジャンプし、邪々丸の顔面に蹴りを放つッ!
「くっ!!」
スパァァァンッッッ!!!
邪々丸は素早くガードの体勢に入り、ワタルの跳び蹴りを止めたッ!
「くそ、やるなッッ!!」
スタリと着地したワタルは、床を強く蹴って後ろに跳んだッ! だが邪々丸は、ワタルに距離を取らせることを許さないッッ!!
「させるか!!!!!!!!!!」
丸太のように太い左腕をグンと伸ばし、ワタルの学ランの裾を掴むッ!
そして右腕を大きく振りかぶり、殴りかかったッッ!!
ワタル、危うしッッッ!!!
次回、「逆転の一手! 起死回生の爆熱猛怒ッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]世界空手紀行~アメリカ西部編~……異世界転生出版
[2]よく分かる近代の合成繊維……異世界転生出版
[3]邪道院家暗殺術100選……異世界転生出版




