第71話 「再戦!逆襲のクラックッ!」
前回までのあらすじ! ワタルvsゴリラの壮絶なラップバトルの結果は、惜しくも引き分け! するとその時、彼の前に邪道院邪々美が現れた! なんとこの島は無人島ではなく、実は彼女の所有地だったのだ! しかもゴリラも彼女のペット! そんなわけでワタル達は、邪々美のおかげで無事にスカイ王国に帰還することに成功するのであった!
そして数日後ッ! 時刻は午前8時ッ!
ワタルはアリアに命じられて、繁華街の朝市に買い出しに来ていたッ! たくさんの屋台が立ち並ぶ朝市は人でにぎわっており、活気があるッ!
「まったく、アリアも人使いが荒いぜッ! それにしてもサイクロプスの耳を買ってこいだなんて……そんなもの一体何に使うんだッッ???」
愚痴を言いながら屋台を見て回るワタルッ! するとその時、遠くで悲鳴があがったッ!
「キャーーー!!!」
「武ッッ!?!?」
とっさに反応するワタルッ! すると声がした方向から、一人の男が人ごみをかき分けながらやってきたッ!
「久しいな……ワタルよ……」
「お、お前はッ!」
肩まで無造作に伸ばした髪ッ! 筋肉質で、かつしなやかな肉体ッ! インドの僧侶のような風貌をしたその男の名はッ!
「――クラックッッッ!!!」
そうッ! クラックッ! 彼はスカイ王国の死刑囚だったが数か月前に脱獄ッ! 一度はワタルに捕らえられるも脱走ッ! そして今日まで行方知れずだったが……今、自分から姿を現してきたッッ!!
「な、なぜここにッ!?」
「リベンジマッチ、というやつだよ……」
そう言うクラックの目は大きく見開かれているが、その瞳に色は宿っていない! すなわち彼は盲目なのだッ! その代わりに聴力がずば抜けて発達しており、“音”を敏感に察知して戦うことが出来るッ!
非常に厄介な相手だッ!
「皆ッッッ!!! 逃げろッッッ!!!」
ワタルが閻魔の形相で叫ぶと、周りにいた民衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていくッ!
「さあ……始めるか……!」
そう言うとクラックは両手を大きく広げ、独特なファイティングポーズを取ったッ!
「私は負けたまま、というのが嫌いでね……リベンジ、させてもらうよ……!」
「負けず嫌いかッ! 気持ちは分かるぞッ!」
腰を低く落とし戦闘態勢に入るワタルッ!
そしてワタルとクラックは、人気がなくなった朝市でじりじりと睨みあったッ! いや、正確にはクラックは盲目なので、“睨みあった”という表現は正しくない気もするッ! まあいいかッッッ!!!
「……いくぞ!」
先に動いたのはクラックッ!
大地を一気に蹴り、ワタルとの距離を詰め始めたッ!
それに対してワタルはッ!
「破ッッッッッ!!!!!」
両腕を前に突き出し“受け”の構えに入ったッ! あの構えは東京に古くから伝わる武術“流止”の構えに他ならない!!!
(※流止……かつて江戸で柔道を学んでいた青年が編み出した技。両腕を前に突き出して敵の攻撃を受け止め、そこから流れるように投げ技に移行するという攻防一体の技。青年はこの技で、江戸に住む伝説の妖怪“天狗”を倒したと言われている。また、相撲にも似たような技があり、この“流止”が原点なのではないかと言う説が存在している。やはり、柔道と相撲には切っても切れない繋がりがあるようだ)
「うおおぉぉ!」
凄まじいスピードで接近してくるクラックッ! しかしワタルは焦ることなく相手の裾を掴み、そこから“一本背負い”を行ったッ!
「!?」
驚愕するクラックッ! 天と地が逆さまになるようなこの感覚は、目が見えない彼にとっては恐怖以外の何物でもないッ!
そしてドシンと地面に叩きつけられたッ!
「ぐはぁ!」
「一本ッ!」
これが柔道の公式大会であったなら、もう既にドクターストップがかかっているところであるッ!
しかしこれは“試合”ではないッ! “死合”だッッ!!
ルールも、ドクターストップも、存在しないッッッ!!!
「まだだ!」
クラックは地面に倒れた姿勢から一気に立ち上がり、ワタルに裏拳を叩きこむッ!
「クッ!」
寸での所で受け止めるワタルッ! しかしクラックの裏拳の衝撃は、想像を絶するッッ!!
痛いッッッ!!!
「はあぁ!」
クラックはワタルに休む隙を与えず、すぐさま右足で蹴りを繰り出したッ!
ドスンッ!
クラックの蹴りはワタルの腹筋にクリティカルヒットッ! しかし忘れてはいけないッ! ワタルの腹筋はコンクリートよりも固いのだッッッ!!!
故にこの時ダメージを受けたのは、ワタルではなくクラックの方だったッッッ!!!
「~~~!!!」
「驚いたか? 中途半端な蹴りをすれば、返り討ちにあうぞッッッ!!!」
そしてワタルは腰をひねり、クラックの顔面目がけて正拳突きを放ったッ!
「!!!!!」
その拳をもろにくらったクラック、時速180キロで吹っ飛ぶッ!
「うがあぁぁぁ!」
そのまま屋台に激突ッ! もはや息も絶え絶えだッッ!!
「もう諦めるんだッッッ!!!」
ワタルはそう言うと地面に両手をピタリと着けた! あの姿勢は“クラウチングスタート”!!
「奮ッッ!!」
彼はその姿勢からダッシュをし、クラックとの距離を一気に縮めていくッッッ!!!
だがッ!
クラックは、諦めてなどいなかったッ!
「……ふふ……!」
ワタルがとどめの一撃を繰り出そうとクラックの半径1メートルに入った瞬間ッ! 彼はバッと立ち上がり、ワタルの懐に潜りこんだッ!
「ッッ!?」
「くらえ……」
そしてクラックはワタルの胸元目がけて、“はっけい”を放ったッ!
パンッッッ!!!
肌と肌がぶつかる小気味の良い音が周囲に響くッ!
――するとッ!
「……ッ!」
突如、ワタルは息ができなくなったッッ!!
「これが私の最終奥義……“心臓止”だ……」
なんだそれはッッッ!!!
「はっけいを用いて敵の体内に魔力を注入し、心臓を止めるという技だ……今貴様の心臓は、私の魔力で覆われている。強制的に動けなくしているんだ」
なるほどッッッ!!!
「……がはッッ!!」
全身に血液を循環させる器官である心臓を止められてしまったワタルは、苦しそうに息を吐きながらドサリと地面に倒れたッ!
「……貴様の心臓の音が止まったな……」
クラックはその発達した聴力を用いて、ワタルの心音が完全に停止したことを確認したッ!
次回、「絶命!ワタル、閻魔大王と邂逅ッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]江戸っ子の粋な伝統武術全集……異世界転生出版




