第49話 「爆音演奏!アリア、再びドラムを叩くッ!」
前回までのあらすじ! 引き続き脱獄囚を捜索するワタルとアリアは、スラム街でクラックと遭遇! 早速戦闘を開始するワタルであったが、盲目でありながら俊敏な身のこなしで戦うクラックに苦戦! しかし彼には、作戦があった! そしてワタルが合図を出すと、アリアがおもむろに黒いバッグを取り出す! その中に入っていたのは、なんと“ドラムセット”であった――!
「……」
「……」
「……」
カチャカチャ……カチャカチャ……
一同、沈黙ッ! 昼下がりのスラム街に、ドラムセットを組み立てる音がむなしく響き渡ったッ!
「……え、ドラムセットが組み終わるまで待った方が良いのか?」
しびれを切らしたクラックが口を開くッ!
「あ、はい。もうちょっとでセッティング終わるので、待っていてください」
「そうか……」
そして数秒後! アリアはついに、ドラムセットの組み立てを完了させた!
「できましたよワタルさん!」
「よしッッ!! やるぞッッ!!」
「はい!」
彼女は元気よく返事をして、ドラムセットの前に立つ! その両手には、木製の細長いスティックが握られていた!
「貴様ら……一体何をする気だ?」
盲目のクラックは油断することなく、腰を低く落として戦闘態勢を取るッ!
するとアリアは両腕を大きく振り上げて、口を開いたッッッ!!!
「決まっているでしょう! 演奏するんです!」
そして豪快かつ繊細な動作で、ドラムの演奏を開始するアリアッッッ!!!
ドジャアアア~~~ンッッッ!!!
ドンドンドンッッッ!!!
パシンパシンパシンッッッ!!!
街中に響き渡る、彼女の超絶技法によるドラムの単独演奏会ッ! おお、なんという事だッッ!! 先ほどまでここはみすぼらしいスラムの街だったというのに、アリアが演奏をはじめたことで雰囲気が一変ッッッ!!!
ロックバンドのコンサート会場と化したッッッ!!!
「ふん、なるほどな……ドラムで大きな音を出すことにより、私の行動の邪魔をしようと考えたわけか……」
クラックが苦虫を噛み潰したような表情で言うッ! 確かに、盲目である彼にとって“周りの音が聞こえない”ということは、大きな痛手であるッ!
「だが……この程度で私の動きを封じたつもりになるなよ!」
クラックはそう叫ぶと、素早い動きで一気にワタルとの間合いを詰めたッ! そして目にも止まらぬ早業でワタルに手刀を繰り出すッ!
「やるなぁッッッッッ!!!!!」
流れるような体さばきでクラックの手刀を受け止めつつ、カウンターで正拳突きをするワタルッ!
「くっ!」
その正拳突きを間一髪で躱したクラックは、バク転を用いてワタルとの距離をとった!
「だが、俺の作戦はこんなものじゃ終わらねぇッ! アリア、やれッッ!!」
「任せてください!」
そう言うと、アリアの演奏が更にヒートアップッ! ダブルストロークを巧みに使ったクレイジーな8ビートのメロディーが、聞く者の心を魅了するッ!
と、その時ッ!
「なんだなんだ?」
「どうした? 誰かドラムでも叩いているのか?」
「おっ、あの子が叩いているのか! やるじゃねぇか!」
彼女の演奏を聞いたスラム街の人々が、次々とワタルたちの元に集まってきたッ!
「いいぞアリア! その調子だッ!」
どんどんと調子を上げていくアリアッ! 第17話で開花した彼女のドラムの才能は、もはやとどまるところを知らないッ!
「おお……素晴らしい演奏だ……」
「な、涙が……止まらねぇ……」
「か、彼女は……この世界に舞い降りた天使のドラマーだ……!」
心臓を直接叩きつけてくるかのようなダイナミックな彼女の演奏に、人々は釘づけッ! 中には泣き出すものまで出始める始末ッ! 鼓膜が、心が、遺伝子が、アリアのドラムに歓喜しているのだッ!
そして気が付けばッ!
――踊り始めたッッッ!!!
誰からともなくッ! アリアのドラムに心動かされた人々がッ! 思い思いの振り付けで、踊り始めたのだッッッ!!!
驚くべきことにッッッ!!! アリアは、スラム街をものの数分でダンスホールへと変貌させたのであるッッッ!!! あとはミラーボールさえあれば完璧だッッッ!!!
「な、なんだ……何が起こっている……?」
その異様な光景に、クラックは冷や汗が止まらなかったッ! アリアのドラムの音が、人々の楽しそうな笑い声が、その雑踏が、クラックの鼓膜を揺さぶるッ!
「う、うるさい……うるさい! うるさい! うるさいぞ!!!」
苛立ちがピークに達したクラックは、ついに怒鳴り声を上げたッ! だがその声は、周囲の喧騒によってかき消されていくッ!
その時、彼の耳にワタルの声が優しくこだましてきたッッッ!!!
「お前も……踊ればいいじゃねぇか……ッッッ!!!」
「~~~~~~!!!」
ワタルの言葉は、まさしく悪魔の囁きであるッ!
しかしクラックは、不思議なことにその言葉に抗うことが出来ないッ!
先程からずっとアリアの演奏を聞き続けたことで、彼の心の奥底には“踊りたい”という感情が生まれてきていたのだッ!
「ば、馬鹿な……この私が……踊る……だと……!?」
「そうだ……ッ! この“美しき爆音”に、身をゆだねろ……ッ!」
「や、やめろ! 俺は踊らない! 絶対に踊らないぞ!」
言うまでもなく、戦闘中に踊りだすなど正気の沙汰ではないッ! 敵に大きな隙を晒すことになってしまうからだッ!
……だがッッッ!!!
ドジャアアア~~~ンッッッ!!!
ドンドンドンッッッ!!!
パシンパシンパシンッッッ!!!
鼓膜に焼き付くアリアのドラムが、クラックの“踊りたい”という欲望をかきたてるッ! 一度心に火がついてしまえば、消すことは容易ではないのだッ!
そしてッ!
“その時”は訪れたッッッ!!!
「う、うおぉぉぉ!!!」
なんとッ!
“踊った”ッッッ!!!
クラックがッ!
とうとう我慢の限界を迎え、弾むリズムに身をゆだねて踊り始めたのだッ!
腕をブンブンと振りッ!
頭を縦に振りながらッ!
独特なステップで、上機嫌に踊っているではないかッ!
「今ですワタルさん!」
「応ッッッッッ!!!!!」
ダンスにより生じたその隙を、当然ワタルが見逃すはずがなかったッ!
「喝ッッッッッ!!!!!」
猛烈な勢いと共に繰り出される正拳突きッ!
「し、しまった!」
空を切り裂く拳の音に気付いたクラックであったが、時すでに遅しッ! 圧倒的遅しッッッ!!!
その正拳突きは、クラックのみぞおちを的確にとらえたッッッ!!!
「ぐわあぁぁぁ!」
時速213キロで吹き飛ぶクラックッ! 目が見えない彼にとって、これほどの超スピードで宙を吹き飛ばされるというのは、恐怖以外の何物でもないッ!
果たしてクラックの生死や如何にッッッ!!!
次回、「ワタルが爆発!火薬武術の使い手、ガウラあらわるッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]今日から実践!ドラムの正しい叩き方!……異世界転生出版




