第21話 「発覚!黒バラ盗賊団の真実ッ!」
前回までのあらすじ! ワタルは襲い掛かってきた黒バラ盗賊団の3人を見事倒した!! そしてその場から逃げ去ろうとする彼らを、ワタルが呼び止めた!!!
「待てッッッッッ!!!!!」
ワタルは仁王の形相で黒バラ盗賊団の3人を呼び止めたッ!
「「「!?」」」
ビクリとしながら立ち止まるブレイドたちッ! そしてワタルはこう続けるッッ!!
「お前たちに……聞きたいことがあるッ!」
「な、なんだ……!」
ブレイドは怯えながら言ったッ!
「ジョニーの俊足、マリーの氷魔法、そしてブレイド、お前の近接戦闘術……どれも一芸として非常に秀でているものだったッッッ!!! なぜだ、なぜその能力を用いてまともな仕事をしようとしないッッッ!!!」
そうッ! ワタルは本気で黒バラ盗賊団の3人の人生を心配していたッ! しかし考えてみれば当然のことであるッ! 盗みは犯罪なのだから、盗賊なんてとっととやめるべきだッッ!!
「そ、それは……」
ジョニーは顔を曇らせたッ!
「訳ありかッ! 相談に乗ろうッ! 話せッ!」
ワタルは憤怒の形相でそう叫んだッ!
気圧されたブレイドはしばしの間逡巡し、そして意を決したように口を開くッ!
「……分かった……ついて来い……!」
ワタルがブレイドたちに連れられてやって来たのは、スカイ王国のスラム街の一角に位置する廃倉庫であったッ!
「ここが、俺達の本拠地だ」
「いいの? ブレイド。こんな暑苦しいやつを私たちの倉庫に連れてきて」
「聞こえているぞッッッ!!!」
「いいんだ、マリー。俺達を倒したこいつなら、もしかしたら“アイツ”も倒せるかも知れない」
「“アイツ”って、まさか……」
「おいッッッ!!! “アイツ”って誰だッッッ!!!」
「だめだよ兄貴! こいつは部外者だ!」
「わかっているジョニー……だが今は藁にもすがりたい気持ちなんだ……」
「そりゃあそうだけどさ……」
「おいッッッ!!! 無視するなッッッ!!!」
するとブレイドは突然ワタルの方を向き、語りだしたッ!
「よし、それじゃあ話そう。実を言うと、元々は俺達もまともな職に就いていたんだ」
「ほう……なのに盗賊団になったのかッ!」
意外な事実を聞いたワタルは少し面食らったッ!
「ああ……金が必要になったからな。普通の仕事ではどうあがいても稼げないほどの金が」
「……ッ!?」
話の展開の雲行きが、徐々に怪しくなっていく!!!
「どこから話すべきだろうな……俺達3人は、スラム街の生まれなんだ。そうは言っても、数年前までは普通に暮らせていた。あの男……ウィルソンがスラム街の家賃を急に値上げするまではな……」
「ウィルソン……ッ?」
聞き慣れない人名の登場に首をかしげるワタルッ!
すると今度は、ブレイドの説明を引き継ぐようにマリーが口を開いたッ!
「ウィルソン・パーカー。スカイ王国有数の資産家で、スラム街の土地を正式に所有している人物よ。そいつが数年前に、突然スラム街の家賃代を上げてきたの」
「な、なんだとッ!? 許せんッ!」
ワタルの正義の心に火が付いたッ!
「しかし、ウィルソンはなぜそんなことをッ!?」
「分からないわ。とにかく、この土地から私たちのことを追い出したいっていうのは間違いないわね」
「そうか……じゃあ引っ越せッッッ!!!」
「……スラム街は確かに治安も良くないし、健全な区域とは言えない。それでも、生まれ育ってきた場所よ。ここから離れるつもりはないわ」
「どのみち、ここ以外にオイラたちが住める場所なんて空いてないよ。もっと遠くの国へ引っ越すってなったら、それこそ莫大なお金がかかるし……」
そう言うのは俊足のジョニー!!
「ふむ。それもそうか……ッ!」
「だから俺達は黒バラ盗賊団を組織した。とは言え、貧乏人から盗んではいない。スカイ王国に何人もいる裕福な人間たちから少しだけお金を拝借して、それをスラム街の人々に分け与えている。そうやって家賃代をまかなってきたんだ」
ブレイドは腕を組みながらそう語ったッ!
「そうかッッッ!!! だが盗みが犯罪だということに変わりはないッ! 俺が直接そいつに会って来てやるッ! ウィルソンの家を教えろッ!」
こうなったワタルは誰にも止められないッ! 今の彼は直進しか知らぬ闘牛であるッ!
「ここから北に行ったところだが……気を付けろ、奴の豪邸には各所につわものの傭兵が配置されている。そいつらをかいくぐってウィルソンの元にたどり着くのは至難の業だ」
「今までオイラたちも何回も侵入しようとしたんだけど、一度も成功してないんだ!」
「やってみなくちゃわからねぇッ!」
言うが早いか、ワタルは廃倉庫を飛び出し、単独でウィルソン邸へ向かうのであったッ!
ウィルソン・パーカー邸ッ! スカイ王国有数の資産家である彼の家は、当然ながら豪邸であるッ! その敷地面積は約5万平方メートルッ! すなわち東京ドーム1個分の広さッ!
3階建ての家の周りには緑あふれる豪華な庭ッ! そしてその邸宅を囲むように、要塞と見紛うほどの巨大な壁が設置されていたッ! 高さ10メートルのその壁をよじ登って進むことは、まず出来ないッ!
そして邸宅への唯一の進入路は、鋼鉄の扉で閉ざされた正面の門のみッ! しかもそこには2人の屈強な門番がいたッ!
なるほど、これは確かに常人には突破不可能であるッ!
――そう、常人にはッッッッッ!!!!!
スラム街からノンストップで全力疾走してきたワタルは、ウィルソン邸の正面ゲートに到着すると一旦立ち止まったッ!
「ここがウィルソンの家かッ! でかいなッッッ!!!」
「ん? なんだね君は!」
門番の一人がワタルに声をかけてきたッ!
しかし彼はその声を一切意に介さず、きびきびとした動作で両手を広げて地面に着けるッ! そして左足を曲げ、右足を逆にピンと張ったッッッ!!!
あ、あの構えはッッッ!!!
間違いない、“クラウチングスタート”であるッッッッッ!!!!!
(※クラウチングスタート……短距離走における定番のスタート方法。長距離走でよく用いられるスタンディングスタートに比べると加速がしやすいが、その分両手の指で全身の体重を支える必要があるため、それなりの腕力が必須とされる)
そして、そのクラウチングスタートの姿勢からッ!
ワタルは、凄まじいロケットスタートをきったッッッッッ!!!!!
「おじゃましまーーーーーーーーーすッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ギュオオォォォォォンッッッッッ!!!!!
ワタルはその美しいランニングフォームのまま、正面ゲートの鋼鉄の扉をぶち破ったッッッ!!!
この瞬間の最高時速は約400キロッッッ!!!
「じゃあ今朝市場で泥棒に変装したジョニーを捕まえる時も、これをやればよかったのではッ!?」と考える鋭い読者の方もいるかもしれないが、否ッ!
あんなにたくさん人がいる場所でこの走りをしてしまったならば、周囲への被害は凄まじいものになっていたであろうッ! ワタルは優しい漢なので、そんなことはしないのだッッッ!!!
その時の光景を、あの場で門番をしていた男性(32)は後にこう語った。
「いや、なんていうのかな……正直、自分が情けなくなりましたよ。俺だって、傭兵としてそれなりに腕っぷしに自信があったから門番の仕事をしていたわけです。なのにあの青年は、俺の実力のはるか上を見せつけてきた。それも、“ただ走っただけ”で。
信じられないでしょ、こんなの。もしも許されるのであれば、彼にサインを頼みたいぐらいです。あんなスゲェもん見せられて……っていうか“魅せられて”、好きにならないはずがないじゃないですか」
次回、「登場!王国の陰の支配者、ウィルソンッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]徹底解説、スラム街の定義……異世界転生出版
[2]東京ドーム1個分の大きさとは……異世界転生出版
[3]正しいクラウチングスタートのやり方……異世界転生出版




