第137話 「驚天動地の最終回!さらばワタルッ!(Part8ッッ!!)」
人類の祖先である原始人がこの地球に誕生してから、彼らは数々の“気付き”を得た。
“服を着ないと恥ずかしい”。
“水を飲まないと喉が渇く”。
“火に近付くと暖かい”。
そして……“拳は、弱い”。
この地球に誕生し、生きるために狩りをしなくてはならなくなった原始人たちは、獰猛な野生動物たちを前にして気付いたはずだ。
「ああ、拳で奴らを狩ることはできない」、「私達の拳は、あまりにも弱い」と。
それから彼らは槍や弓などを開発し、マンモスやサーベルタイガーと戦った。
すなわち、“武器”の誕生である。
長く深い人類の歴史の中で、この武器は様々な進化を遂げた。
剣、刀、ハンマー、拳銃、そして核。動物を、あるいは人間を効率よく狩るために、数多くの武器が生まれた。
では、拳とは本当に脆弱なのだろうか?
いや、決してそんなことはないはずだ。
その証拠に、例えばプロボクサーのライセンスを持つ者であれば、その拳はナイフなどと同様の“凶器”として扱われる。無論限度はあるが、人間の拳は鍛え続ければ剣やハンマーに匹敵する武器となるのだ。
では……もし仮に、である。もし仮に、“核に匹敵する拳を持った人間”が現れたなら、どうだろうか。それでもまだ、人間の拳は弱いと言えるのだろうか。
多くの人間は、「そんな人間がいるはずない」と言って嘲笑するだろう。
だが。
我々は、知っている。“核に匹敵する拳を持った人間”がいることを。
だから断言できる。“人間の拳は弱くない”と。
「……行くぞ!」
「ああ……来いッッッ!!!」
互いにファイティングポーズを取ったまま、睨みあうワタルとデウスッ!
ワタルは赤いオーラを、デウスは黒いオーラを全身から出しながら、油断なく構えているッ!
「……はっ!」
先に動いたのは、魔王デウスであったッ!
力強く大地を蹴り、白いコートを風になびかせながら、ワタルの眼前へと向かうッ!
その時間、わずか0.00000000000001秒ッ!
痛みにきしむ体に鞭を打ち、限界を超えた力で脚を動かすッ!
そして彼は手刀を振り上げ、ワタルの喉笛を切り裂かんと迫ったッッ!!
この瞬間、ワタルは確信した。
次の攻撃が、“最後”になると。
では、最後の攻撃はどうするべきだろうか?
極限の緊張状態の中で、しかしワタルはあっさりと、あまりにも冷静に、決めた。
「――――――――――武ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
足は出来るだけ開き、腰を低く落とす。
大地をしっかりと踏みしめ、重心を安定させる。
利き手でない左手は、わきにピタリとつける。
腰は、勢いよくひねる。
右腕は、中に一本の鉄の棒が入っているようなイメージで、ピンと張る。
拳は、丁寧にグッと握る。
……何も、特別な技術など必要ない。
昨日まで初心者だったものが、空手道場に入門して初日に習うであろう、基本の技。
だが言うまでもない。この“基本”こそが大切なのだ。
この技の名を知らない者はいるだろうか?
いいや、いない。
誰だって知っている。
“正”しい“拳”を“突”く、と書く。
そう、その技の名は――
『正拳突き』であるッッッッッ!!!!!
ズドンッッッ!!!
「~~~~~っ!!!!!」
デウスの手刀は、あと数ミリのところでワタルの首には届かずッ!
代わりに、ワタルの正拳突きがデウスの顔面に直撃したッッ!!
“覇王風月”でガードされた顔面
vs
“爆熱猛怒”で強化された拳ッッ!!
勝敗はもはや、言わずもがなッッッ!!!
「あばよ、デウス……ッ!」
「ワ……ワタ、ル……!!」
長い……あまりにも長い歴史を経て、我々人類は遂に到達したッ!
“拳は、強い”ッッ!!
ワタルの拳は、もはや核にすら匹敵するッ!
その一撃を、デウスは、急所が集中する顔面にまともに喰らったのだッ!
(2度目だな……敗北を味わうのは……!)
次の瞬間、デウスの意識は“消えた”ッ!
気絶ではない……完全に、消えたッッッ!!!
そのまま勢いよく後ろに吹き飛ばされ、民家に激突ッ!
ドカーーーンッッッッッ!!!
衝撃で建物が爆発ッ!
デウスは雪崩のように崩れ落ちる瓦礫の下に埋もれながら、力なく目を閉じるのであったッッ!!
魔王デウス――死亡、確認ッッッ!!!
「はぁ……ッ! はぁ……ッ! はぁ……ッ!」
こうしてッ!
勝者は、決まったッッ!!
誰もが手に汗握る激戦の果てッッ!!
一挙手一投足に熱き思いを込めて闘った1人の漢が、勝利をもぎ取ったッッッ!!!
「うおぉぉぉぉぉーーーーーッッッ!!!」
右拳を天に突きあげ、腹の底から叫ぶワタルッッ!!
彼のその声は、スカイ王国中に――いや、ウィンド大陸全土に響き渡ったッッッ!!!
一方その頃ッ!
ウィンド大陸某所に位置する邪道院家の洋館にてッ!
身長4メートルを誇る最強の漢・邪道院邪々丸は、特注の超巨大ソファーに座ったまま静かに呟いたッ!
「ワタル君……勝ったか……!!!」
煌びやかなシャンデリアが照らす大広間に、呟きが轟く!
そして邪々丸はニヤリと笑い、髪を一斉に逆立てながら続けたッ!
「だが……本当の闘いは、ここからだぞ……!!!」
ワタルがデウスを倒した今ッ!
ウィンド大陸全土の猛者たちが、その重い腰を上げてワタルに挑もうとしているッ!
彼の闘いは――まだ、終わってなどいなかったッッ!!
次回、「驚天動地の最終回!さらばワタルッ!(Part9ッッ!!)」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]簡単解説・人類の進化の歴史……異世界転生出版
[2]図解・よく分かる武器の進化大百科……異世界転生出版