第131話 「驚天動地の最終回!さらばワタルッ!(Part2ッッ!!)」
前回までのあらすじ! ついに幕を開けたワタルの最終回! なんやかんやあって復活を遂げた魔王デウスが、魔物たちの大軍を引き連れてスカイ王国に攻め入ってきた! 果たして、ワタルはデウスを倒し、街の人々を救うことができるのであろうか!?
今、スカイ王国は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
街中の建物は煙を上げて燃え盛り、人々が我を忘れて逃げ惑う。
泣き叫ぶ子どもの声。もう終わりだと嘆く大人たち。
だがそんな状況にあっても、決して諦めない者たちがいた。
「おい、アリア! こっちにバケツをよこしてくれ!」
「はい!」
アリアは勢いよく頷くと、傍らの井戸から水が並々とたまった金属バケツを取り上げ、リベリオンに手渡した。
それを受け取った彼女は、鍛え上げた膂力でバケツを振り、燃え盛る家々に水をかけていく。
「くそ、キリがないな……!」
そう呟き、頬を滴る汗をぬぐうリベリオン。
街のあちこちで火事が起こっているので、バケツなどという小規模な方法では到底消火活動が追いつかない。
「頑張りましょう、リベリオンさん! ワタルさんは今、魔王軍のやつらと懸命に闘ってくれているはずです!」
「ああ、そうだな……」
リベリオンは不安な表情を隠そうともせず、弱々しく頷いた。
「しっかりしてください、リベリオンさん! 私達がここで踏ん張らないと、ワタルさんの努力が無駄に終わりますよ!」
そう言ってアリアはまた井戸から水のたまったバケツを取り出すと、リベリオンに手渡した。
「ああ……!」
リベリオンはバケツを受け取り、その水をまた火元にバシャバシャと掛けていく。
無論、この程度で火が弱まるはずはない。
――と、その時。
「ウグオォォォ!!!!!」
激しい叫び声が、2人の鼓膜を震わせた。
「え!?」
「なんだ!?」
慌てて声のした方を向くアリアとリベリオン。
そこにいたのはなんと、身長が3メートルはありそうな、巨大なオークであった。
豚のような顔面は怒りに硬直しており、口元から鋭い牙が2本突き出している。
手には地面から引き抜いた大木をそのまま使っているのかと思えるほど、武骨で大きな木の棍棒が握られていた。
「ニンゲン……コロス……」
片言な言葉を紡ぎながら、リベリオンたちにゆっくりと歩み寄ってくるオーク。
この化け物が一歩進む度に、地面がかすかに震えた。
「り、リベリオンさん……」
「さがっていろアリア、やるしかない」
リベリオンはそう言うと、腰の鞘から剣を引き抜いた。
(くそ、こんなところで闘っている場合では……!)
苦虫を噛み潰したような表情で眉間にしわを寄せるリベリオン。一刻も早く消火活動をしなければならないというこの状況で、敵の襲撃は大きな痛手である。
「やるしか、ないか……!」
覚悟を決めるように、深く息を吐くリベリオン。
――と、その時であったッッ!!
「ふん!!!」
彼女の背後から、一本の投げナイフが飛んできたッ!
「!?」
リベリオンの顔の横すれすれを通り過ぎていったナイフは、そのままオークの腹に直撃ッッ!!
「な、なんだ!?」
突然のことに困惑しながら後ろを振り返るリベリオンッ!
するとそこにいたのは――険しい表情で仁王立ちする、ブレイドであったッ!
ここでもう久々の登場すぎて忘れてしまったという読者の皆様に今一度説明しよう!
彼はかつてスカイ王国のスラム街を拠点に活動していた“黒バラ盗賊団”のリーダー、その名も“統率のブレイド”ッッッ!!!
剣の扱いは王国随一であり、特に投げナイフの手腕は他の追随を許さないレベルッッ!!
「やれやれ、スカイ王国がピンチのようだな……!」
彼は今茶色い厚手のコートに全身を包んでおり、手には黒のグローブをはめているッ!
そしてブレイドがおもむろにコートをひるがえすと、裏には大量の投げナイフが収納されていたッ!
そこからナイフを一本取り出し、再びオーク目がけて投擲するッ!
ビュンッッ!!
素早く空を切って進むナイフは、正確にオークの右肩に突き刺さったッ!
「ウゴォァアァ!」
醜い叫び声をあげ、握っていた棍棒を地面に落とすオーク!
「今だマリー! やれ!」
ブレイドが叫ぶのと同時に、オークの右後方の物陰から黒いドレスを着た女性が飛び出してきたッ!
そう、彼女は黒バラ盗賊団の紅一点、“妖艶のマリー”ッッッ!!! 氷魔法を得意とする美女だッッ!!
「いくわよ!」
マリーは長い黒髪を揺らして艶やかに微笑むと、オークに向かって右手を突き出したッ!
するとオークの足元が一瞬にして地面ごと凍りつき、身動きが取れなくなるッ!
「ジョニー、とどめを刺しなさい!」
叫ぶマリーッ!
するとどこからともなく「OK!」という無邪気な声が聞こえてきたかと思うと……オークのはるか後方から、白いYシャツに身を包んだ1人の青年がこちらへ疾走ってきたッ!
しかも、疾走るスピードが尋常ではないッ! 目で追うのがやっとというほどであり、形容するならばその動きは稲妻であるッ!
彼は黒バラ盗賊団の最年少、その名も“俊足のジョニー”ッッッ!!! 誰よりも早く疾走ることができるッッ!!
一瞬にしてオークの背後へと到達した彼は、その疾走る勢いのまま一気にジャンプッ!
そこから敵の後頭部に強烈な跳び蹴りをくらわせたッッッ!!!
「ウグアァァァァァ!!!!!」
悲痛な叫びをあげるオークッ!
その隙を見計らったマリーは、左手をバッと天に掲げたッ!
すると完全に戦意を喪失したオークの周囲を白い霧が包み……そしてッ!
パキイィィィィィン……ッッッ!!!
彼の全身を、巨大な氷柱が包み込んだッ! 驚くべきことに、マリーはこのオークを一瞬で氷漬けにしたのであるッ!
「よし、2人とも俺の元に集まれ!」
ブレイドが言うと、マリーとジョニーは嬉しそうにリーダーの元に集ったッッ!!
この一連の出来事を見たアリアは、呆気にとられながら口を開く!
「あ、あなた達は……!」
「久しぶりだな、2人とも!」
ブレイドはそう言って、白い歯を見せつけるようにニコリと笑うッ!
すると両脇のジョニーとマリーが口々に、
「スカイ王国の危機なんだ、なんでもかんでもワタルに任せるわけにはいかねぇよ!」
「ええ。彼にはスラム街の一件でお世話になったからね。恩返ししないと」
と言ったッッ!!
「さあ、アリアちゃんとリベリオンさんはワタルの元に行くんだ! 街の消火活動と逃げ遅れた人々の救助は、俺達がやっておく!」
ブレイドの言葉を聞いたリベリオンは、わずかな逡巡を見せた後に首を横に振るッ!
「だ、駄目だ! いくらお前たちでも――」
「心配するな!」
ブレイドが大声を上げて、彼女の言葉を遮ったッ!
「ジョニーの俊足とマリーの氷魔法があれば、建物の火事と人命救助は充分に対処できる! 俺はこの辺りに潜り込んだ魔王軍の兵士どもを片付けるから、お前たちは早く行け!!! 時間がない!!!」
「……理解った! 感謝する!」
リベリオンはそう言うと、アリアの手を引いてワタルが戦っている場所へと走り去っていったッ!
残された3人は、覚悟を確かめ合うように互いの顔を見つめ合うッッッ!!!
「マリー、ジョニー、行けるな?」
「勿論だぜ、兄貴!」
「ええ! いけるわ!」
そしてブレイドは両腕を天に突きあげると、空に向かって堂々と叫んだッッッ!!!
「よーーーし! 黒バラ盗賊団、本日限りの再結成だーーー!!! 街を、救うぞ!!!」
次回、「驚天動地の最終回!さらばワタルッ!(Part3ッッ!!)」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]知っておこう!火事の正しい消火方法……異世界転生出版