第108話 「ワタルvs三拳聖!激闘の幕開けッ!」
前回までのあらすじ! ワタルとアリアは最新家庭用ゲーム“フェニックスワールド”をプレイ! “戦闘は全て大喜利形式”というクセの強いシステムに四苦八苦しながらも、なんとか順調に課題をクリアしていく2人! だが、もう少しでストーリーも佳境というタイミングでまさかのゲームストップ! なんとここから先をプレイするためには、有料DLCの購入が必須だったのだ! まさかの驚きの展開に、ワタルは困惑するのであった!
それから数日後ッ! 時刻は午前5時ッ!
ワタルがいつものように時速150キロでスカイ王国の街中をランニングしていると、突如前方に人影が現れたッ!
「武ッッッ!?!?」
仁王の形相で驚愕し、必死に急ブレーキして立ち止まるワタルッ!
そして乱入者の1メートル手前で、ギリギリ足を止めることに成功したッ! よかったねッッ!!
「危なかったッッ!! あなた、けがはありませんかッ!?」
尋ねるワタルッ! 目の前の人物は、頭の上まですっぽりと黒いフードで覆っているため、どんな人相なのかもわからないッ! 非常に怪しい風貌だッ!
するとその人物は、おもむろにバサリとフードを脱ぎ捨てたッッ!!
「貴様が……伊藤ワタル、だな……?」
その人物の正体は、筋骨隆々の肉体を持った男性であった! 彫の深い整った顔と、長くてつやのある赤い髪を持っており! 身長はワタル同様2メートル! だが……彼は“人間”ではなかったッ!
「お前……魔族か……ッ?」
閻魔の形相で尋ねるワタルッ! そうッ! 目の前の男は、なんと肌の色が紫色だったのであるッ!
これは魔族の特徴ッ!
「その通り。この肌を見て、誰かを思い出さないか……?」
冷たい表情で聞き返してくる男性ッ! ワタルは、苦虫を噛み潰したような表情で口を開いたッ!
「魔王、デウス……ッ!」
「そこまで思い至るなら、俺が今ここに居る理由も分かるだろう」
「ああッ! お前は以前カルマが言っていた、“三拳聖”の1人かッ! デウスの敵討ちに来たっていうんなら、正々堂々と相手になってやるッッ!!」
彼はそう言って腰を低く落とし、ファイティングポーズをとったッ! さすがワタル、どんな状況でも戦う準備はできているッッ!!
「ふふ、正々堂々、か……」
男は含み笑いをしながら両腕を前に突き出し、独特な構えをとったッ!
「俺の名はジョー。かつて、デウスと共に武術を学んでいたものだ。三拳聖として、1人の友として、あいつの敵を討たせてもらう!」
そしてッ! 言葉を言い終わると同時に、ジョーは目にも止まらぬ動きで走り出したッ!
この瞬間の最高時速、160キロッ! しかし、我らがワタルも負けてはいないッ!
「武ッッッ!!!」
気合の雄叫びと共に凄まじい脚力で地面を蹴り、相手同様走り出すワタルッ!
この瞬間の最高時速――実に、200キロッ! プロ野球選手が投げるストレートなど軽く追い越してしまうほどの圧倒的スピードッ!
そして、時速160キロのジョーと時速200キロのワタルが激突したッッ!!
バチィィィンッッッ!!!
筋肉と筋肉が激しくぶつかり合う音が、早朝のスカイ王国にこだまするッッ!! 余談ではあるが、武闘家たちはこの音のことを“マッスルこだま”と呼んでいるらしいッッ!!
さて、物理学に精通している読者の皆様であれば当然理解できると思うが、時速160キロの魔族と時速200キロの人間がぶつかったならば、普通はどちらも衝撃に耐え切れず死ぬッ!
が――鍛え抜かれた究極の肉体を持つ魔族と、鍛え抜かれた究極の肉体を持つ日本男児がぶつかった場合は、物理学の小難しい数式など全て無意味になるのだッ!
「うおぉぉぉ!」
「破ァァァーーーッッッ!!!」
ワタルとジョーは、あれだけの猛スピードで激突したにもかかわらず無傷であったッ! そして互いに雄たけびをあげながら、悪鬼が如き形相で組み合っていたッ!
そんな2人の姿は、形容するならば相撲ッ! 巨漢の漢同士ががっぷり四つの状態になり、テクニックも何もない純粋な力比べをしているッッ!!
その闘いの一部始終を家の窓からのぞいていた一般人の男性(32)は、後に語った。
「いやほんと、驚きましたよ。筋骨隆々のでっかい人間と、同じく筋骨隆々の魔族の男が、こう……バシン! っていうのかな……いやもっと激しく、バチィィン!! って、ぶつかったんです。信じられないでしょ。あんなにデカい体してるのに、どっちもめちゃくちゃ速く走ってたんですから」
――ぶつかった後の話を、うかがえますか?
「ぶつかった後、ですか? まあ、お互いにこう、組み合って……そんで、あとは純粋な力比べ。これがまあ、大迫力でしたよ。どっちが勝つのか、さっぱり予想できなかった」
――結局、どっちが勝ったんでしょうか?
「そりゃあもちろん、人間の男の子の方でしたよ。こう、カッと目を見開いてね。そんで……“投げ飛ばした”んですわ。魔族の男を。びっくりしちゃいました。身長2メートルはありそうな巨漢の魔族を、スパーンと、投げ飛ばしちゃったんです。その後僕の奥さんにもこのことを話したんですけど、まったく信じてもらえませんでしたよ、はは。あ、でも闘いはまだ終わりじゃなかったんです。この後なんとね――」
「ドリャアァァァーーーッッッ!!!」
気合一閃ッ!
カッと目を見開いたワタルは、組み合っていたジョーを力任せに持ち上げ、そのまま勢いよく投げ飛ばしたッッッ!!!
「!?」
宙を舞いながら、驚愕するジョーッ!
(この俺が投げ飛ばされるなど……何年振りだ!?)
彼は空中で姿勢を制御し、華麗に地面に着地した!
「やるな、ワタル……!」
「まだまだいくぞッッ!!」
ワタルがそう叫んで走り出そうとした、その瞬間ッッ!!
「――ッ!?」
彼の背後に、突如人の気配がしたッ!
「誰だッ!」
素早く振り向くワタルッ!
そこにはなんと――全長2メートルはありそうな大剣を右手に持った、1人の男性が佇んでいたッ!
次回、「美しき斬撃!その名は大剣のクリフッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]よくわかる「マッスルこだま」……異世界転生出版
[2]高校生物理学入門……異世界転生出版