第105話 「前人未到の新章突入!三拳聖が来るッ!」
暗黒武術協会の本部は、ウィンド大陸某所の山の頂上に位置する。
暗黒武術協会の活動拠点、すなわち“支部”は世界中に存在するが、この“本部”の詳細な所在を知っている者はごくわずかだ。というのも、本部の場所は暗黒武術協会の幹部クラスにしか教えられていないのである。
そして、今日。この暗黒武術協会本部で、“緊急集会”が開かれた。
その理由は勿論、“ワタル抹殺作戦”の立案を行うためである。
巨大な円卓が置かれた広々としたホールに、4人の人物が集まった。1人は暗黒武術協会の会長、カルマ。そしてそれ以外の3人は、暗黒武術協会の中でもトップクラスに腕が立つ3人、その名も“三拳聖”と呼ばれる者たちである。
カルマが厳かに円卓の最奥席に座ると、それを合図として他の3人もそれぞれの席に着いた。
「さて……それでは、単刀直入に話そうと思う。わしは先日、実際にワタル君と手合わせをした。そんで分かったんだが……確かに、彼はデウス以上の実力を持っておる。彼を始末するには、君ら3人の力が必要だ」
そう言って、円卓に座ったメンバーをぐるりと見回すカルマ。
しかし3人は皆一様に黒いフードで頭をすっぽりと覆っているので、顔は見えない。
「1つ……質問をしてもいいか……?」
背中に大剣を背負った1人の男が、そう言って手を挙げた。その大剣はなんと全長2メートルという規格外の大きさを誇っており、一目見て彼が危険人物だと窺い知れる。
「なんじゃ?」
「ワタルを排除したとして……その、報酬は?」
「ふむ……」
カルマは腕を組み、思案顔で天井を見上げた。そして数秒後、微笑みながら口を開く。
「そうじゃのう……“次期会長の座”……で、どうじゃ?」
それを聞いたとき、大剣の男はフードの奥でニヤリと笑った。
「なるほど、面白い……」
すると今度は、別の三拳聖がおずおずと手を挙げる。
「あ、あのー……」
「なんじゃ? バリーよ」
バリーと呼ばれた男は、少しおどおどとしながら話し始めた。
「私は、その、ワタルという男を始末する、という意見そのものに反対です」
「ほう……さすがは慎重なバリーじゃな。不要なリスクは避けたい、ということかの?」
カルマが聞くと、バリーはコクリと頷く。
「なぜ我々を動かしてまで彼を始末する必要があるのです? デウスの敵討ち、という考えがあるのはまあ分かりますが。だからといってこんなことをしても、無駄に犠牲が増えるだけだ。事実、ゴードンは彼と決闘をして大きな怪我を負っている。ワタルのことは、この際もう放っておくべきなのではありませんか?」
バリーは、神経質かつ慎重な性格の男であった。不要なリスクは絶対に犯さない。常に安全な選択肢を選ぶ。それこそが彼の信条である。
と、その時。ここまで沈黙を守っていた最後の人物が、ゆっくりと立ち上がって口を開いた。
「バリーよ。お前のその病的なまでに慎重な性格は尊重している。その上で言わせてもらうが……お前は、恥知らずにもほどがあるぞ」
「……ジョー、確かにあなたは生前のデウスと親しかった。だから敵討ちをしたい気持ちは分かりますが……」
ガンッッッッッ!!!!!
バリーの言葉を遮るように、ジョーと呼ばれた男が勢いよく円卓を拳で叩く。すると木製の円卓にかすかなヒビが入り……驚くべきことに、その部分が“腐り始めた”。
「親しい、などという生ぬるいものではない。私は、デウスとは兄弟同然の仲だった。幼いころからずっと一緒に育ってきたのだ。魔王になるということで、あいつとは袂を分かつことになりはしたが……それでも、あいつは同胞だ。絶対に、敵を討たなくてはならない」
フードに隠れてその表情は見えなかったが、怒っていることは誰の目からも明らかである。
「……」
バリーは、それ以上言い返すことはなかった。
「……決まりじゃな。3人とも、今すぐスカイ王国へ向かってくれ」
「「「分かりました」」」
声を揃えて返す三拳聖たち。
次の瞬間、「ビュン!」という音と共に、その3人は瞬間移動で消えていった。
「やれやれ……」
部屋に1人残されたカルマは、椅子に深くもたれかかり息を吐く。
「円卓、取り換えんといかんのう……」
彼がそう呟くと同時に、巨大な円卓は瞬く間に腐敗していき、やがてボロボロと崩れ落ちた。ジョーが殴った箇所を起点として、“腐敗”が全体に浸食したのである。
「ジョー……お前さん、ちょいと危険すぎるな……」
カルマは目をぎらつかせながら、ニヤリと笑った。
一方その頃ッ!
肝心のワタルはと言うとッッ!!
「おーいワタルさーん! はやくしてくださーい! ゲームが売り切れちゃいますよー!!」
「おうッ! 分かったッッ!!」
ゲームを買うために、アリアと一緒に繁華街へと足を運んでいたッッッ!!!
「急いでくださいワタルさん! 今日は待ちに待った新作ゲーム“フェニックスワールド”の発売日なんですから!」
「分かってるってッ! そんなに焦るんじゃあないッッ!!」
果たしてワタルは、こんな状況下でゲームをやっていてもいいのだろうかッ!?
そして、アリアの言う“フェニックスワールド”とは一体どんなゲームなのだろうかッ!?
次回、「最新ゲーム!RPGをしようッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]スカイ王国最新ゲーム情報……異世界転生出版