第103話 「奮戦!ワタルvsゴードンッ!」
前回までのあらすじ! 暗黒武術協会の優秀なメンバーであったデウスの敵討ちをするため、そして小説を酷評された弟の恨みを晴らすため、ゴードンはワタルに決闘を申し込んだ! だが彼の攻撃は、全くと言っていいほどワタルを捉えることが出来ない! 果たして、ゴードンの運命や如何に!
「……まだ、やるかいッッッッッ?????」
地面にうつぶせで倒れるゴードンに向かって、仁王の形相で尋ねるワタルッ!
(つ、強い……! 想定以上だ、この男のパワーはっ!)
薄れゆく意識をギリギリのところで繋ぎ止めながら、ゴードンは必死に思考したッ!
(だが……こんなところで倒れるわけには……!)
「うおぉぉお!!」
彼は懸命に己を鼓舞し、立ち上がるッ!
「ほう、立てるのかッ!」
「まだ終わっちゃいねぇ!」
そしてゴードンは素早くワタルの懐に踏み込み、相手の右腕を両手でガシリと掴んだッ! そこから潜り込むように体を沈め、おんぶの要領でワタルを投げ飛ばそうとしたッ!
この技は――柔道で言うところの、“背負い投げ”に他ならないッ!
「はぁあぁあーー!!」
気合一閃ッ! 全身に力を込め、ワタルの腕を引っ張るッ!
――がッ!
(――う、動かない……!!)
その時、ゴードンの脳裏に浮かんだイメージは――巨岩ッ! 地面に深々と突き刺さった巨岩に縄を括りつけ、一生懸命引っ張っているかのようなイメージッ!
無論、うんともすんとも言わないッ! どれだけ引っ張っても、びくともしないッ!
(な、なんだこいつ!?)
説明しよう! 日々の鍛錬で筋肉を極限まで鍛えているワタルの体重は、現在なんと160キロッ! さらに彼の身長が約2メートルであるということも考慮すれば、その肉体的ステータスはチャンピオンレベルのボディビルダーのそれすらも凌駕しているッッッッッ!!!!!
故に、不可能ッ! よほど熟練した技の使い手であっても、ワタルを投げ飛ばすなど――圧倒的に不可能ッッ!!
「諦めろッッッ!!!」
「くっ……!」
ゴードンは苦虫を噛み潰したような顔でパッと手を離すと、軽快なステップでワタルから距離を取ったッ!
「流石ですワタルさん!」
「日ごろの鍛錬の成果だな、ワタル!」
口々にワタルを褒めるアリアとリベリオンッ! なろうヒロインとしての的確な仕事ぶりに、読者の皆様もご満悦ッッッ!!!
だが、ゴードンはそれでも諦めていなかったッ!
“硬手”によって極限まで強度を高めた両拳を構え、鋭い視線でワタルをにらむッ!
「やってやるぜ……!」
そして一気に前へ飛び出し、ワタルとの距離を詰めていったッ! そこから右腕を振りかぶり、ワタルにパンチを繰り出すッッ!!
――かと思いきやッッッ!!!
「おらぁ!」
「ッッ!?」
ゴードンは握りしめた右手をパッと開き、中に隠し持っていた砂利をワタルの顔面に浴びせたッ!
すなわち、目隠しッ!
「!? 卑怯な!」
思わず声を荒げるリベリオンッ!
「俺は暗黒武術協会のメンバーだ! スポーツマンシップなど持ち合わせていない! 卑怯な戦術だろうと、勝つためなら喜んで使ってやるぜ!」
ゴードンはそう言って笑うと、目をつぶっているワタルの顔面目がけて上段蹴りを放った!
ワタル、危うしッ! 危うし、ワタルッ!
――だがッ!
ワタルは両足を肩幅程度に開いて踏ん張ると、上半身を後ろにグッッッと反らすことで敵の蹴りを避けたッ!
「何ィ!?」
驚愕するゴードンッ!
説明しよう、今の技はドイツ流空手に伝わる伝説の技、“威那罵宇亜”であるッッ!!
(※威那罵宇亜……ドイツ流空手の師範代が1950年に編み出した技。足を開いてつま先を真横に向け、上半身を後ろに反らすことで敵の攻撃を避ける。この「足を開いてつま先を真横に向ける」という姿勢は非常に踏ん張りがきくので、戦闘中でも瞬時に上半身を反らすことが可能。また、現在ではフィギュアスケートの選手が競技中にこの威那罵宇亜を使うこともある)
「おお、素晴らしい反り返り! これは芸術点満点ですね!」
「うむ、やるなワタル!」
アリアとリベリオンは口々にワタルを褒めたッ! なろうヒロインとしての完璧な仕事ぶりに、読者の皆様もご満悦ッッッ!!!
そこからワタルは上半身を元に体勢に戻し、その勢いを利用してゴードンの顔面に頭突きをくらわせたッ!
「ぐっ!?」
もろにダメージを受けてしまったゴードンが、顔を抑えながら後ずさるッ!
「とどめだッッ!!」
ワタルは仁王の形相でそう叫び、右腕を大きく振りかぶったッ!
――と、その瞬間ッ!
「そこまでっっっ!!!」
スラム街裏の空き地に、鋭い老人男性の声がこだましたッ!
「ッッ!?」
拳を振り上げたままピタリと止まるワタルッ!
すると彼の横に、突如一人のおじいさんが出現したッ! これは恐らく瞬間移動ッッ!!
「もう、ええじゃろ。ゴードンの負けじゃ」
「……あんたは、誰だッ??」
振り上げた拳をゆっくりと下ろし、真剣な表情で尋ねるワタルッ!
「わしの名はカルマ。暗黒武術協会の会長を務めておる。よろしくな」
そう言うと老人――カルマは、ニコリと笑ったッ!
全身を黒のローブで覆った細身のおじいさんで、年齢は恐らく70代ッ! 頭に髪は生えておらずスキンヘッドッ! 代わりに、あごには長く立派な白髭が蓄えられているッ!
一見貧弱で優しそうなおじいさんといった感じだが――その実、全身から発せられているオーラは強者のものッ!
「一体、何をしにここへ来たッ???」
「まあまあ、そう警戒せんでもええ。今日は挨拶に来ただけじゃ。ワタルというやつがどんな男なのか、この目で確かめたかったんでのぉ」
「ほう……ッ!」
ワタルは目を細めたッ!
「それにしてもワタルくん、君は強いのぉ~。流石、デウスを……わしの“一番弟子”を倒しただけのことはあるわい」
そう言った瞬間、カルマの眼光が一気に鋭くなるッ! 思わず耳を疑うワタルッ!
「デウスが……あんたの……“一番弟子”……だとッ!?」
遂に姿を現した暗黒武術協会の会長ッ! 果たして、ワタルの命運や如何にッ!
次回、「暗黒武術の長!恐るべしカルマッ!」に続くッッッ!!!
・参考文献
[1]背負い投げの正しいやり方・実践と解説……異世界転生出版
[2]よく分かる!ボディビルダーの平均体重……異世界転生出版
[3]ドイツ流空手の技一覧……異世界転生出版




