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僕の分岐点

作者: 刹那

 ある冬の学校での出来事である。俺は一度死にかけた。

 俺がいたクラスは男子たちがバラバラでいくつかのグループができていた。俺はその中のグループのどこにも属していなかった。というよりもどこにも合う人がいなかったのだ。

 ある日、俺はある一つのグループに行った。そこで俺はたわいもないつまらない話を聞いているだけで一言も発することができなかった。なにも思いつかなかったからである。一人の友達は突然言った。

「こいつの首をしめてよ。」

俺は頭の中にハテナが浮かび真っ白になった。そして、もう一人の友達がこう言った。

「おけ、いいよ。」

そして俺の首に手をかけ締めた。その時、俺は頭の中では昔のことを思い出して実践してみようと思ってしまったのである。

「グッ。」

俺は成されるがままだった。正確には首に力をいれ、耐えるつもりだった。

「ドタッ、ガコッ、ドタン。」

俺は気を失い、壁に頭をぶつけて倒れ、泡を吹いていたと後から別の友達に聞いた。聞いた時、ふと父の言葉を思い出した。

「なぜカニは泡を吹いているの?」

「それは酸素が足りてないからだよ。こうやって酸素を取り込んで生きようとしているんだ。」

俺は酸欠だったのかと思った。ただそれだけだった。 首を絞められる前に思い出したことは俺が小さい時、兄の首を絞めたのにも関わらず兄は平気で耐えたことだった。小さい頃の俺には衝撃的で不思議だと思ったのだ。

 冬休み、俺と俺の保護者とその友達二人は先生に呼び出された。俺は友達と会ったとき、少し微笑んだのだが空気は重々しく学年全員の先生が小さな一室に集まり真剣そのものだった。なんせひとつの命が摘まれそうだったのだから。俺の命なんかどうでもいいのに。

 友達の表情は暗く、見た感じ俺らが来るもっと前から先にいて注意を受けていたのだろう。可哀想だから早く終わってあげて欲しいと思ったが首絞めを拒まなかった俺に非がないわけではなく、何も言えなかった。 拒まなかったのはなぜだったのだろうか。そんなこと俺には些細なことでどうでも良かった。 強く冷たい風が吹き荒れ今にも雪が降るかのような寒さだった。 桜の沢山の新しい小さな蕾が身を縮こまらせ、今にでも咲き誇る雰囲気を醸し出し、力を蓄えていた。もうすぐ新しい春が来る。


 今年は受験生の年だった。驚いたことに同じ部活の友達が3人もいて、他にも前からの友達や知り合いが沢山いて幸せだった。

 薄く暗い霧が俺の身を真っ黒に染めてしまうかのように包み込み覆い被さった。

 俺は去年どこにも居場所がなかった。いくら友達が、知り合いがいても苦手意識とトラウマは取り払うことなんて早々できるものではない。 そんな初っ端から最難関であろう試練が課せられた。修学旅行の班決めだ。グループを作るのが苦手な俺は目に水が入っている感覚があり、視界が軽くぼやけていて、おどおどしていた。それから部活の友達の近くに行った。

「〇〇も入れてあげよう。」

部活の友達は優しく俺を受け入れてくれた。天から手を差し伸べてもらったようだった。俺の目に溜まっていた水は滴り落ちた。

 班は男子と女子で別れて決めあとからくじ引きで男女合わせることになり、男子は三人の班がいくつかと四人の班が一つ作ることになっていた。部活の友達のとこに行ったがそこには他にも三人いてそこで班をつくるには合計七人いるため、一つは四人にしないといけなかった。普通は四人班を決めるのは少し大変なはずだが俺がいたところは周りを従える気が強い子がいたため、いとも容易く四人班の枠を得ることができた。そこから七人はジャンケンで別れることになったが、なかなか決まらなかった。

「よし、なかなか決まらないからここで別れよう。」

俺を話の輪の中に入れてくれた友達が再度まとめてくれた。部活が同じ四人とそれ以外で別れる案だった。誰一人異議を唱える者はいなかった。 さっきから一人の友達が俺を続けざまに助けてくれていた。俺は人見知りだから初見で会った人には打ち解けられない。

 この友達は優しかった。場の雰囲気や人の表情を読み取り、相手のことを考えている。それだけではまだ納まらない。いじられることもあるがいじることもでき、場を和ませられることもできる。自分の意見をしっかりと持っていて、みんなに愛されるキャラだった。

 こうして俺の精神をズタボロにして何事もなかったかのように去っていく難関であった。 それからというもの行事という面では最高であり、このクラスで良かったと思った。二度と忘れないよう心の中に大事に包み込んでしまっておいた。大事だから厳重にしまっておきたいのは山々だがそれでは後々見返すことができないのでやめておく。 修学旅行、体育祭、合唱コンクール。よく考えると行事は少ないものだと気づく。それはきっと少なくすることで一つ一つを大事、確実に充実させたものに仕上げ忘れないものにするためだと今はわかる。

 体育祭。学年種目はムカデ競争だった。男子と女子で別れたリレーで、全員の足を結びムカデのように走る競技だ。練習から男子の早さはピカイチでどのクラスにも負けない圧倒的差を見せつけていた。一方、女子は惨憺たる結果だった。ムカデは同じ側の足を一斉に前に出して進むみんなの息が合わなければできない。女子はトラックを一周するのに2,3回止まったり、転んだりしてタイムロスをしていた。いくら男子が早くともかなりの差が開くために先頭に立つのは困難、いや、不可能だった。

 本番、みんなの意思は団結していた。勿論一位のみ目指す。

「位置について、よーい…」

「パン」

ピストルの音が会場に響き渡った。そしてその音がまるでなかったかのように一斉に四方八方から応援と掛け声の声が轟く。

 最初は女子、その後男子という順で走る。問題の女子はというと…。どうしたことだろうか。今まで引っかかっていたお決まりの場所で引っかからず、それからずっと何事もなく首位でタスキを俺ら男子のところまで運んできた。あれだけミスをしていたのに、本番になったら練習した成果を見せつけていた。本番は何が起こるかわからない。人生も一緒だ。 女子があれだけ頑張り繋いだタスキ。あれを見ていた男子が燃えない訳が無い。男気を見せるときがやってきた。 「いくぞー!!」

「オー!!」

男子は全員でリーダーに応えた。 ゴール終盤残り僅かなところまで着ていた。後ろからは追い上げてきている他クラスがいた。それが見えてしまったのか、波長が少しずれた。そこから後ろは雪崩のようにずれ、その悪い波は前にまで伝わってしまう。

「ドタドタドタ。」

 崩れない。なんと崩れずに一位でゴールすることに成功したのだ。男子の誰しもが一度は崩れると思った瞬間、思い出す。

「ここまで来て獲るのは勿論一位のみ。」

二者選択の余地なし。男子の決意と執念でゴールまで押し込んだ。ゴールしながらみんな転んでいった。 感動の瞬間だった。初めてクラスというものを知り、団結することの大事さを知った。

 俺らのクラスの旗にはこう書いてある。 「DO MY BEST 〜ベストを尽くす〜」


忘れているかもしれないがこの年は受験生である。だから、勉強をしなければならなかった。塾に行き、学校でやってない範囲、つまりは予習をし、復習もした。 俺は勉強を一生懸命頑張ってしたことがなかった。今ならわかる。しなかったのではない。できなかったのだ。

 俺は常に黒い霧に多かれ少なかれ取り憑かれていた。 俺は褒められることがほとんどなかった。そのため俺は自分が何かを成し遂げても満足をすることがなく褒めることはしなかった。そこでどうやったら自分が頑張れる力をどんな言葉をかければ湧いて出てくるのか考える。そして思いついたのが「叱責すること」だった。できない自分に怒りをぶつけ、責めて、責めて、責め続けた。そうして自分を奮起させようとしたのだ。 結果、少しはそれがいい結果へと結びついていた。しかし、それはほんの少しの話。ほとんどは実を結ぶことなく、気が落ち机に座って勉強はできず、とうとう机にさえ向かうことができないことがあった。提出日が近づき追い詰められるとやっていたができないときもしばしばある。

 そんなとき、気分が上がるかも運次第だったがサイクリングしていた。ただ純粋にぶらぶらと。スピードを出して風を切る。雨が降っていようと気にも止めない。気持ちよかった。スピードを出している為、止まりきれずに轢かれそうになったり、轢きそうになったりすることもあった。でも、走っているときは体が軽く感じ黒い霧は風によって振りほどかれ道端に置いて言った。ただそれは気分上がったときのことだ。

 気分が変わらず低いままのとき、ペースはゆっくりで常に頭の中で考えことをしていた。 黒い霧はより一層濃く黒いものになり、鎧のように固く引っ付いていた。重いのは体だけではない。心もだ。あの霧は体を蝕むだけどなく、中心にある心にさえ手を掛けてきた。

「死にたい。俺の存在意義って何なの。生きている意味なんてあるのか。もし好きな人たちの嫌なことをしているのであればそんな俺は必要ない。例え周りがどんな優しい言葉を言ってくれたとしても俺はそんなこと認めない。認めるわけにはいかない。この世には生まれない方が良かった人もいる。俺はその一人。ねえ、神様。こんなとき神に縋るなんて都合が良すぎるかもしれない。けどなんで俺を作ったのか教えてくださいませんか。お願い、お願いだから。」

 こういうとき、必ず神社の前を通りお祈りをしていた。賽銭をしても良かったが鈴が鳴ると五月蝿く近所迷惑になるかと思ってやめといた。サイクリング出かける時は必ずネックレスをつけていた。兄から貰った達成の鍵守りというものだった。俺は死ぬことをそのネックレスに願い続け達成する日を今か今かと待ちわびた。 神社を通るとき必ず言うお決まりの言葉があった。

「エロイムエッサイム。我は求め訴えたり。」

呪術らしい。エロイムエッサイムとは神よ、悪魔よという意味らしかった。最早俺は神に縋るだけで飽き足らず、ついには悪魔にも縋ったのだ。神よりも悪魔の方がきっと命を奪ってくれると思って。死ねれば天国に行こうが地獄に行こうが俺にはどうでも良かった。そもそもその概念自体がありもするかわからないのだから。死後の世界なんてそのとき考えればいい。取り敢えず、この世界から今のこの現状から逃げたかった。



 生まれて三回目の入学式。思えば合格を知ったときの自分は決して喜びもせず落ち込んでいた。一緒にいた友達は合格していて飛び跳ね、俺を振り回し物凄く嬉しそうだった。 俺はこのときに気づくべきだったのかもしれない。自分の歯車はすでに狂っていたことに。

 今年のクラスには中学からの男友達の凛ちゃんがいて前の席にいた。俺は人見知りなので凛ちゃんと最初話していたが凛ちゃんが部活の友達のところへ行ったのでそれについて行った。そうしてアキラことあっきーと知り合いになり、いろんな話をしてとても仲良くなった。

 あっきーとは実は面白い関係にあることがある日を境に発覚した。それは両方に同い年の姉がいて同じ学校同じクラスだったのだ。それを知った俺らは驚かざるを得なかった。なんせ面白い関係が知らぬ間に結ばれていたのだから。俺らは同じことを思っていた。

「世間は狭い。」と 。

 そして今度はあっきーの部活の清水と友達になったと思っている。ただ思っているとしか俺は答えることができない。なぜなら清水は仲良くなりきる前に消えてしまったのだ。夏休みの間に。

 夏休みが明け、二学期に突入した。その日から清水は学校に来なくなってしまった。最初は風邪だと思っていたが余りにも休みが長く続いたのでおかしいと思い心配し続けたある日、突然その正体がわかった。それは先生の言葉によって。

「清水は十一月をもって学校をやめます。勉強がついていけるかわからなくなったためだそうです。」

 清水の休みのことについて知る前、学校では祭りが開かれ、清水はそれに参加し、部活の活動を元気よく行っていた。いや、行っているように見えただけかもしれないが。 祭りにはお化け屋敷やパーラー、劇や部活での催し物がある。いわゆる、文化祭とかいうやつだ。俺のクラスでは動画とスタンプラリーをやった。それはそれは大失敗だと言えよう。計画性のなさ、考えの浅はかさなど様々なものが見えてしまった。もっとも俺には問題をわかっていたまま放ったらかしにした。中心人物にならない限り何か変えられる訳でもなく、やる気なんてさらさらなかったからである。非常につまらない行事として幕を閉じてしまった。

 清水は鬱病になってしまったらしい。俺はとても悲しく涙目になり、泣きたくなってしまった。

 俺の兄は高一のときに鬱病になり学校をやめ、家ではゲームをしていた。父に言われ、高校卒業認定試験を受け合格し、大学に行ってはいるものの、実際は鬱病が治りきる事はなく、学校に行くのが辛く母が手を差し伸べ、手伝わなければきっともう辞めていただろう。それを清水がなるかもしれないと思ったのである。しかし、清水の心の灯火はまだ消えてはいなかった。この学校をやめ、また他の行ける学校を探し、受験すると言ったのだ。それを聞いて俺は心底安心した。また同じ光景を見るのはとても辛く悲しく、見るに絶えないから。

 俺は少しだけ清水とLINEをしたことがある。

「それやばいよ、俺よりも酷い。」

 前後の会話は全く覚えていない。ただ俺は友人Sに考えや発想がとても危ないということを告げられたのだ。そんなことずっと前から薄々気づいていた。友達に言われることで再確認することができたが、しかし、俺は実際に信じることが、そんな弱い自分を認めることが出来なかった。

 日直になったある日、俺は仕事の日直日誌を書かざるを得なかった。好きなことを書いていい、自由な欄があったため、こう書いてやった。

「このクラスの繋がりは表向きだけだ。清水が学校を辞めたと聞いたにも関わらず、休み時間になった途端すぐに他のことを話し笑い始めた。何事もなかったかのように。心配していた人なんてほとんどいなかったのだろう。悲しいクラスだ」と。

 それを提出した次の日の朝、学校で担任の先生が廊下で待ち伏せをしていた。俺はなんか悪いことでもしたかなと思ったが思い当たる節が何一つなかった。用件は単純、昨日提出した日誌のことだった。

「これを消しなさい。みんな言わなくてもわかっていることだから。」

先生にそう言われて俺は内心で思った。わかっていることなのにどうして何事も無かったかのように平然と笑い、いつもと変わらぬ日々を過ごしているのか。 「そんなことない!!」

喉から手が出るほど言いたくてたまらなかったが言えなかった、弱い自分がいた。 俺は大体一人でいることが多くなり、もう人と関わりたくないと思っていた。

 月日が経ち、いつの間にか桜が咲く季節となっていた。時の流れの中で桜が咲き散るまでの長さなどたかが知れており、いつの間にか過ぎ去っているただの風物詩にしすぎない。

 人見知りの俺はまた新しい友達を作るという苦手な一大イベントがやって来てしまった。

 後ろの席の子は中学のとき塾が同じでよく話した仲だった。故に話したかったがなかなか話しかけることはできなかった。隼人の後ろにはその子の彼女がいたからである。流石に二人が話しているところに割って入り、たわいもないことを話すのは流石に気が引け、申し訳なく思う。よってそうっとしておくことにした。

 残るは前と横だったが、左隣はとっつきにくそうな子だったので諦める。右隣は壁だった。ある意味で俺にとって壁は友達と呼べるであろう。そうなると話しかけられそうなのは前の子しかいない。話しかけようと思い続け何日か経ったあるとき、その子から話しかけてくれた。その子とはなんだかんだ仲良くなったのだが、なぜかイブの声は物凄く聞き辛かった。俺の耳が悪いのもあると思うが三回に一回くらい聞こえなくて返事によく困る。そして、不快な思いにさせてないか気になって仕方がないのと同時に心の中でごめんと謝った。

 イブと繋がりを持ち今度はその友達とも仲良くなった。真琴はクラスの中心の子で優しく気を遣い、臨機応変に対応できる羨ましく、人の鏡のような子だ。ただ、意外と抜けているところがあるが、それがあることでバランスが保たれ、面白い子だと思った。

 日が高くなり暖かい。いや、やや暑くなりいい汗をかき始めるようになった。俺からしたら、毎日の登下校は死ぬほど汗を流し、嫌だったが。

 日が高く暑い中、校長の長くてつまらない話を全く記憶に残らず、いやいや聞いていた。これなら長い話でも少し興味深く、気を遣ってか早口で聞き取りにくさはあるものの少し聞いてみようと思える中学の校長の方が圧倒的にいいと思ったが致し方ない。

「ラジオ体操第一。」

CDを使った音声であろうか、そんなものが流れてきた。非常に面倒で不愉快である。こんなものは適当にやるのならやらないのと同じなのに。

 ラジオ体操が終わり、その他諸々も終わるとテントに向かい日陰でなんとなく応援し、友達の活躍をしかと見届けた。

 学年種目はリレーで二つのグループに別れ競走し、タイムを測った。俺のクラスはなんと学年で一位をもぎ取った。グループの中でもちろん一位だったが、二位や三位には半周差、ビリには一周さを叩きつけたのである。自分が走ったとき、とても気持ち良く爽快さが体中に染み渡ったがカーブがきつく、曲がりきれないのでそこは一つ文句をつけたい点であった。そしたら、もっと気持ち良かっただろうに。走っているとき、俺にまとわりつく霧は少し剥がれ落ちていった。

 閉会式が始まる前、全体で最後の種目の色別リレーを終えたイブが話しかけてきた。

「俺らの走り見てた?すごかったんだぜ!」

「そうなの?良かったね。見てなかった、ごめん。」 「え、なにをしてたの?」

「日陰で寝てた。」

「薄情者。」

イブはすこし物寂しそうに蔑んだ目で見たあと前を向いて整列しに行った。 俺は薄情ものと言われ何も言い返せなかった。まず薄情を頭の中で浮かべ、少し考えたがやはり俺は薄情だったらしい。でも仕方ないじゃないか、終盤で疲れて眠く、本当は個人種目では色別リレーに出たかったのだから。ここで皆は口を揃えて言うだろう。

「やりたいって言えばよかったじゃん!」

俺にはそんな強気なことは言えない。俺は自分に自信が微塵もなく、内向型で集まって物事を決める時、意見を言うのが大の苦手で、自己主張が低いのだから。

「薄情者。」

この一言で俺の心は一瞬で冷たくなり、凍ってしまった。忘れられない複雑な思い出となってしまった。

 先生は頑張ったご褒美としてアイスを買ってくれると言ってくれた。 「何がいい?」 「ハーゲンダッツがいい!!」 「ハーゲンダッツはな、高いからな、文化祭でも頑張ってたら買ってあげよう。」 みんなは黙り込み、すぐに手に入るアイスで喜びを感じていた。

 その後、長期休暇に入った。なんの役にも立たない、ただ金を地味に貪り食われるだけと自分が判断した部活を辞め、予定はガラ空きとなった。 俺は友達と先程から述べているが、実のところは友達とは思っていない人たちがいる。俺にとって友達とは他の人が言う親友であり、一生何かしらで関わりのある人を指すからだ。俺は友達であったという関係を躊躇なく切り捨てることができるようになっていた。どうせ将来は関わりがなくなると。

 大して友達もいないため、友達から何かに誘われることも少ない。もちろんのこと、こんな性格の悪いやつに彼女なんている訳もなく、できるわけもない。

 長期休暇に入る前に予定を立てた。数学を沢山勉強する予定だった。が、この時期から危機感が感じられるわけもなく今までの癖でダラダラと過ごす日々、適当にこなす課題、ただただ無駄な時間を使ってしまった。そして後に後悔する羽目になるのだろうと確信した。

 二学期が始まった。もうすぐ文化祭である。どうせくそみたいな文化祭に終わるだろうと思っていた。何をクラスでやるか考え興味深く面白い個性溢れる案が出ていた。そう、案までは。

「ミーンミンミンミン」

時は夏休みに遡る。このくそ暑くて死にそうな中、自転車を漕ぎ、涼しくて汗が凍るような教室を求め颯爽と移動した。

「ガラガラ」

 教室の扉を開け、目の前に広がった情報を取得し、俺の頭は沸騰し爆発した。約束の日、誰もいない。午前中からかもしれないと思いお弁当を持ち来ていた。誰ひとりとしていやない。 机と椅子をぶん投げたり蹴飛ばしたりした。そう、もちろん脳内での話である。仕方なくグループのリーダーと連絡をとった。そして俺は弁当を食べ、家に帰った。

「有り得ない!」

つい心の声が漏れてしまった。集まって文化祭の準備をする数すくない機会。その日、誰ひとりとしていない。連絡もなし。する内容、その内容の手順や作り方を何も知らない、考えていない。

 夏休みに入る前、することの内容を決める時間を担任の先生が何度か設けてくれた。このクラスはいくつか担当をわけ、グループを作っていた。この時点で間違いだったのである。夏休みなんか集まれる人数が限られているのに分けてさらに集まりにくくなっただけだ。 俺らのグループは中心人物が腐っていた。ケータイをいじり、ゲームをし、真剣に考えようとはしていなかった。それに気づいた俺がまとめるべきだったのかもしれない。が、俺は行事が何かと嫌いだった。だって、色々面倒だもの。そして傍観者としてあたかも何も関係ないかのような顔をしているだけだった。

 文化祭が迫ってくると放課後残って装飾を作るという話になっていた。部に入っていない俺は仕方なく残っていたが、何もせずただ見ているだけだった。

 よく働く人は自ら考えよく働いていたが周りの人までは目が届いていなかった。。その人たちはみんなをまとめる人たちだ。しかし、周りは何をすればいいかわからないため何もできなかった。俺も何をすべきかわからなかったし、やる気ない奴が口出しをするのは悪いと思っていたので何も言わなかった。言わなかっただけで心では思っていた。

「やる順番が違う、何がどのくらい必要か全体を全く把握出来ていない。小物にしか目がいっていない。指示を出し、人を動かす人が誰もいない。主だって動いている人たちは自分がしたいことをしたいだけしているだけ。」

そうして太陽が上がり落ちる日々をただただ見つめていた。傍観者として。

 文化祭前日、その日は丸1日準備として使っていいことになっていた。 俺はなぜか物凄く焦っていた。机を配置通りに手早くならべるよう効率を考え、いつもの中心人物に案を出したり、指示をしたりしていた。俺はついこの前までこのクラスで文化祭が失敗しようが全然厭わなかった。しかし、文化祭初日のことを想像してしまったのだ。自分たちのクラスだけ店を開けないということになったら…。いくら傍観者をしていたからといってそれは自分の汚点となってしまう。それだけは他のクラスの話の話題とならないよう避けねばならなかった。

 指示を出し始めた俺はいつの間にかいろんなところを走り回っていた。他の人が出来ていなかったこと。つまりは、暇な人たちを見つけ、その人たちに自分が見つけた仕事をあげて指示を出す。この繰り返しをずっと行っていた。

 懐かしい、もう5年くらい前のことだろうか。みんなのまとめ役として、働き、おしゃべりで元気いっぱいの活発的な男の子だった純粋な自分を思いだした。一番楽しかったのではないかと思うその頃。今の俺にはもう戻ることの出来ない世界。

 頭をフル回転させ、走り回って汗をかいていた。目にはいっぱいの水で潤い、溢れそうだった。 走り回っている中で一際俺の目を引いた女の子がいた。彼女は可憐で煌びやかで美しく光り輝いていた。なんと言っても他の女子は飽きたのか疲れたのか、仕事をしていなかったが、彼女だけは自ら仕事を見つけ率先して動いていたのだ。俺は女子に話しかけるのが苦手で勇気がなかったし、怖かったので仕事をしていない女子には指示を出すことができなかった。そんな中、彼女を見つけ、一瞬頭の中を雷鳴が、電気が走ったような感覚がした。が、それがなんなのかわからず、結局のところ気のせいだと思った。

 夕方、担任の先生がやってきて差し入れのピノを持ってきてくれた。一人二つずつ配り、余りは頑張っていた人とこれから頑張ると約束した人(もちろん口約束だから頑張っていなかっただろう)にはもう一つくれた。俺はなぜか頑張っていた人に入っていたらしく三つだったが、正直休憩している暇があるなら仕事をして不完全ながら店を開ける程度には完成させたかった。しかし、みんなの和気藹々とした喜びの姿を見てこの空気感の中でそんなことを言えるわけもなかった。そして先生の意図もなんとなく理解してしまったのだ。まさに飴と鞭。エサをぶら下げ、疲れた者たちを再び血気させ、仕事効率をあげようという作戦だ。

 みんな最後の力を振り絞って頑張ったが時間切れだった。そして急遽、会議が始まった。それはこの状況を見かねた先生が早く来てやろうという提案だった。 「うーん、何時にしようか…。」

「六時半じゃね?」

「文化祭執行部の先生が来るのは一番早くて〇〇だよ!だから…。」

「仕方ない!私が六時半に来てやるからみんな来て準備しなさい。」 みんな驚いきの顔をしていたが一人がこう言った。

「そんなことしていいんですか?」

「いい!他の先生がなんと言おうと私が戦ってやる。」

カッコイイと言わざるを得なかった。女の先生なのになんと勇ましく勇敢なことだろう。生徒思いで優しい先生の模範であり、人としての鏡ではないだろうか。生徒の力を最大限引き出そうと努力している。俺はこの先生を先生として、人として尊敬すると心に決めた。意思というよりは余りにも圧巻で自然に。

 当日、朝早くから自転車を走らせ清々しい朝を迎えた。朝早い土手からの景色の描写はとても美しく画になり綺麗だと思った。心が空の色をしており、透けとおった気持ちになった。霧など自分の周りには一切ない。まさかこんな朝早くに学校に来てまで文化祭に加わることになるとは思いもよらなかった。

 最後の仕上げに取り掛かる。黙々と動いていた。いつの間にか文化祭が楽しくなっていた。

「文化祭盛り上げていくぞー!!」

「いぇーい」

「あれ、まだまだ元気が足りないなぁ。文化祭盛り上げていくぞー!!!!」

「いぇぇぇぇーーい!!!!!」

盛大かつ今までにないくらいの盛り上がりだった。今年の文化祭の催し物はどれもレベルが高く、紹介のネタには大きな拍手の音が体育館いっぱいに広がり響き渡り、やまびこのように音が帰ってきた。

 俺はシフトの時間割で一日目は初っ端から仕事があった。 俺のクラスの催し物はお化け屋敷で大谷病院の院長、鈴木慎一郎が秘密裏に人体実験など法に触れることをしたことがばれたため廃病院となり、そこが舞台となる。 その院長役をすることになったのだ。

 最初、脅かし方の設定として病院長なので白い白衣をきて、出口付近のお札を回収する箱の近くの椅子に座り、脅かすという役だった。そもそも暗すぎてお客さんは何も見えなかったというのでもちろん白衣を着ていたことに気づいてはいない。何も見えていないはずなのになぜか椅子に座っているのがばれた。

「この人、絶対脅かしにくるよね。」

そう会話が耳にはいる。心の中でこう受け答えした。「ごもっともです。」

なんども同じことを繰り返し言われるので頭にきた俺はとうとう身を隠し脅かすことに決めた。この作戦は大成功。脅かすこの仕事が格段に楽しさを増した。そして二日間もの間、採用されていたのですこし微笑ましい気持ちになった。

 仕事が終わった瞬間、突然に体が重く感じた。謎の重圧である。俺は一人で回れる恥ずかしさを感じなくていいところを探し回れるだけ回ったがそんなところ数多くあるわけもなく時間をほとんど潰すことができなかった。暇なので俺のクラスのお化け屋敷のところに行った。勿論シフトは決まっているので中にいたところでやることはなにもない。廊下には窓の向こうを見ている彼女がいた。ほんの一瞬、思考がふわふわし、止まっていた。彼女の横顔に見とれていたのだ。心がふわふわしていた。彼女につられて窓の向こう、つまりは一階のプラザの方を見た。そこではダンス部が披露していた。みんなが汗をかき、息を合わせ、動いている。キラキラ輝いている宝石に見えた。 視界がぼやける。動揺しているわけでも沢山動いた後でもなかったので体は熱くなかった。見ていて辛くなったのでその場をはなれた。敢えて彼女に話しかけるという選択肢もあったが特に用もなく女の子に話しかけに行けるほど気さくな人ではないのでできなかった。

 下に階に行くとふと一人の人を見かけた。周りの人より一回りで済むのかわからないが小さい子がいた。体格もよくコンタクトで髪にはワックスをつけていた。凛ちゃんだ。俺は突撃しに行った。

「なにしてるの?」

「やることなくて暇なの。自分の店のホットドッグをわざわざ並んで食べたんだからな!」

「まじか、相当暇だったんだな」

明るい会話が続いた。いつの間にか謎の重圧が消え、体が軽くなり、心も晴れやかだった。

「んじゃ、暇なら一緒に回ろー。」

「いいよ、どこいく?」

「うーん、どうするかー。対してどこが行きたいとかないよな。」

その場の空気は暗く重く変わっていたであろう。対してすることがないという苦痛によって。

「取り敢えず喉かわいたから飲み物買おう。」

「んじゃ、その後パソコン部?にでも行ってゲームでもすっか。」

飲み物を買い、パソコン部に向かいその入り口付近で凛ちゃんの友達にあった。その男の子は背が高く、イケメンで有名な人らしい。特に人脈が狭い俺は最近になるまで全く知らなかったのだが。

 その人が女の子と一緒に色々と回っているのを見た。その女の子の後ろ姿には見覚えがあった。 突然、胸が手で握り潰されているような感覚を覚えた。意味がわからなかった。ふと思う。

「病気かな?」

パソコン部で一緒にゲームをしたが大したことは何も起こらなかった。ただ人の恋愛は面白くいじりがいがあるものなのでイケメンくんとあの女の子が付き合っているのか純粋に気になっていた。

「付き合ってるの?」

声は出そうで出なかった。なぜだろう…。 意外にも時間はいつの間にか過ぎ去り終わりの時刻となった。

 二日目、今日は一般の人が来る。そして委員会の仕事がお昼の微妙な時間から一時間入っていて、最後にクラスの仕事がある。 どうでも良かったのか最初の時間の出来事は全く記憶に残っていなかった。その中の数少ない記憶の話をしよう。

 イブに誘われ一緒に行動することになった。ぶらぶらしている中、イブの後輩に出会いそのクラスにいって「ウォーリーを探せ!」をすることになり、1人からスタンプを1つもらって計3つ必要だった。 そして、ぶらぶらするのを再開する。ウォーリー役をやっている先生を見つけた。

「先生、ハンコまとめて二つちょうだい。」

俺は驚いた余り一瞬目を見開いた。

「えー、仕方ない。じゃあ、校長先生の名前を答えられたらいいよ。」

先生は世界史の先生で俺らの授業を受け持っていたので俺らの顔は覚えていたのだろう。 またもや俺は目を見開いてしまって唖然としていた。唖然としているとき、頭の中は働いていた。

「なんでやねん、ええんかいな。まるで友達同士の会話やないか。」

親の実家が関西の方だからか、つい関西弁になってしまう。

「えーと、○○ ○○○。」

「答えられるんかい。俺はいつもなら出てくるのに急な問題だったからド忘れしとったがな。」

「正解。」

嫌そうな顔をしてすぐにでも舌打ちをするかのような感じだった。仕方なくイブに二つ、ハンコを押す。俺もハンコをもらった。そして、この短期間で俺は3度目を見開くこととなった。ハンコを二つ貰ったのだ。嬉しいがしかし、余分に欲しいと言ったのも答えたのも俺ではない。くれたことに疑問を思ってしまった。

  すぐ先でもう一人いたのですぐハンコを貰い3つ集めた。そうしたら、イブのシフトの時間となり別れることになってしまった。暇になってしまったので仕方なく景品を交換しに行き、くじを引いた。なんと大当たりで景品は暇を潰せそうな知恵の輪にした。後から聞いた話だが友達Uも大当たりだったらしく、意外と大当たりしかないのでは?となった。

 知恵の輪をするべくどこかできる場所を探した。俺は暑いのが苦手でどの空間にいたくはなかったのだが涼しいところが一つだけ思い当たった。そう、自クラスのお化け屋敷。あそこの部屋はクーラーが都で集中管理されていない珍しい場所で温度設定はなんと20度。普通の人は寒がるのかもしれないが俺には最高の気温だった。

 やがて暇な時がやってきた。やっと知恵の輪が終わったと見せかけて実は全くわからないので諦めたのだ。ヒントという名の写真を見たが変化はあっても何一つ解くための鍵となるものはなかったのだ。

 シフトの交代の時間になっても変わる相手が委員会の仕事で来れず、困っている子がいたので変わってあげた。流石、男の子の俺は、女の子には優しく接する。内心は暇でやることがないので脅かして楽しみたかっただけなのだが。

 楽しめると思っていたのは束の間だった。またもや隠れた位置はお客さんから見えるところだった。ばれてしまうので脅かしがいがなく欠片も楽しくない。前のように隠れる場所を変えたかったのでお客さんが来る間、色々取り組み試行錯誤したがいい案は一つもなく変えるのは不可能だった。そうしてつまらない時間をなんとかやり過ごした。

 最後のシフトの交代のときがやってきた。俺は最後もシフトが入っていたので文化祭の締めくくりとして言い終わり方をしようと決めていた。 俺は廃病院のベッドで寝ている役でまたしても動くのが明白で驚きはあっても半減すし、つまらない。最初は当初の予定通りにやっていた。

「これ絶対動くよねぇ。怖いねぇ。」

これを聞いた瞬間動くか悩むと同時に頭がピキピキしていた。

「うるせえ、こっちだってそんなのわかってんだよ!」

腹が立ったのでその客は驚かさなかった。

 それから俺はベッドで寝るのをやめ、脅かし方を変えた。後ろのシフトの交代を待つなどをできるスペースがあったのでそこに隠れ後ろから脅かすことにしたのだ。ベッドの置いてある部屋はライトがあり少し明るくあからさまに何か出てきそうな雰囲気を醸し出していたのにも関わらず、そこには誰もいない。そして突如後ろから「ヴァァー!」と大声をあげるとみんな怖がってくれた。またずっと同じ脅かし方なんて退屈なのでたまには声を出さずにただただ後ろに付いていくというのもやった。なかなか気づかないのだが気づいたときは本気で驚き、腰を抜かす人もいて脅かす側としては申し分のない反応だ。そして最早同じ場所に留まり待ち続けるのが嫌になり、部屋に入る少し前から後ろをつけて気づけばそれでいいし、気づかなければついていき、そのうち脅かすことにした。

 ある三人組の女の子たちが入ってきたその子たちはちょっとしたことにも怖がり立ち止まってなかなか先には進まなかった。反応はよく、面白いのだが後ろが詰まり、後ろの人にとってつまらなくなり迷惑になってしまう。よって、俺は配慮してその子たちを誘導した。

 俺らのお化け屋敷は二クラス分使っていて今担当しているところは一つ目だった。二つ目の部屋まで誘導し、そこでその部屋の脅かす役の人にこの三人組の子たちを催促するように伝えようと思いついた。二つ目の部屋に誘導し、後ろからついていった。後ろから見ていた俺は驚いた。知らない位置で脅かしていて、且つ後ろから見て驚き怖いと思ったのだ。脅かした人は例の彼女でその子は貞子みたいにして脅かしていた。俺は心の中で綺麗な長い髪と思い一瞬、魅了され見惚れていた。女の子にその三人組の対処を任せて自分の持ち場に戻ったのだが、あとで話を聞くと一時期三人組のせいで詰まっていたらしい。俺は完璧に失敗したと思った。自分の持ち場を放置してでもその子たちを連れて一緒に出ていくべきだったとその時の効率と客のことを考え反省した。

 こうして俺の文化祭は幕を閉じ、お片付けをし終えてすぐに後夜祭が始まった。 後夜祭では男女装コンテストとサイリウムを使ったヲタ芸とフォークサークル部、つまりは軽音楽の曲の出し物があった。男女装コンテストはさておき、ヲタ芸とフォークサークル部の演奏は一等星のようにキラキラ輝く星の力強さを、青春を謳歌している姿を、この俺のなんの未練もない死んだ目に焼きつけてきた。胸が張り裂けるくらい痛くなり、また釘でも心臓にさされたような感じもしていた。もう悲しく泣きたくなっていた。



 文化祭の後の出来事である。俺は勉強が手につかなくなっていた。強いていうなら元々そうなのだがそれより更に手につかず、もっと前から遡ると少しずつ右肩下がりになっていた。

 ある時二者面談を設けられている日があった。その時俺は先生に相談した。自分の悩み全てを。そして先生からはもちろん解決案をもらったがそれは全てやりたくなかった。正確にはやれなかったのだ。この頃の状態では何も自分を認めたくなかったから。

「また何かあったら相談しにおいで?」

「はい…。」

いつも強気で真っ直ぐな先生が優しい声でそう言ってくれ、この人は尊敬できる人であるとともに信頼できる人だと確信した。しかし、それに気づいてもなお頑丈且つ強固なものの門の扉は開かなかった。 そして再び相談をしに言ったとき、それでもなお俺の顔つきが変わらなかったのだろう。

「ともづるのカウンセラーに行ってみる?」

先生はそうやって判断してくれた。

「うーん、う、うん。」

行きたくないけど行かなければ変わらないかも知れないし、知りたいこともあるので怖いながらにも渋々行くことに決めた。俺のイメージではカウンセラーは病んでいる人が行くものだと思っていた。ただそれはイメージでどんな相談にも乗ってくれるらしい。

 初めてともづるに行ったとき、既にそこに向かう時から人の目線を気にしていた。ともづるに行ったのを見られたら病んでいるという烙印を押される。言わば、俺からすればもう学校に居られなくなり、死を意味するものだ。なんとか知り合いに合わず、見られず入ることができたが、それはたかが一つ目のステップに過ぎない。これから激しい葛藤が始まるのだ。

 初めてカウンセラーの人を見た。男の子人で雰囲気が、というより顔が強張り少し怖かった。しかし、それはあとで自分が醸し出していたものを感じ取りそういう態度になってしまったらしい。

 俺は何をしに来たのだろうか、ふとそう考えていた。会話をふられたが何をどこまで話せばいいかわからず話が繋がらなかった。

「うーん、ちょっと身体が堅いなぁ。少しほぐしてみようか。」

流石プロだ。自分では余り意識していたつもりは無いのだが、身体が思っているように動かないくらい堅くなっていた。 よくわからなかったが椅子に座らせられ、言う通りにした。

「はい、じゃあ手の力を抜いて。手を持ち上げるねー。それじゃ、手を放すから力を抜いたまま自然と下に下ろしてみようか。」

「………。」

俺の腕は持ち上げられてそれから放されるのだが、微動だにしなかった。

「うーん、やっぱり堅いね。わかるでしょ?」

「うーん、なんとなく…。」

そう、なんとなくわかってしまった。言われた通りに深呼吸をして腕の力を抜くイメージをするとほんの少しだけ下に下がったからだ。

 次は肩を上げ、一気に力を抜きストンと落とすというもので先生が途中で掴むから落としてみてというものだった。先生が手を構えるまでは力を抜けたが手を添えられた瞬間肩は上がったまま動かなかった。それら沢山のことやった結果、ある一つの終着点に到着してしまった。

「うーん、鬱っていうか…。重症とまでは行かないけど、その一歩手前かな…。」

「!?」

なんだ、それは…。俺はいつも黒い霧に取り憑かれていたが、今日は違った。取り憑かれるだけでは済まず、その邪気が体の中から溢れんばかりに出てきていた。 そう、あのカウンセラーの人の発言は直接、敢えて言って来なかったが俺が鬱病ということを指し示すには俺には十分すぎる重い言葉だった。鬱病ということを認めるのが怖くて今まで薄々感じながらも逃げてきたのにもう逃げることは許されない。

 その日、俺はただの魔物が世界を牛耳る魔王に進化を遂げたことに気づく余裕なんてなかった。

 俺はこの時期の冷たい風に当たっていた。焦りや不安といった様々な恐怖の対象もなりうる感情により身体が熱を発するのは知っていたので敢えて薄着でいたのだが、思っていたよりも寒く身震いをしていた。

 俺は文化祭が終わったその日から彼女とLINEで連絡を取っていた。たぶんもう彼女が気になっていたのだろう。故に今まで連絡を取り続けていたのだ。

 魔王は今日のこの日に俺を捻り潰すために力を溜めてきていたのだろうか、有りっ丈の圧力を身体に心にかけてきた。心臓を手で握られ力を弱めたり強めたりして力加減をし、俺を弄んだ。苦しくて、苦しくて大声で叫びたくて狂いたくて、最早なんだかよく理解できず、訳が分からなかったが、助けを求めていた。ただ誰でも言い訳ではない。普通は親に助けを求めるのだろうが、親なんて自分を苦しめる元凶でもあり大嫌いだったので以ての外だ。

 俺はその人と話しているだけで救われ助けられていた。そこで今話したくなり電話がしたいと思った。俺は悩んで、悩んで悩み尽くした。今日そんな甘えたことをしてしまったらこれから先も甘えてしまうかもしれない。そもそも電話ができるなんて確信はなく、断られて終わるのが落ちかもしれなかった。



           *


 俺はついに甘える方を選んでしまった。魔王と戦っていて余力なんて欠けらも無い俺には本心に抵抗することなんてできるはずもないのだから。そして、電話を断れれば甘えずに済むという心細いほんの僅かな希望もあったからそれにも少しだけかけていたのだ。

「ねー、今電話してもいい?少し暗い話なんだけど…。」

「いいよ。」

「え!」

口からこぼれた一言だった。甘えたい感情の裏腹に甘えたくないというのもあり、断ってくれることにも期待を寄せていた。

 電話をした時の話なんてほとんど記憶にない。ただ覚えていることがある。俺は自ら扉を開け全てを打ち明けた。何もかもが無くなり身体が軽くなった気がした。自分について誰にも何も教えず隠していたのに彼女にはさらけ出し初めて弱みを見せた。彼女はそれを聞き俺の全てを優しさで包み込んだが俺はそれを振りほどこうとする。

 彼女は自分のことも話してくれた。自分の辛い経験を、弱みを意図も容易くなんとでもないかのように。この辛い感情を初めて共感してくれる唯一の人でこの優しさには勝てないと感じだ。 俺はもっと色んな感情を受け取り、心に抱いていた気がするがその時その一瞬は幸せに満たされた幸福感で一杯になり、細かい事は全部吹っ飛んだ。大事なのは幸せをもらったってこと、ただそれだけ。



           **


 俺は彼女に電話をしなかった。ただでさえ救われているのにこれ以上迷惑をかけ救われようなどと考えるのは卑劣なのだ。

 俺は獅子に引き摺り、引っ掻き回され外に放り投げられ、ゴミとして捨てられた。

「弱いやつはいらない。」

少しくらい逆らえたかもしれないが、無駄な悪足掻きだと思ってしまった。

 もうここには獅子や魔物、格上の魔王など野蛮で猛者の獣しかおらず、話の通じる相手など一人もいなかった。

 黒猫が近寄ってきて俺を通り越し鉄の柵を通り抜けて振り向いた。

「こっちにおいで。こっちにおいで。こっちにくれば君の望んだ幸せが待っているよ。さあ、今しかない。時は一刻を争うんだ。さあ、急げ。」

 俺は気づけばベランダの淵から一メートル程離れたところにある柵を越して黒猫のいた隣にやってきた。黒猫はいつの間にか消えていたが、代わりにカラスが淵に立って待っていた。

「さあ、この大きな舞台にお立ちなさいな。一斉一台の大イベントだ。俺は空を飛ぶ。自由になるんだ。もう何からも苦しめられることは無い。思い残すことはないかい?もしあるなら羽ばたいてからでもその前でもいい。悔いのないように好きな人には伝えておきなよ。さあ、一緒に自由に希望に幸せに向かって羽ばたこう。」

 鷹や鷲のように力強く羽を広げ、力強く飛び立ち、頭からの急降下。

 地面には綺麗な赤黒い色が飛び散り、池をつくった。赤い彼岸花が辺り一面に咲き誇っているように見えたという。 その日は一日中曇っていて空の片鱗すら全く見えなかったというが、その一時だけは雲から満月がひょっこりと顔を出し、淡い光で照らしていた。

 俺の部屋は窓が開き、風が入り込んできていた。机の上にあった俺のメモ帳はパラパラと音を立て、めくれていった。



 心の中はキャンパスの上のようにいろんな色が混ざっている…

 そろそろ色を統一したいな

 真っ暗闇を彷徨う

 毎日考えても、考えても、考えても

 正解なんて答えなんて見つからない

 正解なんてわからない

 そこにあるのは何も無い真っ白な空間

 何もできないのって辛いよね…

 絶望と恐怖 その先にあるのは…

 静寂という境地に立つ自分



           *


 あの日の夜が過ぎ、峠を超えた。峠を超えるには険しい道のりで最後には大きな崖で橋なしでは渡れず、飛び込む以外選択肢はないかと思ったが向こう岸の女の子が橋をたてかけてくれた。それを渡り終えた頃には女の子は消えていた。

 なんだろう。いつもの黒い霧も当然あるのだけれど、今日はもう一つ特別な違和感を感じた。

 学校への登校は自転車でいつもは行きたくない気持ちが強く募っていたが、心は割りと晴れやかで、辺りの景色は絵の具で書かれたキャンパスのようにカラフルに色づいていた。そんな嗜みを無視して冷たい風が俺に当たる。全てを凍らすような冷たい風だった。

 俺は自分を鬱病だとなかなか認めることができなかったあの日、彼女と話し、少しは楽になったものの崖っぷちに立っている感覚から解放されずにいた。

 カウンセラーを毎週行くのがいつの間にか習慣になっていて、今では、入るまでと出た後の周りの目を気にする癖はなくなり、気は楽で少し楽しみでもあった。ただカウンセラーの日は何故か調子がいい日が多かった。逆にカウンセラーのない日に魔王に襲われていつも苦しんで、苦しんで何日かすると元通りだ。元通りと言っても元がもう腐っていて暗い自分でしかないのだが。

 ある日、俺は親に勉強のことについて文句を言われた。

「勉強しないで遊んでばっかりいて、それでいて塾に行っているなんて辞めさせるぞ。」

これは父親が会社に行き働くのが嫌なために俺を見てイラつき、八つ当たりをしてきたのだろう。普通ならここで八つ当たりされるなんてたまったもんじゃないとか言うのかもしれないが俺はそんな生易しいことは言わなかった。

 俺の心は空は青く緑が綺麗な丘に優しい風が吹きのどかだったがこれを言われた瞬間、まるでそんなことを思わせない豹変ぶりだった。青と緑は一瞬で黒に変わり果て、丘は一瞬で吹き飛び真っ平らで何も無い荒地と化した。暴風が起こり、雷が雨のように辺り一帯に名を轟かせた。

 俺にとって親から勉強のことを言われるのはタブーだった。

「遊んでいるだと?確かに誰が見てもそう言うだろう。だがな、こんな事をしたくてしていると思っているのか?やらないといけないのがわかっていてもどうしてもできない。だからと言って何かをしたい訳でもないから仕方なく暇つぶししてるんだよ。お前なんかに何がわかる。誰が生まれたくて生まれてくるか。生まれてしまって、死にたくても死ねなくて仕方なく生きてるんだよ。そして子どもを作ったのは誰だ。育てたのは誰だ。お金があるなら子どものために好きなことさせてやれよ。お前の責任だろ。それが嫌なら子どもなんて作ってんじゃねぇ。働きたくないなら結婚なんてしなければ良かっただろ。自分の行動に責任持てよ。」

 俺は大声でこんなこと言いたかった。でも、喉からは一言も声が出なかった。

 天気はさっきまで破天荒だったが、いつの間にか大雨に変わっていた。 俺は何かあると取り敢えずベランダに言っていた。 「ブルルルル、ブルルルル」 携帯のバイブレーションの音だった。




**


 いつもならすぐに返信をしていただろう。俺はロック画面を見て相手だけを確認し、そして返信は後回しに決定した。

 本来、勇者は邪悪な魔物を倒し、魔王を倒してハッピーエンドで終わるのが当たり前だろう。だが、全てがそうなるとは限らない。間違っても俺という勇者は俺という強大なる魔王に戦いを挑むことすらできず、魔物如きにへばっていた。それを魔王が見て嘲笑い、見飽きた魔王は何事もなかったかのように勇者を捻り潰し、粉砕した。

「ピーポーピーポー。」

救急車のサイレンが辺りに響き渡る。さっきまで閑静だったのに少しずつ五月蝿くなってきたので野次馬でも来たのだろうと察した。俺はもう一度だけあの人に会いたいと思いながら安らかに眠りについた。 ロック画面には女の子の名前があった。



           *


 ロック画面を見ると彼女からだった。 彼女とはLINEでしかほとんど話したことがないが、それでも俺は彼女と会話をすることで救われていた。なんてことない会話でも心に燈火が戻り、宿った。会話を見て返信を返す僅かな時間かもしれないが、その時間は楽しいもので口角は自然と上がっていた。

 それを見た俺の足は止まった。進む先はさっきまで真っ暗で周りすらよく見えないほどだったのに、急に全てが明るくなって進む道が見えた。

 怖いと思いながらも折角この舞台に立ったのだ。ただで降りる訳にはいかかい。ただでさえ足が震え、身体が思うように動かず、登るのに時間がかかったのだから。次があるかもしれないからついでに練習をしておこう。恐怖を飼い慣らしておいても問題はあるまい。 俺はしばらく恐怖と戯れ遊んだ。

 すっかり命の恩人に返事を忘れていたので柵を上り、内側に戻った。

 返信をしてから返事が来るのが待ち遠しかったけれど、俺にはどうしようもないので待つことにした。気が疲れたのでベッドに横たわるといつの間にか寝ていた。

 またいつも通りの辛い生活が始まる。

 人は沢山の思いがある。しかし、人には言ってはいけないタブーもあるのだ。人は相手のことを知っているようで何も知らない。気遣っているつもりで何も気遣えていない。

 俺は手紙を二つ書き、一通は自分の机の中に入れた。日付のいれられていないメモ帳の一部を。

 このとき、俺は決心していた。



「生きたくても生きれないやつだっているんだ。その人達の分も生きろ。」

 そんなこと出来るわけないだろ、関係ない。ふざけんな。死にたいと思う人のことも考えろ。死にたくても死ねなかったよ。だから大切な人に殺して欲しい。知らない人に殺されるのはごめんだからね。 交通事故で死ぬのは誰にも迷惑がかからなくていいなぁ。むしろそれで死ねた方が楽だな。

 母は俺が自由だと言う。だがしかし、死にたくてもしねなかったよ。産まれたくなかった。生きたくない。殺して欲しい。知らない人じゃなく大切な人に。大切な人を見て死にたい。

 心が穢れてるって言われた。洗っても落ないって。冗談のように言っているけれど、言われてるい方はすごく辛い。しかもそれで大笑い。そんなのわかってるよ。わかってても直せない辛さを知っていますか?兄が影で言われていたけれど大丈夫なのかな。俺も笑ってしまってごめんなさい。

 早く誰かとても大切な人に殺されたい。証拠は残さないよう指紋とか拭き取るから誰か頼むよ。

 なんのために俺は存在しているのだろうか。 俺という人間はこの世に必要だろうか。いらない存在なのだろう。誰にも必要されていないのだろう。 存在理由がないのならいっそのこと死にたい。

 ある人が生まれただけで幸せと言った。俺は生まれない方が幸せだったかもしれない。たくさんの友達に会えてよかったとは思う。

 人が言ってくれる言葉はとてもいいことばかりだからつい否定したくなってしまう。そんな自分が憎く嫌いである。

 幸せになりたかった。今はただただ死にたい。周りの友達の誰よりも早く死に、友達には幸せになって欲しい、幸せのままでいて欲しい。

 これまでの人生で失敗しかしてないっていわれたよ。これから一人で生きていけるか心配だって。俺はなにを求められているの?どうすればいいの?

 兄は小さい頃サッカーやりたかったんだって。俺がいたからできなかったんだって。俺いらないじゃん。なんのためにいるの?なんのために生きているの?なんのために産まれてきたの?ただの邪魔ものでしかない。生まれない方がよかった。人のために誰かのためになるのならそっちの方がいい。誰か一人でも邪魔をしたのならもうこの世にいなくていい。 好きな人や大切な人たちの必要な存在になりたかった。

 全部自分がいけないの? 誰かの役に立ったのならほんとによかった。こんな俺でもたった少しでもやくに立てたのならそれでいいや。

 はぁー、早く死にますように。

 俺のせいで疲れただって。確かに俺のせいかも知れないけれど産んだのはあなただ。

 俺が死んだら誰か悲しむかな? 誰も悲しまないのだろうな。 なんで死んだの?とか、バカだなーとか、消えてくれてありがとうとか言われているんだろうな。泣く奴なんて誰一人いないだろうな。 悲しんでいると見せかけて心の中ではすごい笑ってんだろ?あいつすごいうざかったんだよ。ラッキーって。 思い出せ、自分がゴミだということを。誰にも必要とされてないということを。何もできない自分に呆れたことを。忘れずに常に頭に入れておけ。片隅になんか置くんじゃない。

 生きているのが楽しく感じる。その感覚は罪だ。

 俺の存在を消して誰かの役にたちたい。

 高校に入って楽しく感じたけどテストで悪い点をとって自分のことがどれだけゴミでいらない存在かを確かめたら死ぬはずだったのにできなかった。もう人生なんてどうでもいい。 いつになったら死ねるのだろう。成人式までには死んでいたいな。 はぁー、だれか俺に救いの手を差し伸べてください。

 テスト前なのに課題も残っているのに勉強なんて出来ない!なんのためにいるの?せめて存在意義をください。ないのなら殺してください。なぜ生きねばならないのですか!!別に自分という存在はいらないではないか!楽しい日を過ごしている自分が憎いよ。なんで自分がどんな人間かを忘れるのか、頭の片隅には置いておけって言ったのにどうして言うこと聞かないの?親の言うことも聞けなきゃ、自分の言うことも聞けない、お前は何がしたい?

 死にてぇー、人生なんてめんどうくせー。なんで生きてなきゃいけないんだよ! ふざけんなよ、なぜこんなクソみたいな人生を続けるているんだ。

死にたくても死ねないこの辛さはだれもわかってくれない!同年代なんかでこんなことを考え、こんなことをしているのは俺だけだろう いいよな、自分から何か嫌なことでも取り組める人は!幸せだよ! わかっていてもできない、やってもできない、明らかに人と努力の量がちがうってわかっていても決して長いこと勉強することはできない!自覚症状があってもこれだ!ちょっとしたことですぐに逃げる、機嫌もすぐに損ねる!どんだけゴミなんだよ、流石に呆れたよ!薬学部に行けば薬で死ねると思ったよ!けど薬を自分で作れるまで後何年かかる?あと何年待ち、どれだけ勉強しなければならない?

 二十歳までに死にたい!成人式とやらでみんなに会わずに!もっとみんなと話したかったし、遊びたかった、けどそれよりも早く死にたいという気持ちのが強いんだ、事故でも殺人でもなんでもいいさっさとしねますように! 自分という不必要な存在が早く消えますように。生きるとしても目に見えてる未来のために生きてるって辛いなぁ。

 中学の数少ない友達は本当に好きで会いたいとかよく思うけど死にたいとも思う。もう何もいらない自分がこの世から消えてくれるのであれば。今は何も楽しめない。本当にゴミでクソな人生だな。自殺今ならできるかな、とりあえず刃物はは隠しもっといた方がいいよね。 誰よりも早く死んで俺なりの幸せが手に入りますように。


死にたい、生きたくない、殺して欲しい、消えたい、存在価値がない、夢も希望もない、死こそがすべて


 周りと比べ自分に感じる劣等感、どれだけ自分の存在が不必要か思い知らされる。周りと比べなくとも自分には何もできないと思い知らされる、さっさと死ねばいいのに。勉強をしないといけないのはわかっていても行動できない。たとえケータイを捨てたり、マンガを捨てたりしても勉強せずに寝っぱなしになってしまう。

 楽しかった運動も周りとの才能の違いを思い知られ、今やこの中途半端な自分の才能は心の重りにしかならない。部活でも才能の差を思い知るし、努力しても追いつけないと気づいてしまう。中途半端な努力をしていたとも言えないが。ストレス発散もできるし、好きだった運動も辛さの元になってしまった。

 将来の目指す先が見つからないから大学の学科を選ぶのも困るし、理系と文系どちらも今学力は同じくらいで理系は好きだができないからどっちに進むべきか決められない。そもそも生きている意味がわからない。将来やりたいこともないのに勉強なんてできるわけないし、マンガを読むのは好きだがそのために生きてるなんてバカバカしい。

 兄は高校生で鬱病になってしまった。だから自分は高校では潰れずに頑張ろうと思っていた。兄のいないとこでたまに家族が酷いことを言っている。それを知っている自分はそんなことを言われたくない。なんとなく家族からの重圧がかかっている気がする。死にたい。親に心配かけたくないから鬱なんて言えない。すぐ寝れるけど前より寝つきが悪い。できるだけ早く死にたい。

 不登校寸前 、あともう少し踏み入ったらもどれないこまで来てる。身体は正直で理性ではどうにもならない。早くて今年度中に潰される。気づくのが早くても確信するのが遅ければもう手遅れなのかな? いつから俺の歯車はずれたんだろう。写真撮るとき笑えないのもこのせいかな?

 教室にいる時息苦しく感じる時がある。俺がすぐに寝れるのは身体が常に緊張して疲れてるせい? 好きなマンガすら面白いと感じなくなってきた。俺が嫌いなのは青春を幸せを追い求めない自分なのかな。体育祭や文化祭などの行事の写真を見ると胸が頭が痛くなる。写真に写っても笑っていない自分も嫌い。

 幸せは歩いてこない、逃げていく一方だ。自分が想像するイメージ全てぶっ壊れてる、途中まで良くても全部ぶっ壊してる。楽しいと思えばなんでもできるようになる?ここの所ずっと俺は自分自身を叱って、蔑んできた。長い間そうやって自分を奮い立たせればできると思いそうやってきた。でも、それは間違いだったとしてどうやってやる事なす事楽しむことができるの?楽しむという感覚はどこから湧いてくるの?楽しむって何?どうやったらいいの?本当の人生は辛いこともあるけど辛さあっての楽しさがあるんだろうなぁ。 楽しみたい、楽しんでみたい、幸せになりたい、自分の人生を満喫したい。けど怒りと哀しみは覚えていてもかなり前に喜びと楽しみは捨てているから思い出せない。自分がまた昔のように素で満面の笑みを浮かべ幸せそうにしている生き生きとした姿を今に取り戻せるといいなぁ。そんな姿で友達とクラスと心の壁を取り払って接することができれば変わるんだろうなぁ。結果を想像することができても、結果まで導く方法は思いつきもしない。いや、思いついていても心の奥深くで閉じ込めているのかもしれない。

 今の自分に本当の自分なんてどこにも存在しない。俺は誰にも何も求められていない。おまえ自身に存在する価値はない。お前に求められているものは死ぬことのみだ。早く死ぬことだけ考えろ。イメージするのは死に方だ。死ぬ方法だ。必要なのはそれだけだ。俺はもう他に求めるものはない。これ以上の幸福はきっとないのだから。

 俺は学校で自分のクラスの窓から飛び降りた。

 俺はカウンセラーに毎週行くことで自分の心境がカウンセラーを受け始める前よりもより詳しくわかるようになった。そして自分が段々よくなりこのまま上手く行けば昔の元気で無邪気な自分に戻れるかもしれなかった。 しかし、そのまま良くなるほど世の中そんな簡単にできていない。俺は中途半端が嫌いで極端が良かった。俺には良くなりたいと思うことがなかったので自分が魔に取り憑かれる最悪の状態か、昔の状態にどちらでもいいから早くなってほしかった。ここで問題が発生する。俺は面倒臭がりだからなるべく時間をかけたくない。と、するとどちらが良いだろうか明白であろう。



           *


 俺は飛び降りたが打ち所が悪く平気で立ててしまった。そして瞬く間にクラスに戻り走って窓から落ちる。またまた打ち所が悪かった。今度は先生が通さまいと道を塞ぐが俺は逃げるのが得意だったので最初の道とは違う道で駆け上がる。クラスの前にも先生がいて流石にそこから降りるのは難しそうなのでプラザの前の窓ガラスに飛び込み割って落ちた。それでも、まだ死ねなかった。そろそろ出血大量で意識が飛びそうだが、まだ死ぬには確実じゃない。割れた尖ったガラスの破片を持ち、また階段を駆け上がる。先生が止めに来るので仕方なく尖ったガラスを向こうに向け、否応なしに退いてもらう。最後にクラスから飛び降り、地面に着いたとなんとなく感じたときガラスで自分を刺した。視界がぼやけてよく見えないが、窓から彼女が哀しそうな目で見ていた気がした。俺は彼女が泣いてはいないと思っていた。

 俺は目を覚ました。目の前は真っ白で天国だと思ったので

「ああ、やっと死ねた。」

と呟いた。しかし、見ていたのは死後の世界ではなく、ただの白い天井だった。起き上がって驚いた。窓がある。花のさしてある花瓶も置いてある。俺はベッドの上にいる。近くに鏡があり、自分の姿が写った。頭は包帯で巻かれ、胸がチクチク痛んだので見たらそこも包帯で巻かれていた。 俺は口を開き唖然とした。

「生きてる…?」

しばらくすると人が顔を出してすぐに引っ込めた。何やら急に外が騒がしくなった。



           **


 俺は今から幸せを手に入れる。

「幸せは歩いてこない。だから歩いていくんだね。」

この歌詞の通りなら俺にとっての幸せが死ぬことである以上、待つだけでは何も始まらない。自ら進まなければならないのだ。

 刃物を手に持ち飛び降りる。地面にぶつかり、意識が飛んで生きていても困るし、それは辛いだけだから刃を自分に向けた。地面に刃物の柄がぶつかりそこに俺が落ちて突き刺さった。

 彼女の机の中に一通の手紙を入れた。



     ある人へ

 手を差し伸べてくれた。助けようとしてくれた。何度でもいつでも救おうとしてくれている。でももう無理、無理だよ。もうどうすることもできない。もう元に戻ることなんてできないんだ。この俺であり続けた期間があまりにも長すぎた。戻ろうとしてもそれを拒み邪魔する俺がいる。嬉しかったけどこれ以上、迷惑をかけたくない。こんな俺のために無駄な時間を過ごして欲しくない。だからね、あなたの前では必ず偽りの自分でいるって決めているの。心配する必要ないくらい明るく振る舞うんだ。あなたが幸せでいられますように。

 好きだったよ。大好きだった。


 自分に居場所なんてなかった。常に外では偽りの仮面をかぶり続けた。いつしか家でも仮面をかぶっていた。気づけばいつでも仮面をつけていた。自分を守るために自分にすら素顔を見せず仮面をかぶっていた。 もうどこにも居場所なんてない。誰からも必要とされず求められない。いなくなったところで誰も気づかない。誰か信用したくても、することができない。死ぬまで一生、仮面をかぶり続けないといけないのだ。誰かに外してもらうことを期待し続けるもそれは虚しくも意味を成さない。理由は単純。俺の代わりはいくらでもいる。心を閉ざしている者より心を開いている者の方が信頼しやすいからだ。死ぬまでこのままかぶり続ける地獄の日々を避けることは免れることはできない。そして耐えることすらもう限界だった。

 一瞬でも俺の本来の自分であなたと話せたことを話した時間を嬉しく思うと共に幸せに思います。


 Nec possum tecum vivere,nec sine te.

 あなたと共に生きられない。あなたなしに生きていけない。


 もう会えないから寂しいな、あはは。



           *


 俺は病室で寝ていた。正直、何をしたのかほとんど覚えていないが一つだけ言えることがある。俺は自殺未遂で終わってしまったということだ。

 外が騒がしがったのはクラスの人たちが来てくれていたからだった。何人かこぞって部屋に入ってきた。クラスの全員が来てないところがまた面白いと思った。

「…………………」

無言の会話が続いた。仕方ないので俺から話し始めることにした。

「どうしたの、みんなそんな暗い顔をして。」

「…………………」

またまた無言だった。

「はぁ…。」

俺はため息をついた。

「だ、大丈夫?」

また俺はため息をついて答える。

「うん、大丈夫!」

俺はそのとき笑みを浮かべたのでみんなはほっとしていた。薄気味悪い目が笑っていない笑いとは気づかずに。しかし、一人だけは安心せずに心配そうに顔を暗くしてこっちを見ていた。その目は全て見透かしていて俺はそれに何か刺されたような痛みを感じた。

 みんなには嘘の仮面をかぶり続け、何事もなく普通の人のように話して笑い合い、しまいには誰もが俺のことをもう大丈夫だと思って気兼ねなく帰っていた。ただ一人、彼女を置いて。

「二人きりになっちゃったね。」

この人の前で嘘は意味をなさないと思い、俺は自然な少し引きつった笑みを浮かべた。

 微妙な空気が二人の間に再び流れ、また沈黙になった。その均衡を崩したのは俺だった。別になんとも思っていないはずなのに何故か視界がぼやけはじめる。服が濡れ始めたので室内なのに雨が降っている気がした。

「なんで…、どうして…、目の前が…、ぼやけて…、るの…。」

目を拭いながら彼女を見ると、彼女は目に溢れんばかりの涙を留めていた。その涙は静かにゆっくりと流れ落ちていた。

「なんでそんなことしたの…。私でよければ話を聞くっていったじゃん。なんで相談してくれなかったの。なんで…。」

「だって大切な人、いや好きな人と言うべきなのかな。あー、どっちも変わらないか。好きな人に暗い話をするより明るい話をして笑顔でいて欲しいじゃん。しかも、あの人と付き合っていて幸せな時間を過ごしてるのにそんなの邪魔でしかないよ。俺には好きな人の幸せが一番大事なんだよ。」

「大切な人のひとりだから、おねがいだから死なないでほしい。」

「好きな人いるのに俺のために泣くの?」

「なくよ、大切な人だよ?死ぬってもう会えなくなるってことでしょ?」

「俺のために泣くなんて涙が勿体ないよ。死んでも会えるよ、魂は入ってないけど。」

 そのあとの会話は言葉と言葉の殴り合いだった。自分たちの感情を相手に伝える為に考えに考えていた。殴り合っているうちに段々と意気投合していき、怒りや悲しみといった感情は喜びや楽しみへと変わり、いつの間にその部屋の空気は暗い雰囲気から明るい暖かみのあるオレンジ色になり、廊下にまで響き渡る二色の綺麗な笑い声が聞こえている。


 人が歩く道は先が何も見えない。夢や希望という真っ暗闇にさす小さな光を目指し、不安定で不正確な道を進む。その道にはいくつもの選択肢が無限に広がっている。パラレルワールドという言葉があるように。 人は必ず選択肢を迫られ、分岐点に立たされる。選んだ道が夢や希望に進めるかわからない。が、また新たな目標を見つけ進めることもできる。逆に何もかも失い、死を求めることもあるだろう。 人の進む道は多種多様だ。それ故、辛い結果があるかもしれない。必ずしもその先にいい結果があるとも限らない。諦めてしまうかもしれない。それでも、諦めず進んでほしい。幸せを追い求めて。そして幸せを感じる時間を大切にして欲しい。

俺は今もまだ苦しみながら楽しみながら生きている。

誤字脱字等ありましたらすみません

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