戦ってもらっても…… 2
その時、そばに控える侍女のテレジアが心配そうに声をかけてきた。
「ロザリンデ様、お疲れですか? お顔の色があまりすぐれないようですが」
「まあ、ありがとう、テレジア。わたくしなら大丈夫よ」
ぎこちなかった表情が、たちまち花がほころぶような笑顔に変わる。
「でも心配してくれて嬉しいわ」
ロザリンデはさらに侍女の白い手を握った。その柔らかさが心地よくて、できればこのまま離したくないとさえ思ってしまう。
テレジアは若いながらも特に気の利く娘だが、ロザリンデは彼女だけでなく、女官や小間使いなど、仕えてくれる女性たちにはことのほか優しかった。
宮廷勤めをするくらいだから、使用人たちは揃って器量よしで、献身的に働いてくれる。ロザリンデにすれば、いくら地位が高かろうと、よく知らない男性よりもきれいで優しい侍女たちと過ごす方がずっと楽しいのだ。
――だって触ると柔らかいし、すべすべしているし、いい匂いがするし……第一かわいいし!
それに比べて男性というのはどこもかしこもごつくて、たとえ華奢に見えても骨っぽい。ダンスの時に身を預ければ、すぐわかるのだ。
ロザリンデはどういうわけか、その感触が好きになれなかった。筋肉に覆われた厚い胸に抱かれると、虫酸が走って倒れそうになる。
だからダンスも舞踏会も実は大嫌いだ。もちろんリンネルドを継ぐ者として、いずれは配偶者を見つけなければならないことはきちんと理解しているけれど。
「それでは何かお飲物でもお持ちしましょうか?」
「どうもありがとう。でも今はいいわ」
テレジアのピンクの頬や、きれいな空色の瞳を見ると、ロザリンデの気持ちは明るく弾む。どう考えたって、がっしりしていて髭面や鋭角的な顔立ちの男たちより、かわいらしい娘たちの姿を眺める方がずっと楽しいのに。
――いっそ女の子と結婚できればいいのだけれど。
ロザリンデは愛らしい侍女から無理やり視線を剥がし、剣戟の音を響かせる男たちに目をやった。
どこかの王太子とどこかの侯爵の子息とやらはあいからわず軽やかに剣を打ち合っている。ロザリンデのために自身を懸命にアピールしているのだから、少しは見てやらなければ失礼だろう。だが――。
――いったい何なのかしら、あれは?
二人を眺めているうちに、ますます気持ちが波立ってきたのだ。剣さばきのみごとさに心が躍ったとか、彼らの男らしさにうっとりしたとかではない。むしろいらいらしてきたのだ。
――腰が入っていないわ、全然!
もちろんロザリンデはこんなふうに戦ったことはない。剣を握ったことさえないのだ。それなのにどうにも落ち着かない。
――もっと鋭く!
どうみても二人の戦いは真剣勝負とはいえない。それが許せなかった。彼らに何より足りないのは気合いだ。
「き――」
思わず気合いを入れろと怒鳴ってしまいそうになり、ロザリンデは慌てて唇に扇を当てた。