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夢みる彼女とめざす未来  作者: 鮎坂楓
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敬愛なるモーツァルトと始まりの終わり

 敬愛なる作曲家モーツァルトは

「音楽は自らの人生であり、人生は音楽である。」と語った。

 三十五歳という若さで死去してしまったが、彼は五歳から作曲を始め生涯を終えるまでに七百曲以上の曲を世に生み出してきた。

 モーツァルトの語る言葉が、今の自分を奮い立たせる。

 震える右手を、そっと胸に当てながら、ぐっと目蓋を閉じる。


(勇気を出せ!ここまでがんばってきたんじゃないか!こんな事でどうする……)


 なかなか一歩を踏み出せない自分に言い聞かる。そして、大きく深呼吸。

 こんなに緊張したのはいつ以来だろうか……初めて参加したピアノコンクールの時も震え上がっていたもんだ。

 これから起こる出来事を想像すると、いつも緊張してしまい一歩を踏み出せない。

 そんな自分がいつだって嫌で、どうしていつもこうなんだと自己嫌悪するばかり。


(だからこそ、自分は変わるんだって……今から新しい自分に生まれ変わるんだって!)


 ぱっと目蓋を開き、震える右手で目の前にあるマウスをぐっと力強く握る。

 もう逃げることなんてできない、後は目の前の現実を、希望に満ち溢れているであろう新しい未来へ一歩を踏み出す。


 カチッ――


 深夜二時を過ぎた自分の部屋に響き渡るクリック音。

 ゴクりと息を呑むと暗がりに光るモニターには『投稿が完了しました』の文字が表示される。

 初めて自分が作曲したオリジナル楽曲を動画サイトに投稿することができた。


 その瞬間、これまでに費やしてきた作業が走馬灯のように脳内を駆け巡る。

高校一年の秋、音楽科に通う俺こと、立花優太は、人気動画サイトでオリジナル楽曲を作曲し、動画として投稿する作り手という存在を知り、そこに新たな可能性を感じ、ただただ平凡な日々をより有意義な生活にしたいと願い、ようやくそのスタートラインに立つ事ができたのだ。


 ついにやった……俺はやり遂げたのだ。

 この記念すべき瞬間をどう表現すべきかと居たたまれず、部屋の中を転げまわった。


(俺……マジがんばったよ)


 きっと敬愛なるモーツァルトも喜んでくれてるに違いないと頷きながら、部屋の天井に向かってお祈りを捧げながら、興奮が収まらないまま自分が投稿した動画を……もといデビュー曲を満面の笑みで何度も視聴し続け、朝を迎える事になった。


描いていたデビューとはほど遠い現実を目の当たりすることとは知らずに――


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