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とある妄想女のこじらせ顛末

作者: マスカルポーネム

勢いで書きました

セレスティア星の人々には特殊な体質がある。

それは、婚姻を結び性交渉した男女は魂をも呪縛し合いまさに一心同体となるのだった。

そのため婚前の性交渉はご法度。

魂の呪縛が成された場合の一番の特徴が、別の異性とは婚姻が成立しないからだ。

そして、呪縛前の自身の性格や性質が相手の影響を受けてどのような変化を遂げるのかが分からない。

例えば片方が魔法を全く使えない者でもう片方が魔法に長けた者であれば、どちらの性質に引き寄せられるのか?

何も変化のないケースや両者共に魔法が使えなくなったり使えたり属性が写ったりと様々で、結果は結ばれてみなければわからなかった。

法律で定められた婚姻可能な年齢は男女共に14歳以上で適齢期が25才までとされているが、治安の良くない地域ではこれを下回るケースで婚前性交渉が発生し、「間違い」ではすまされないこの問題は万国共通の悩みである。



ルナ・システインは物語を読むのが好きで、魂の呪縛が存在しない別の星の人々の自由な生き様に憧れて空想を重ねた。

「間違い」に合うのはほぼ女性の側なのだ。

稀に逆もあるようだが意に沿わない行為を受けた場合に取り返しがつかないなんて許せなかった。

ルナ自身は比較的治安の良い家庭で産まれ、幼い頃より「間違い」から守られて育ったのだが、祖母の古い日記をこっそり読んでしまってからは魂の呪縛に恐怖と怒りを抱いた。

祖母の日記には祖父に対しての恨み辛みがビッシリと書き込まれており、初恋の相手への未練が読み取れ心が苦しくてたまらなかった。


魂の呪縛なんて消えてしまえばいいのに。


物語のキャラクター達のように、思いのままに生きていける世界にならないだろうか。

ルナは、「間違い」があってもやり直せる世界をひたすら夢見て24年が経ち、これといった初恋も経験しないまま結婚適齢期があと一年と迫っているのだった。



「ルナっ!明日はもう逃げられませんからね!」

「はーいママ」

「お仕事は休みなのは確認させてもらったわ。体調も良さそうだし。明日の10時よ。」

「‥っ!はーいママ」

「今度という今度は出席してもらいますからね!」

「うん会う会う」

「ええ良い心掛けだわ。すっぽかしたら、職場での貴女の立場が悪くなりますからね。」

「はーい‥え?」

「課長さんのところのご子息よ。明日の10時は絶対だからね?」

「‥‥‥‥」



「ルナ・システイン、24歳。いよいよ年貢の納め時である。だね!!!」

「カルディナさん。楽しんでるでしょいいなぁ。そりゃ他人事だもんね。」

青い顔で出勤したルナに反し、職場の人々は楽観してからかいモードだ。

「そりゃそうよ!あんただって散々私たちの結婚に妄想垂れ流してくれたでしょう。」

「そうよ。貴女の語る純愛に満ちたメロドラマももうおしまいおしまい。」

「王子様なんていません!諦めなさい。現実なんてあっさりしたもんよ。」

「エレイン。いくら幼馴染みでもさ言い過ぎじゃない?楽しんでるでしょいいなぁ。そりゃ他人事だもんね。」

ルナが恋愛もせず見合いも突っぱね続けた結果、職場での独身者はルナと後輩のアルバのみとなり、どちらが先に逝くか賭けが行われているくらいだった。

ルナの職場はパルメザン国王宮の一室。

婚姻を結んだ男女の魂の呪縛を管理する課の総務部で、10名ほどが在籍している。

「課長のご子息ってのはビックリだわー!ルナのお母様の本気が伝わる。」

「課長のご子息って確か3人よね。」

「ああ、次男のウイルフレド様ならお会いした事があるぞ。なかなかのイケメンだぜ!」

「あらウイルフレド様は売却済みじゃない。ほら伯爵家の次女と。」

「そっか、じゃ三男坊のカイン様!」

「へえ、どう?イケメンだった?え!?写真見てないの?何でよ!」

「カイン様は穏やかなお人柄だぞ。ルナにはもったいないんじゃないか?」

「超いいじゃないー!見合いから始まる恋愛話だってたくさんあるんだからー!」

始業前のお喋りが尽きない中、主役であるはずのルナはひっそりと抜け出しデスクに着いた。

見合いから始まるハッピーエンドはルナも好きだ。

しかしバッドエンドも存在する。

どうせバッドエンドを迎えるなら家が決めた相手じゃなくて自分で決めた相手なら自業自得、諦めもつく。

チラリと横目で確認すると隣のデスクの主はまだ出勤していなかった。

同じく独身のアルバ・フレックス(男)だ。

遅刻常習者。

おまけに就業中の居眠りはよくあることなので一体何故クビにならないのかと憤っていれば、記憶力がずば抜けて高くこちらが資料を漁る前にスラスラと詳細を言い当てる技能を持っているのだった。

いつも漆黒の重たげな前髪で目元が隠れておりいつも私語は謹んでいるので何を考えているのかサッパリ分からない。

笑顔なんて見せたことがない為、相まって不気味な人物像が出来上がってしまった。

今日も今日とて、部長が朝礼を行っている最中にノソッと現れたと思えば、ほんのわずかな一礼だけでルナの隣に座るのだった。



昼休み。

ルナは明日の10時の件で頭がいっぱいだった。

課長の家は由緒正しきお宅でご子息は好青年ともっぱら評判だ。

ただ、どんなに素晴らしい人物であっても人には必ず欠点がある。

今日会って明日その人の全てが暴けるわけじゃない。

その為にいくら見合いの後お試し期間でお付き合いできるとはいえ、顔を合わせたが最後、結婚が決まったようなもの。

その段階で返品なんてしたらもっと面倒くさい。

いつもと違って今回は利害の絡む相手なので断る勇気はハンパないのだ。

もう、諦めようか?

ここまで抗い続けたのに、結局システイン家が持ってくる見合い相手に従って魂を捧げようか?

祖母の日記を読まなければ、物語に興味なければ、ここまでこじれる事なく素直に結婚してたかな?

いや、たらればを言い出したらキリがない!

ルナが思考の海に沈んでいると、目の前にサンドイッチが置かれた。

隣に目をやると、アルバが同じサンドイッチをかじりながら資料をめくっていた。

「‥食った方がいい。」

アルバはそれだけを言うと、こちらには目もくれずに資料を睨みつけながらサンドイッチを頬張っている。

そんなアルバを見てルナはこの人意外と大口を開けて食べるんだな、と関係のないことを考えていた。

総務室は、ルナとアルバの二人だけであった。

そういえば、先程エレインあたりが食堂へ誘ってくれたような気がする。

ルナはアルバの横顔を見た。

二つ年下のこの後輩とは一緒に仕事をして三年程は経つだろう。

遅刻、居眠り、一匹狼、だけど記憶力がずば抜けていて仕事はよくできる。

中肉中背で、どうも冷え性らしく毎年冬は結構な厚着を着ていてモコモコしている。

この男に浮いた話は聞いたことがない。

雑談や冗談をふっても話が全く発展しないので、皆あきらめた。

そんなアルバが売店で一体どんな顔をしてサンドイッチを二つ買ってきたのだろう。

きっと、いつもの無表情なんだろうけどさ。

そう思った後ルナは突き動かされるように口を開いた。

「ねえアルバ。明日の朝ヒマ?」

「‥‥‥。」

「ねえそれ、急な案件なの?離婚希望のゴンズマンドローゼズ夫妻よね。まとまりそうじゃなかった?」

「いや、夫人の方が怪しい動きをしているという報告がある。」

「明日は休みよね?ちょっと付き合ってくれない?」

「‥‥‥。」

完璧だ。

仕事以外の話はしない。

きっと私にサンドイッチ買ってきて食えと声をかけてくれたのも午後の業務に支障をきたすからだ!

自分は居眠りするくせに!

「私ねこのままだと来週の月曜日から仕事に支障をきたすの。そうならないようにはアルバの協力が必要なの。」

「‥‥‥。」

無言ではあるけれど、こちらを伺う気配が伝わってきた。

ルナは一気に告げた。

「明日の朝9時に10分間だけ私の家で恋人のフリをして見合いをぶち壊してくれない?」

ゆっくりと首を動かしこちらに視線を合わせたアルバは、今までで一番見たことのない顔をしていた。

普段俯きがちなので知らなかった事だが意外と顔の造りは整っていた。

翡翠の瞳が綺麗だ。

アルバあんた俯かなきゃいいのに、なんて残念なんだろう。

二、三分経っただろうか。

やっとアルバの時計が動き始めた。

「‥俺が、か?」

永遠の沈黙が始まるか開口一番に拒否されるかと投げやりだったルナは瞬時に体勢を変えた。

「そう!お願い!!私にできる範囲でお礼をするから!私にできる範囲で給与を差し出すから!」

アルバの右肩が小さくガクッと下がったのは気のせいか。

「そろそろ結婚した方がいいんじゃないか?」

「何かアンタには言われたくないわそんなもっともなご意見。まだ、諦めたくないのよ。もっと自然な出会いで恋愛してじっくり見極めてからがいいの!」

アルバが仕事以外の話をしてくれている!

これはいいネタだとは思ったけれど、今回は切羽詰まっていた。

「‥‥現実は直視した方がいい。」

「もうっ!とにかく、アルバあんた記憶力良いでしょ、今から私の考える計画を覚えて実行して!まず、変装してそして明日の9時に我が家に来ること!そこで偽名使い、演技で私の恋人として私を家から連れ出すこと!走って曲がり角を曲がったところで解散!!ザッと30分。いや10分くらいで終わるかな?」

「‥‥‥。」

「あーっ待って待って、もう雑談おしまい!?今の聞いてたでしょ?あんたが一番苦手な行動なのは分かる。分かるけど、玄関で突っ立っててくれるだけでいいのよ!話は私が進めるから!通常運転でいいから!」

ちょうどそこでドアの外から複数の話し声と足音が聞こえてきた。

ルナは慌てて席に付き素早くサンドイッチの封を開け声を落とす。

「待ってる。アルバ。独身仲間がいなくなるのは寂しいでしょ。」

寂しいわけないだろう、という反論はもちろんなかった。



システイン家で迎える24年間の朝で、こんなにも気が重いのは初めてだ。

ロクに睡眠が取れなかったルナは無残な顔をしている。

張り切る母から叱咤激励を受けつつお化粧にオシャレ服にとなすがままされるがままだった。

そうして時計の針は9時に近づいていく。

母がテーブルを再確認している隙にルナはそうっと玄関へ向かう。

普段は身につけない膝下のフレアスカートが足元をスースーさせる。

「アルバぁ。報酬は本気だすからさ。あんたの好きなものなんて知らないけど。もしアイドルグッズがいいとか言われても引かないからさ。頼むよ。」

ルナのつぶやきに応えるように、玄関のベルが鳴った。

「!?」

母が素早くこちらへ来るのが見えた。

「まあまあ!もう来られたのかしらっ?あっ!ちょっと待ちなさいルナ!?」

ルナが母よりも先に玄関のドアを勢いよく開けた。

そこには、朝の太陽の光を背に浴びたキラキラな好青年が立っていた。

ルナはそれを見て右肩をガクッと下げた。

けどさすがにドアを開けたそのままの体勢で黙っているわけにはいかない。

「‥いらっしゃいませカイン様。お待ちしておりました。」

希望が絶たれた今、背筋だけは伸ばすも目くらいは伏せさせてくれ、ルナはそう思い見合い相手を誘導しようとした。

「あら、ルナ?この方もカイン様とおっしゃるの?」

母の動揺した様子に、ルナはハッと客人へ目をやった。

漆黒の前髪はオールバックに手入れされており、ダークブラウンのコートやブーツをお召しの、まさに貴公子が堂々と佇んでいる。

「はじめまして。私はアルベール・フォックスと申します。ルナお嬢様とは仲良くさせていただいておりますので、今日は居ても立っても居られずお邪魔いたしました。」

急にルナの視界が揺れると肩に手が、背中に腕がぴたりとくっついた。

どちら様?

ルナは間近にあるその整った顔をよく見た。

翡翠の瞳。

「あ!!!!えええ!?」

アルバ、と叫ばなかっただけマシだというのに、肩に添えられた手に力を入れられた。

「いだっ、そう!そうなのママ!!私ねあ、アル、アルベールさんとイイ仲だから!お見合いはできないの。もし強引に進めるなら私アルベールさんとこのまま駆け落ちしちゃうんだからね!そんなの困るでしょ?」

嘘がバレないうちに出てしまえ!

母が後方で何事かを叫んでいるのを無視しルナはすぐさまドアを開け、アルバの手を強く引っ張り家を飛び出した。



門を出て曲がり角を曲がったところで、二人は足を止めた。

「はー、はー、やった。はーはー、やったわ!」

母はこれでもう見合いを諦めるだろう。

「ごめんね〜アルバぁ!疲れたでしょう。」

ルナは息を整えながら溢れんばかりの喜びを抑えつつ繋いだ手の主を気遣うと、そこには息一つ乱さず悠然とするイケメン様が呆れた目をしていた。

「今はアルベールだ。行くぞ。」

呆然としたルナは手を緩めようとするも離れず、先程とは逆に引っ張られながら商店街へと歩き出た。

土曜の朝の商店街は穏やかなもので人はまばらだ。

「ちょっと、アル‥ベール‥さん、あの、もう解散で、いいですよ。目的は果たしました!」

「ルナ・システイン。」

「はいっ。アルベールさんいかがなされましたか?」

外見も雰囲気も話し方も何もかもが違い、もはやアルバとは別の人格だとしか思えず普段のように気安くできなくなってきた。

「自宅から職場までの距離は遠くはないものの、今までは治安の良さに守られていたようだが今後それはないと思った方がいい。」

「?まさかそれは私の貞操の話ですか?」

「ああ。密偵部からの情報だ。」

「え?私の、貞操が危ないという情報?」

アルベールは横目でルナに肯定の意を示しながら歩を進め続ける。

緩やかな登り坂に入ると、品を店の裏口に搬入している最中なのであろう荷車が突然動き出した。

ギィと音をたててフラフラとこちらに向かい速度を増したので避けなければぶつかりそうだ。

急な事だったし、家を出る時に慌てすぎてツッカケを履いてきたルナは動けなかった。

けれども、ガタガタゴトン!と音を立てただけで荷車は止まった。

否、アルベールが荷車の勢いを片足で殺し、こちらに崩れそうだった段ボールを片腕で抑えていたのだった。

おまけに空いたもう片方の腕でルナを抱え込むようにして守っている。

「下がっていろ。片づけてくる。」

涼しい顔で軽々と荷車を元の位置に戻しに行ったその姿はまさに物語に出てきそうな万能王子様である。

この人は誰?

あのモコモコ猫背の根暗な後輩は何なの?

「すごくカッコイイんですけど‥」

ルナはときめいてしまった。

「好きな色は?」

そんなルナのもとへ何事もなかったかのように戻ってくると、アルベールは突拍子もない質問を投げかけてきた。

「へ?何で?」

「後で説明する。」

ああ、必要最低限の会話しかしないところはアルバそのものだ。

「赤かな。」

ルナがそう答えたところで、何だか眩しげなお店に案内された。

ルナが店内を見渡すと様々な石や宝飾品が飾られているのが分かった。

これが物語ならよくある婚約指輪選びか?

アルベールはカウンターで店主と話をしている。

”彼女に似合う指輪を”

なーんて言ってたらどうしよう!

ルナの妄想ゲージがここまで高まり興奮したのは史上初だった。

近くに置いてある等身大の鏡には、女子っぽいオシャレ装備を身につけた自分と少し遠くにアルベールが映っている。

これはデートじゃない?

ルナがますますヒートアップしているとアルベールがこちらに顔を向け手招きしていた。

夢うつつに近づくとカウンターには様々なアクセサリーが並んでいる。

指輪、腕輪、ピアス、アンクレット。

共通するのは全て、赤色。

「どれか自分の好きなものを選べ。あまり時間はかけないように。」

「ねえ、何で?」

物語の王子様ならここで指輪の一覧出すか、違ってもネックレスじゃないの?

「後で説明する。早く。直感で選べ。」

やっぱりアルバだ。

ルナの妄想ゲージは一気に下降した。

ここは現実、お会計は普通にルナの財布から成されるのだろう。

「直感ね、ハイ。これ安そう。」

ルナはシンプルなアンクレットを手に取った。

「分かった。店主、これをいただく。ルナ、左足を出せ。」

「へ?何で?」

アルベールは無言でルナの選んだアンクレットを素早くつかみとった。

「…後で説明してもらえるのね。」

ルナが好きなのは、お互いドキドキしながらネックレスを後ろから優しくつけてもらうシーンなのだ。

なのに選択肢にネックレスがないどころか、アンクレットを選んだ自分にも非はあるんだけれどもまさか足を出せなんて。

こんなのまったく好みじゃない。

「ツッカケ履いてるしさっき全速力で走ったじゃん、臭うじゃん、いくらアルバでもさ一応男性じゃん、足のにお…」

ルナが言い終わる前にアルベールは左足首をつかみ、靴を脱がしにかかる。

ルナは慌ててカウンターに手をつきながら足臭のことが気になって気になって仕方がないので、右足で踏ん張ったものの、実は力持ちであることが今し方判明したばかりだ。

もう無駄な抵抗だと諦めた。

「アルバ、せめて鼻で息をしないでー。」

ルナが情けない表情で左足を見ると、アルベールが手をかざしながら何事かをつぶやいており、妙な光が浮き上がっている。

光が収束すると深紅のアンクレットが左足にピタリとおさまっていた。

ルナは不思議な感覚に捕らわれながらそれを触ってみるとビクとも動かない。

「説明、してもらえる?」

アルベールは店主に支払いをしながら応える。

「それは見合いを壊した俺の功績に対する報酬にあたる。」

「ぜんっぜんわかんない。」

「今朝行われる予定だったルナ・システインの見合いを壊すことができたら、俺には報酬が支払われるのだろう?」

「そう、そこまでは分かる。」

「お前の左足についているアンクレットがなぜ俺の報酬になるのかが分からない?」

「そう、そこが分からない!」

アルベールは視線を外し、店の外へと向かいながら捨て台詞のように告げた。

「そのアンクレットには俺の呪縛が込められている。俺以外の男による貞操の危機からお前を守る物だ。」

「は?」

ルナはしばらく硬直しその場から動けなかった。

アルベールの捨て台詞を何度も頭の中で復唱しながら、取り返しのつかない事態に打ちひしがれる。

けれども不思議と絶望に陥る感覚はない。

むしろ、アルバ=アルベールと見合い相手カインをおそれながら天秤にかけさせていただくと、前者に傾くだろう。

なぜなら、3年分人となりがある程度分かっているからだ。

ルナはもう一度アンクレットを見た。

深紅のそれは、カウンターに並べられた時よりも輝きを増しているような気がした。

「…きれい。」

店主はルナのつぶやきを聞いたのか聞いていないのか、しわがれた声を出した。

「お嬢さん、殿方はもう外へ出ていかれましたよ。」



その後、妙齢の女が見合い相手の男の屋敷に招かれ、左足のアンクレットが暴走し部屋の一部が焼失した、という案件があったそうな。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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