ハロルドの場合(前篇)
(1/2)本日中に後編上げます
初めまして、私は占族のハロルドと申します。先日占族の養成所を卒業したばかりです。
養成所の成績順に仕え先を決める事が叶います。基本一人の人物に着き一人の占族が着く事になります。向こうから占族がもっと必要だ、と言われてから更に占族を向かわせる事はありますが。勿論経済的に占族の面倒を見られる事も大事です。
不肖私、占族としての成績はトップを保って参りました。
一生を過ごす所を決めるのですから、人ができている事は勿論、楽しい所が良いですね。
占族の先読みで未来を見ましたら、未来が幾つも分岐している方がいました。時にはひっそりと、時には大胆に国を動かしている女性です。動かしている国も複数見えます。
興味を持ち一度御会いする事に決めました。御会いする方の名前はヴェロニカ・ローズ・ロデイン様と言います。
ヴェロニカ様は御年一歳半の幼児で、私がこの事を係りの者に言うと、係りの者は驚いていました。通常私達は、ある程度大きくなった方の元に行くのが通例です。仕方ありません。
私がロデイン国の王城に赴くと、ロデイン国に仕える占族が驚いてやって来ました。
同じ人物の占族になる場合、前から仕えている占族の了承が必要ですから。私が仕えたい方の名前を出すと、皆驚いていきます。
ついにヴェロニカ様と面会が成りました。
「占族のハロルドと申します。この度ヴェロニカ様と仮契約したく参りました」
「はじめまちて、ヴぇろにかともうちまちゅ。こにょたびはかりゅけいやくにいりゃしていただきありゅがとうございます」
(初めまして、ヴェロニカと申します。この度は仮契約にいらしていただきありがとうございます。ああ、舌が上手く動かないわ!)
ヴェロニカ様は舌っ足らずな、それでいて年齢に似合わぬ確りとした挨拶を返してくれた。心の中を読んでいると、自分で考えて喋っている様だ。
これは、当たりかもしれない。
未知のものが見られるかもしれないと、私は期待に胸を膨らませました。
ヴェロニカ様と仮契約を果たし、ヴェロニカ様に勉強を見て欲しいと言われ、私達占族の事を始め様々な授業をしていきます。少しずつ舌っ足らず感が抜けて来ました。
そんな時占族の話をしていると、ヴェロニカ様の考えが読めて来ます。
(そんな温和な種族が世界各国の中枢で働く基盤を作る訳がないじゃない。しかも召使とか言っているけど誰を主とするかは占族次第、見張りの意味しかないわ)
ヴェロニカ様のそんな考えに占族の的を射ていると思った私は少しヴェロニカ様を試す事にした。
「そうですよ、私達は各王家やそれに類する者達を見張る為に仕えに来ます。勿論仕えるのに適した方が居ればその方の為に仕えますが」
私が答えた事に驚いているヴェロニカ様の為に答え合わせを致しましょう。
「私達占族は、相手の心を読む事ができます。相手の心を読むには相手の語源が必要で、私達の知らない語源、暗号などを使われると私達は読む事が叶いません」
私達の読心術は相手の語源を知ることから入る。この事を言えばヴェロニカ様なら暗号を作る事は簡単だろう。
一人で考える時間も必要ですから。
「心を読まれるのは嫌ですか?」
私がそうヴェロニカ様に告げると、ヴェロニカ様は思ってもみない考えを返して来た。
(心読むのは仕事でしょう? 私は楽で良いけど、寧ろ良く疲れないわね)
そう答えてくれました。心を読まれる事を分かってか、言葉ではなく心で返してくれたのです。
心が読めると知ると大抵の者は怖がります。次にどう利用するか考えると習いました。それなのに私を気遣う思い。私はこの方に一生を捧げようと決意しました。
『私、ハロルドはヴェロニカ・ローズ・ロデイン様に一生を捧げると此処に誓います』
私はヴェロニカ様の前に跪くと、占族に伝わる古語で契約を紡ぐ。
ヴェロニカ様はポカンと私を見上げていらっしゃいました。私はクスリと笑うと、ヴェロニカ様に真実を告げました。
「仮契約を本契約にしたのですよ」
私はこの時悪戯心がムクムクと疼いて来ました。
「通常でしたら本契約は早くとも、年齢が二桁に行ってからするのですが」
私がそう言うと、色々状況を理解したのか、ヴェロニカ様がとても嫌そうな顔をしました。
私が主に仕え出すと、主は私が読めない語源で考え事をする事が増えました。対策を話はしましたが、即実行するとは流石です。
主が紙に何か表の様なものを書いていきます。それができあがると、私を呼び紙を渡してきます。
「はろるどこれをおぼえなさい。『あいうえおひょう』です」
そう申されました。恐らく『あいうえお表』と言われたのでしょう。
「まだつぎにおぼえてもらうものがあるけれど」
そう言うと、私に『おいうえお表』を渡してきます。それを見てハッとする。この語源は最近主が考え事をするとき使っている物だ。
「これがあると主の考え事が筒抜けになってしまいますよ」
(喋るのは疲れるわね。私とハロルドは一心同体、それに他にも独り言をする位できるわよ)
私が心配で尋ねると主はあっさり大丈夫と答える。
主から戴いた『あいうえお表』を元にカタカナも習い、漢字も習った頃、主は動き出しました。国王陛下と王太子妃殿下に御会いし、弟殿下達の事を考えた二つの案と自身が動く為の一つの案を告げました。それは全て陛下の名の元に受理されました。