ユーリッヒ・ラインハルト・シュッティルトの場合
俺の名前はユーリッヒ・ラインハルト・シュッティルト、シュッティルト帝国の皇太子だ。
俺は小さい頃病弱で通していた。何故かって? シュッティルト帝国は広大な国土を誇る軍事国家だ。過去には領土拡大を企み、何度も他国に侵攻している。
シュッティルト帝国南側国家が同盟を組み、対策に乗り出さなければならなかったほどだ。
その為、シュッティルト帝国は国内での権力闘争に明け暮れている。例えば叔父達等だ。
祖父、父共に皇帝としては凡庸で、皇弟達が力を強めているのだ。下手に能力がある事がばれれば、自身の地位を脅かす者として殺しにかかって来た事だろう。
そんな俺が七歳の時、転機が訪れた。
帝国内で身の危険を感じた俺は、自分の占族であるバルドを連れロデイン王国に向かった。
ロデイン王国には、バルドの弟が契約した天才児が居る。
俺が調べた所によると、ロデイン王国のスラム改革の発案者だそうだ。スラムが掃除されたせいで帝国の間者が入り難くなっている、と数少ない味方が言っていた。
名前はヴェロニカ・ローズ・ロデイン。ロデイン王国の王孫に当たる。歳は俺の一つ下と言うから恐れ入る。
ロデイン王国の王都に付き、小奇麗な孤児院へ向かう。
孤児院はまだできあがって間もないのか、綺麗なままだった。
孤児院の院長は困惑しながらも俺達を中に入れた。
孤児院で暫く過ごしていると、調べた通り一人の少女が共を連れ訪問して来た。プラチナブロンドにアメジストの瞳をした美少女だ。俺は一目で恋に落ちた。
少女、ヴェロニカ・ローズ・ロデインは俺を一目見ると、底冷えする冷やかな冷笑を向けて来た。何故そんな冷笑を向けられなければならないのか混乱しつつ、その顔から目が離せなかった。
彼女と目はどれだけ合っていただろうか。十分か一時間か、いや実際は一分にも満たなかっただろう。
彼女は俺から目を離すと、孤児院の院長の元に向かって行った。
この時バルドが慌てて俺に話しかけて来た。何でも彼女が問題を起こしたら、診断書とセットで俺を帝国の大使館に突き出すと考えていたそうだ。
突き出されれば困った事になるが、逆にいえば問題を起こさなければ突き出さないという事だ。
彼女(いやこれからはローズと呼ぼう)は、帰る時俺達を馬車に乗せた。
孤児院の院長は文句を言わず、僅かにホッとした表情を浮かべ俺達を送り出した。どうやら正体は分からなくとも、孤児院に居るべきではない事は分かっていたらしい。
馬車がロデインの王城に着くと、王族の住む後宮へと向かって行く。
帝国と違いロデインの後宮は静かだった。帝国の後宮は人も多く、権力抗争の最前線と言って良い。
ローズが人気の少ない場所を通り、俺達を客間に連れて行く。
宛がわれた客間は静かで、人通りも少なかった。人目に着けば俺の事を知る相手も居るだろう。帝国にばれない様に、という気遣いが感じられた。
夕食を取るとロデインの侍従がやって来て、ロデイン国王と面会と相成った。
ロデイン国王と挨拶をし、話をしていると夕食までに考えていた言葉がスルリと出て来た。
「ヴェロニカ王女と婚約したいと思います」
「寝言は寝てから言うべきじゃな、シュッティルトの皇太子殿」
ロデイン国王に皮肉交じりに、一刀両断された。
いくら国土が広くても、内乱の火種を抱える帝国に大事な孫娘を嫁には出さない。と顔に書かれていた。
帝国にその対応ができる国王がどれだけいるだろうか。
結局ロデイン国王の掌の上発破をかけられ、婚約の確約もできず部屋を退出した。
流石はロデイン王国の腹黒狸、もっと手加減して欲しい。
派閥を大きくしなければならなくなった俺は、危険を冒してでも外に出なければならなくなった。
味方からは、今危険を冒して外に出て殺されたらどうするのか、と窘められたが、ローズを手に入れるためならば、多少の危険は切り伏せる。いや、切り伏せねばならないのだ。
公式にロデイン王国に訪問するようになり、ローズとの距離も埋まって来た。外野では、俺とローズが婚約するのでは? と話題になっている。それを真実にするためにも火種を消さなければならない。
俺が十三歳の時、エリック殿が御子息のパトリック殿に王位を譲られた。
この時の式典に俺も出席し、パーティーではローズと踊る事ができた。この時のローズはとても愛らしく、思わず帝国に持ち帰りたかった程だ。
そんな事を考えていると、エリック殿に冷やかに見つめられていた。火種は必ず消化するとも。
帝国に帰って暫くすると、ローズから手紙が届いた。
ローズからの手紙と知り、天にも昇る気持ちになった。
手紙には二人目の占族を雇ったと書かれていた。ハロルド経由で女性の占族を紹介して貰い、契約をしたそうだ。
俺は女性の占族と知り、手を叩いた。
ローズの近くに占族とはいえ、男が四六時中居るとは嫉妬で気が狂いそうだったからだ。
ローズが十五歳になり、とうとう学園に入学してしまった。これでロデイン王国に行っても気軽に会う事はできなくなる。
悲し事だが、同時に俺に設けられたタイムリミットも刻一刻と近づいている事を告げている。
さあ、帝国に仇なす虫達を退治しようではないか。特に身内は念入りに見ておかないとな。
「殿下、全ての準備はつつがなく終わっております。ついにこの時がやって来たのですね」
俺に昔から着いて来た宰相が、準備の終了を告げて来た。
「煮ても焼いても食えない虫退治だ。行くぞ」
陛下には既に安全な所に行ってもらった。後はどれだけ残らず頭を潰せるか、時間の勝負だ。
帝国から火種が消え、俺の事を『血の皇太子』と呼ぶ者達が出て来た。それも仕方ない。内乱に発展して居れば、派閥の種類が多かった分だけ、血が流れただろう。俺の手は既に血で染まっている。それを正当化する気はないが、それ以上にローズを手にしたかったからだ。
久しぶりにロデイン王国に行くと、腹立たしい事にローズの近くに見知らぬ男が居た。何でもローズの弟子になったとか。羨ましい。
ローズの近場に居た者達は、弟子になった者を勇気ある者、生贄と呼んでいたが、それが如何した。ローズの側に居れるではないか!
ローズと婚約する事ができた。まさに天に昇る気持ちがする。いや、昇ったらローズと共に居れないではないか。
帝国が落ち着き俺の結婚に口をはさんで来る者が出始めた。俺はローズさえ居てくれればそれで良いのだ。ローズはどうだろうか。
もし、ローズが愛人など作ったら死ねる気がする。
ローズが更に二人、占族と契約した。普通そんなにポンポンと占族と契約なぞできないのだが。全くローズは吃驚箱だな。
義弟になるはずのカーロンとシュレインから連絡が来た。ローズを狙う女が居ると。
なんだと、許しておかないぞ。
義弟達の元へ急いで向かうと、ギラギラした危険な女と出会った。
バルドの読心術を完全に防ぐ危険な女だ。
そいつはカーロンやシュレインだけでなく、数人のロデイン王国の貴族の子弟に言い寄っていた。俺が顔を出すと、すぐさま俺の元に寄って来て腕を掴んで来る。
触れるな! 俺に触れて良いのはローズだけだ。
今日やっとあの女を追いつめられる。ローズを奪う者は許さない。
あの女はローズを居ない者、として俺達に近寄って来る。ローズほど輝いている者は居ないのにだ。
学園で自供を取るのに追い込んでいると、サロンの扉が開きローズが入って来た。
「御遊戯は終わったのかしら」
『!?』
「ごきげんよう。リアナ嬢は体調不良により自宅療養よ、書類は通っているわ。……治るまで自宅から出る事を禁じます。アルフ連れて行きなさい」
アルフが出て来ると、なお喚こうとするあの女に当て身を食らわし、礼をして出て行った。
ローズは何故あの女を庇うのか、頭に上っていた血を沈めると答えは簡単だった。全ては国の為だ。此処であの女が自供すれば、場合によれば罪に問われただろう。そうすれば、アルフにも害が及ぶ。ロデイン王国に取って、アルフは未来の高官だ。
だが。
「ローズ! あの娘は危険だ。占族の読心術を防ぐ」
占族の読心術を防ぐにはそれなり以上の知識がいる。わずかな間防ぐためにもそれなりに知恵を縛らなければならないのに、あの女は常に読めないのだ。
「あれは変な物が着いてしまったのよ、頭をぶつけた拍子にね。子爵家にいる占族に確認させましたから」
「しかし!?」
「皆は私を心配してくれたのでしょう? 大丈夫ですわ、私はここに居るのですから。……これで心配事は片付きましたし、貴方の求婚にやっと答えられます」
ローズと言い争いをしていると、ローズが僅かにはにかみ俺が前からしていた求婚に答えてくれた。
「ローズ! ……本当だな? 取り下げさせぬぞ」
「ええ、本当ですわ。取り下げたり致しません。どうぞこれからもよ……ッン、……っもう! 最後まで言わせて下さいませ」
「すまぬ」
俺は今まで頭を占めていた懸念が抜け落ち、反射的にローズ抱きしめキスを落としていた。
ローズもう絶対離さないからな。
ユーリッヒはゲームではヤンデレ枠でした。
幼いころから身内の権力抗争に巻き込まれていたせいで心を病んだ設定です。しかし、ローズと幼少期に会い、ロデインの先王に鞭、ローズに飴を渡され成長していきました。
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修正
2016,10,07
サブタイトル修正