後編
1日で終わった……。
私は現在19歳になっている。
帝国も安定し、皇太子であるユーリッヒの地位も盤石な為、そろそろ輿入れをと言われるが、少ししなければならない事があるので、と言って待って貰っている。今までの実績が効いたのか、輿入れの声が小さくなった。
今日は乙女ゲーム開始のアシュターク学園の入学式。気を抜き始めていた私に凶報が入って来た。ハロルド達も未来が定まってはいないとは言ってはいたが、流石にこれは無い。物語の吸引力だろうか……。
「まさか、ベッドから落ちて頭をぶつけた拍子に、人格が入れ替わるなんて。……暫く監視の強化を」
『御意』
占族達にリアナ・シリテ嬢の監視の強化を命ずる。
若干の罪悪感に苛まれつつ、リアナ嬢を占族に監視して貰っていた。その結果がこのような事になろうとは……。
弟妹達も若干甘さは有るものの、この国を盛り上げる能力は有しているし、それぞれの婚約者とも上手く行っているようだ。
最近、フェリクとルイスと言う2人の占族が増え、4人になった。
これを聞いた周囲は何故か遠い目をして、乾いた笑いをされ、ハロルド達に「トップに立つのが御辛いようでしたら、是非占族の養成所に」と言われ戦慄した。
“王族としての立場”ではなくトップという事は、帝国の后妃にならないなら女王になれ、ということだ。まかり間違って降嫁する羽目になったら、問答無用で拉致され養成所とやらに放り込まれない。異様な身体能力や不思議パワー持った、占族の養成所に入れようとは、流石にゾッとする。ユーリッヒ、婚約してくれてありがとう。
入学式の当日の朝このような事になろうとは、様子を伺わせておいて良かった。
都合が悪いというか何らかの引力か、入れ替わった人格は【私の王子様を見つけましょう】をプレーしていた子だ。しかも入学式の日に入れ替わったせいで“自分に取って最高の夢”状態になっている。そう、現実感が全然ないのだ。幼少期等に入れ替わっていれば、現実を受け入れさせる為に動いたのに、まさか当日とは。今は様子を見るしかない。
リアナ嬢が入れ替わった事で、物語の吸引力に嫌な物を感じたが、アタックされている弟やその友人達は苦々しく思っているだけの様だ。寧ろ騒動が起こる度、それぞれの絆が深まっている。
全員が占族を得ている事もあり、自分達で解決するため頑張っている。
噂を聞きつけ動こうとする輩には、何か有れば私が動くから動くなと伝えて、行動を控えてもらった。これ位の手出しは許されるだろう。
学園が夏季休暇に入る直前弟妹達が臨戦状態に入り、ユーリッヒを呼んだようだった。即行でやって来たユーリッヒは、私に会っていない間弟妹達と計画を練っている。
何が有ったのか探るのは控えた。私を心配している彼らとユーリッヒを呼んだ事で、私に関する事だと分かったからだ。
……弟妹達とユーリッヒの計画が成った、夏季休暇も終わったアシュターク学園にて、本日断罪をするらしい。
「殿下、アルフ様がお越しです」
ハロルドの声を聞き呼んでいた書類を机に置くと、2年前卒業した学園にアルフを連れ乗り込む為馬車に乗る。
馬車で学園に向かう中、アルフに話しかけられた。
「殿下、妹の為尽力して下さり感謝いたします」
「それ程の事ではないは、リアナ嬢の罪ではないのだから。言った事だけれど乗っ取ってしまった何かが悪いのよ」
「それでもです。私達だけでは気付けなかったでしょう」
プレイヤーだった子もどうやら意固地になっている様だった。
現シリテ子爵は善良で、次期子爵であるアルフは有能、学園在学当時から私に弟子入りして、食らいついて来ている。子爵位を継ぐまで中央で官吏として働きたいと言っているが、上司からは継いでも中央で働いて欲しいと言われているのは、有名だ。
リアナ嬢自身、人格が変わるまでは父親似の善良な人間なのだから、今のシリテ子爵家に泥を被せられたら困る。
学園に着き、ハロルドとアルフを連れ王族や公爵家専用のサロンに向かう。
他の生徒の耳目に触れないように、このサロンで断罪するのは良いがその人数で威圧するのはどうか、と思う。情報が上手く繋がらない苛立ちと警戒だろうか。
扉が開くとヒステリックな声が聞こえる。呼吸を整えると、一歩足を踏み出す。
「御遊戯は終わったのかしら」
『!?』
「ごきげんよう。リアナ嬢は体調不良により自宅療養よ、書類は通っているわ。……治るまで自宅から出る事を禁じます。アルフ連れて行きなさい」
アルフがなお喚こうとするリアナ嬢を当て身で寝むらせると、抱き上げ、礼をして出て行く。それを見て、固まっていた者達が動き出す。
「ローズ! あの娘は危険だ。占族の読心術を防ぐ」
占族の読心術は、訓練すれば誰にでも一時的に防ぐ事は可能だ。占族の知らない語源、占族に知られていない特定の暗号や、個人で作った暗号が該当する。
周りに知られると、占族が気付く場合があるので、大抵は少数で作った暗号をそれぞれ管理する。
それをほぼ常時読めない状況内に有れば警戒するな、とは言えない。
「あれは変な物が着いてしまったのよ、頭をぶつけた拍子にね。子爵家にいる占族に確認させましたから」
「しかし!?」
「皆は私を心配してくれたのでしょう? 大丈夫ですわ、私はここに居るのですから。……これで心配事は片付きましたし、貴方の求婚にやっと答えられます」
「ローズ! ……本当だな? 取り下げさせぬぞ」
「ええ、本当ですわ。取り下げたり致しません。どうぞこれからもよ……ッン、……っもう! 最後まで言わせて下さいませ」
「すまぬ」
ユーリッヒの張りつめていた空気が柔らかくなり、私の元までやって来て強く抱きしめキスを落とす。
私もユーリッヒの背にそっと腕を回した。
普段あれだけ俺様系なのに、私に対してだけ大型犬の様に懐いて来る。ユーリッヒの臣下はこの変化を見る度に驚く。
何時からだろうか、そんな貴方が可愛く愛おしく感じたのは。
(もう、この国でやり残した事は有りません。一生貴方に着いて行きます)
最後まで読んでいただきありがとうございます。誤字脱字、ご感想等ございましたらお気軽にご連絡下さい。
これにて終了です。
修正
0727
段落調整、手直しなど