金の斧、赤の斧
木こりは息も絶え絶えに川べりに膝をついた。顔面は蒼白、髪は乱れ服は血で汚れていた。川の冷たい水で顔を洗い流すといくらか精気を取り戻し、足元に転がしていた斧をつかんで投げ捨てた。斧は大きくしぶきを立てたのち鈍くゆっくりと沈んでいく。最後まで見届けると、深い息をついて立ち上がった。これでもう終わったのだ。
しかし、木こりが足を踏み出そうとしたとき、川に異変が起きた。静かな流れをさえぎるようにごぼごぼと水が噴き出し、真っ赤な衣服をまとった女が姿を現したのだ。木こりはわが目を疑い、その場に釘付けになった。自分が今見ているのは幻か、それともついに正気でなくなってしまったのか?いずれにせよ、それは現実らしく見え、はっきりと声を発した。
「あなたが落とした斧はこの三つのうちどれですか?
1.金の斧、2.銀の斧、3.それともこの血痕のついた斧?」
木こりは内心動揺したが、異常な事態には慣れていたので冷静に答えた。
「それに答える義理はない。」
「質問を変えます。この血痕は誰のものですか?
1.イノシシ、2.あなた自身、3.私」
「そんなこと聞いてどうする。お前もよく知っているじゃないか。」
女は斧を三本とも放った。
「質問を変えます。あなたが私を殺した理由は何ですか?
1.嫉妬、2.正当防衛、3.異常性欲」
「答えたくない。」
「質問を変えます。殺したことを後悔していますか?
1.後悔している、2.後悔していない、3.死んで詫びたい」
「黙秘する。」
「質問を変えます。遺体を埋めたのはなぜですか?
1.犯行を隠すため、2.使命感、3.愛情表現の一部」
「黙秘する。」
「質問を変えます。今の気分は?
1.最高、2.最悪、3.特にいつもと変わらない」
「黙秘する。」
「最後の質問です。あなたは私を愛していましたか?
1.愛していた、2.愛していなかった、3.死ぬほど愛していた。」
わずかに間があったが、木こりはきっぱりと答えた。
「…愛していなかった」
女は穏やかに微笑むと、木こりの手をつかんだ。
「あなたは嘘をつきましたね。嘘つきにあげられる斧はありません。私は本当のことを言うまでこの手を離しません。さあ、どうしますか?」
「さっきのが最後の質問ていうのは嘘だったのか?」
「これは質問ではありません。お誘いです。」
「よかったな、あんたの勝ちだ。」
木こりは幸せそうに微笑む女に手をひかれ、諦めたように足を踏み出した。二つの人影はゆっくりと川底に沈んでいき、ついに跡形もなくなった。川は再び静寂さを取り戻した。