強襲!乱入者シデン 2
定期テスト等で大幅に更新遅れました。
早くいつものペースに戻れるように頑張ります。
ついさっきまで、僕は銃剣使いの乱入者、シデンと戦い命拾いした。しかしその直後拾った命はまたしてもピンチにあった。
目前に迫った敵の本隊によって。
「ヒャハハハァ!シ~デ~ンは~どこだぁ~!」
と叫びながら戦場を駆けるのは、今Bチームのリーダーで『ダイナミック・ダイナマイト・ダンスホール』(長ったらしいので略してDDD)のヘッドで『ザ・カミカゼ』の二つ名を持つジェット。さらに隣にはDDDの副官でジェットと同じ高校に通っているというターボもいる。さらに後ろには十人くらいの敵。それに比べこっちの戦力は僕も含め三人。あーこれは詰んだと感じつつも、M4A1の銃口を敵部隊に向ける。せめて敵に銃口向け、敵の銃口を向いて死のう。ゲームだし。
と若干ヤケ気味の僕を狙っていた敵の頭に僕の後ろから弾丸が炸裂し、九死に一生を得る。ログを確認すると、なんとこちらもリーダー御自ら出撃している。
「ありがとうサフランさん!」
敵陣に動揺が走った一瞬を突き味方のいる所まで下がる。下がりつつ僕を救ってくれた勝利の女神に礼を言う。
「礼はいい。それよりシデンは?」
散発的に襲いくる銃撃を左右のステップで躱し、的確に反撃を叩き込みながら僕に問いかけるサフラン。
「ジェット見て逃げました、森林エリアの方に」
「遅かったか、しかしよもやジェットの奴も同じタイミングで前に出るとはな」
会話しながらも構えたアサルトライフルを短連射している。使っているのは圭太が使っているAKシリーズの次世代型のAN94。あ、また一人倒した。
「ナイス!」
「どうも、でキミはどうしたい?このままここでBの主力と戦うか、それともシデンを追撃するか」
「できれば追わせてください。そのほうが楽しいですし」
リーダーを見習い、喋りながら敵に向かってM4A1を連射する。しかしこちらは全くといっていいほど当たらない。
「相変わらず自分に正直だな」
チームの利益より自分の楽しみを優先するような、問題発言ともとれる僕の言葉に、やれやれといった感じの笑みを浮かべる。
「それが僕にプレイスタイルですから」
「わかった。だがこっちの戦況もあまりいいとは言えない」ジェットがばら撒くライフル弾で倒れる味方を指す「あと一人か二人くらい倒してから行ってくれないか?」
「はい、ジェットは先輩に譲るんで」
「押し付ける。じゃないのか?」
「そうとも言う!」
と答え、身を隠していた木から飛び出す。サフランと銃撃戦を展開している敵二人に狙いを定め、そのうち一人はM4A1の三点バーストを喰らわせ仕留める。そのままもう一人いけるかなーと思ったのだが気づかれ、銃口を向けてくる。
ARGを含む全てのFPSでは、壁などの障害物に隠れて撃ち合うのが基本だ。しかしいきなり敵と鉢合わせになったり等して、カバーなしでの接近戦闘に突入した場合には、互いに左右に動きながら撃ち合うことが多い(「カニ」や某マンガから「レレレ」と呼ばれている)。僕とその敵―中学生くらいでM3グリースガン装備―はそのカニ状態に突入。互いの周囲で、バッ、バババッと連続して銃火が連続して爆ぜる。
「チッ」「は、速ッ!」
あっちが思ったより素早くステップを踏んでいるのでなかなか当たらない。さっき少し撃ってたせいかあっという間に残り五発。片手でライフルを構えつつマガジンを探していると、相手はこっちが弾切れだと勘違いし突っ込んでくる。――かかった!
僕のM4A1が吠え、五発のライフル弾が敵の頭、首、心臓といった弱点に突き刺さり撃破。「えー」と残念そうな敵に背を向けマガジンを交換。さてサフランはと周囲に視線を動かすと、彼女は僕が空けた突破口から敵陣に深く斬り込み。ジェットとの戦闘を開始する。
「ようカミカゼ!」
「会いたかったぜ、サフラン!」
ジェットもドイツで最初に開発された自動小銃StG44を構え、吠える。そのまま二人とも動き、跳び、しゃがみ、撃つ。撃つ撃つ撃つ。大量の空薬莢が二人の間に踊り、互いの放った弾丸が空を切り、掠める。
「「ツッ」」ほぼ同時に弾切れをむかえたサフランとジェットは同時にバックステップ。マグチェンジをし再び距離を縮める。あまりにハイレベルな両者の攻防に敵も味方も戦いの手を止め、二人の銃撃の円舞踏の観客と化している。とても声を掛けられる雰囲気ではないので、さっき一発でやられて以降、木陰でぼーっとしてた菫に、「シデン追うから一時離脱するって伝えといて」と言ってシデンを追うべく山林エリアへと向かう。
たった一人でAB合同部隊を壊滅に追い込み、一時的に山林エリアに身を潜めたシデンは、しばらく休みつつ、さっきの戦闘を回想する。
(手榴弾の爆風で煙を吹き飛ばすとは…ARGは戦いの自由度が高すぎる)まぁそこがARGを気に入った理由なんだけど、と呟く。
(あの少年、確かスナイドルとか言ったな…面白い)歳相応の無邪気な笑みを浮かべたシデン。しかし彼女のその表情は、すぐに武人のそれへと切り替わる。
「面白いし、恐らく強い。出会えて嬉しい、だからこそ倒す。絶対に」
決意を新たにメインウェポンを握りしめ移動を再開する。
「はぁ~どこにいるんだろうシデン」
いざ第二ラウンド、菫の敵討ちと意気込んで捜索を開始したはいいのだが、予想以上に広い山林エリアでなかなか出会えないでいる。
「さてどう探したものかな」
マップを開き今いる場所を確認する。
それにしても、珍しいタイプのプレイヤーだ、銃剣で二十人以上を倒し、さらに自分はほとんどダメージを受けていない。至近距離から秒間十五発以上連射されるアサルトライフルの弾丸を躱し続けるなんて、どういう反射神経の持ち主だよ一体。こっちの弾当たるかなぁ。
「おっといけない、何弱気になってんのさ、為せば成る、為さねば成らぬって昔の人も言ってたじゃないか」
相手がどんなに強くても、戦うしかないのだと言い聞かせ、再び歩きだしたその時、
タァァァァァ――ン
聞き覚えのある高く澄んだ銃声が僕の耳に届く。
「三八式?ってことはシデン!?」
だとしたら何で居場所を教えるような真似を?
「まさか、呼んでる?ってそんなワケないよね…」
大方誤射か何かだろう。キルログに新たな表示ないし。銃声は居場所を特定する重要な手段(あえて乱射し、足音を消すという戦法もあるらしい)なので、音のした方角へ向かってみる。
シデンはすぐに見つかった。さまざまな木が生えているこの山林エリアで円形に木が生えていない場所があり、彼女は何を考えたのか、三八式を抱えるようにして木にもたれかかり―――寝ていた。
「あの~もしもーし、起きてますかー?」
声を掛けても反応せず、すぅすぅと寝息をたてている。
いきなり撃つのも可哀想な気がして、僕はなんとなく彼女を眺める。
最初に抱いた感想は、かっこいいな。という物だった。旧日本軍の物と思われる近衛隊調の軍服を着、腰には軍刀と拳銃。ライフルを抱え眠る姿は敵に備える武士、あるいは鞘に収められた名刀を想像させる。整った顔立ちもかわいい、というより綺麗だ。
「女の子の寝顔ジロジロ見てナニやってんだ僕は、もいいいとっとと撃ってしまおう」
冷静に考えればゲーム中に寝ている方が悪い。何か拍子抜けするなぁ。
改めてM4A1を構え直し、照準を彼女の頭に、セレクターを単射にセット。トリガーに力を込―――
ガウンッ!
「!」ほぼ反射で頭を横にずらす。ギリギリの所を駆け抜ける弾丸。一瞬でも遅れてたらやられてた。
「初めまして、か?」
鮮やかな抜き撃ちを披露したシデンが、涼しげにそう告げ、拳銃をホルスターに戻す。どうやら寝たふりだったらしい。
「お、おはよう」
「私はシデン。所属するチームは無く、今の所は君の敵だ」
「僕はスナイドル一応チームのリーダーやってる。そしてシデンさんを追ってここまできた!」
「そうか、じゃあ始めるとす――」
「ちょっと待って!どのチームにも所属してないって言ったよね?」これはいい人材をみつけたかもしれない「うちのチームに来ない?歓迎するよっておわぁ!」
最後まで話を聞かずに繰り出された銃剣に不覚にも体勢を崩す。
「ハァァァアアアアアアアアッツツッツ!」
裂ぱくの気合いと共に放たれる下段の薙ぎ払いを短くジャンプして躱す。そのまま反撃に移る間もなく突き、突き突き。首筋や頭、心臓に当たれば即ジ・エンドの三連撃を、どうにかしのぐ。ここでこっちも反撃に移る。三点バーストでM4A1を発砲するも外れる。
まずいな、このままだとこっちの弾丸が切れる。アタッカーにとって弾丸切れは最悪のシナリオだ。多少強引にいかないと。拳銃で牽制してバックステップ、追撃来るかと思ったら来ない、まぁいいか。照準を合わせフルオートにセレクターを合わせる、ここでやっと敵も下段の薙ぎ払いを打ってくる。しかし遅い、跳んで回避。そこからの銃撃で、
「トドメだぁぁぁぁ!」
僕が吠え、僕のM4A1も吠える。バラ撒かれたライフル弾は次々にシデンの体に突き刺さり――――――もせずにただ地面をえぐる。茫然とした僕が追撃を回避できたのは、単なる偶然だろう。仕切り直しにと五メートルほど距離をとる。撃ってこないのは油断ではなく余裕というものだろう。多分。
とまぁそれはいいとして、いまの光景は明らかにおかしい。至近距離での発砲だったにも関わらずシデンは避けようともしなかった。まるで、当たらないことが解っているかのように。
そしてもう一つの違和感、それはこちらが攻撃に移るタイミングで放たれる下段の薙ぎ払いだ。気合いの声は物凄いが大振りで鋭さにも若干だが劣っている。つまりあれには攻撃以外の目的がある。そう考えておこう。僕の数少ない特技である集中力と思考速度(残念ながらどちらもゲーム中限定)てここまでの戦いを振り返り、ある共通点を見出す。
そしてそれは、恐らく彼女が取ってきている戦法へとつながる。確かに知らなければ不思議に思いうだろう。しかしタネが分かった今、それはただの手品でしかない。
「勝てる、勝てるぞ!」
自分を景気づけるように呟き、二度目のマグチェンジを行う。
「それはどうか、なッ!」
シデンは三八式を薙ぎ払いの体勢に構える。今思えばそもそも銃剣道に薙ぎ払いはなかった。そこから気づいてもよかったな。
僕がM4A1のコッキングレバーを引き、初弾を装填する。
同時にシデンも、一際大きな気合いの声と共に下段斬りを放つ。今までならジャンプ等で回避する所をあえて避けず、そのまま受ける。ガリガリッと視界のHPバーが4割ほど一気に削れるが、こちらにも一瞬だけ攻撃のチャンスができた。短連射で放たれたこちらの弾丸は、シデンのHPを一気に8割近く奪う。
「いかにも『避けて下さい』とでも言いたげな大振りの攻撃。その狙いは僕を不安定な体勢にして銃の命中率を落とすため。分かってみればあっけないね」
自分の受けたダメージより僕が避けなかった事に驚いているだろうシデンにそう解説する。
ARGはモーションセンサーを搭載しているので、同じ銃を使っても構え方ひとつで当たりやすさが激変するのだ。だからこそ彼女は、あえて避けようとしなかった。クロスヘアがガタガタに開いてしまっているライフルが至近距離でもなかなか当たらない事を知っていたから。
「チィッ!」どうやら図星だったらしく、舌打ちしたシデンは煙幕手榴弾を投げる。またしても視界を覆う白煙。煙の中からの打突、しかし流石の達人も焦っていたらしく狙いが甘い。僕の脇腹を切り裂いただけだ、まぁそれでも2割近いダメージ。そのまま彼女は逃走に転じる。しばらくして煙が晴れた時、姿は見えなかった。
「ふぅ」先ほどの激闘が嘘のように静まり返った春の竜間山。
今の戦いで僕もシデンもかなりのダメージを受けた。
泣いても笑っても次の攻防で決着が着く。第四ラウンドはありえない。
銃剣の戦闘が上手く書けたかどうか不安です。それに関して意見、感想等ありましたらお願いします。