その戦場はオンラインで!
予告していた番外編です。
遂に勇気の兄、知樹が本格的に登場。
もう一話続く・・・かもしれません。
鼓膜を揺らす風と砂煙の音、それを意識の外へと送りこみつつ、俺はVSS、ロシアの特殊作戦用のスナイパーライフルのスコープから眼下の戦場、アメリカ開拓時代の西部風の街並みと、俺の潜むバーの二階から見えるメインストリートを見下ろす。所々に配置された遮蔽物や掩体。そこに潜む敵兵は、姿こそ見ないが必ずいる。戦闘開始時10人だったその数は、序盤の小競り合いで今は7人。まぁこっちも2人数を減らしていま8人なのだが。
『隊長、俺らどう攻めます?』
自軍のアサルトライフル持ちからの通信。彼を含むこちらのアタッカーとライフルマン六人(それ以外の二人のうち一人はスナイパー、もう一人は遊撃だ)は眼下の大通りで敵と睨みあいの真っ最中。
「そう、だなぁ…ここで全軍突撃!ってのも考えてはみたけど、それに踏み切るには敵さんのMG42とM60がねぇ…」
敵の二人のマシンガンナーはそれぞれドイツとアメリカの傑作機関銃を装備している。なかなか練度が高く、一気に弾幕張られればよくて半分、最悪全滅もありうる。
『つぅかリ~ダァ~?狙撃で機銃手、殺っちゃって下さいよぉ!!』
と軽い口調での通信、味方のサブマシンガン使いからだ。
『自分からもお願いであります!中隊長どの!』『頼むぞ三代目』次々に味方から舞い込む通信、その全てが機銃手の排除を求める。そしてそれさえやってくれれば勝利できると、また現在それが可能なのは俺だけであることを、言外に訴える。
「ったく、わぁーったよ、機銃手二人今からブッコロス。俺のVSSで右のMG42仕留めるからそのタイミングで突っ込め。お前らに反応したM60持ちその時殺す」
『りょ、了解ッ!』
次々に了解の返事がかかる中、最初に通信をくれたアサルトライフル持ちだけが応答しない。
『あの~隊長?』
やっと返事がきたものの、どこかぎこちなく、元気もない。
「どした?」
『俺の思い違いならいいんですが…さっきの小競り合いの時、敵にM14使っている人いましたよね?』 M14はかつて米軍がベトナム戦争で使っていたアサルトライフルで、大口径の7.62㍉ライフル弾を使うことからバトルライフルとも呼ばれる。
「あ、ああ確かに」
妙に弾薬を惜しむような戦い方だったので印象に残っていた。でもそれがどうかしたのだろうか?
『そのM14,ひょっとしたらスコープとサイレンサー二脚取り付け可能タイプだった…ような気がするんです』
「そんな超高いレア武器、こんなトコに持ってくるか?いや、待てよ…」
確かに俺もM14は持っているが、ちらっと見たそれは俺のと若干だが違っていた気がする。
「ちょっと確認したいことがあるから、向こう側の敵にちょっかい掛けてくれない?」
今の俺とアサルトライフル持ちの通信を聞いていたため、俺が何をしたいのか分かったらしく、『了解ッ!』の短い返事の後に各々の得物が一斉に弾丸を二、三発ほど放ち、ピタリと射撃を止める。―--それに呼応するように敵も銃撃。…間違いない、今の銃声にM14のそれはない。
敵のM14は近代化改修を受けた高精度型。それにスコープやサイレンサーなどを付けての運用法の一つが…狙撃手による狙撃手の排除、カウンタースナイプだ。
「全メンバーに通達、敵はカウンタースナイプで俺を狙ってきている。先にソイツ倒してから作戦決行」
俺の他にももう一人スナイパーはいるが、このレベルの戦いに出すには若干不安だ。となると俺の取るべき行動は一つ、カウンタースナイプをカウンタースナイプする。略してカウンタースナイプカウンター。…自分で言っといて何だがあまり略せてない。
「それよりまず敵…か」
マップから敵狙撃手の潜んでいるであろう場所を特定する。まぁ特定したからといって奴も今の俺と同じく身を隠しているので狙い撃ちできないが構わない。
「早く出て来い」
眼下の大通りにある民家、その二階に隠れている敵機銃手に向け、誘うように呟く。こちらの声が聞こえた訳ではないのだろうが、彼はこちらの位置を把握するため一瞬だけ顔を外に出した。
当然、これを見逃す俺ではない。素早く遮蔽物から身を出し一瞬の中に光学スコープで照準。頭に弾丸を叩き込む。そして着弾を確認する前に右にジャンプ、空中で銃口を斜め向こうの建物の屋上、そこでM14を構える敵兵に向ける。直後、さっきまで俺のいた場所に突き刺さる7.62㍉のライフル弾。表情こそ変えないものの全身で驚きを表す敵を冷静に照準。
「ヘッド、ショット」
誰にむけてでもなくそう呟き、俺はVSSのトリガーを引き絞り、ソイツを射殺。
と同時に眼下で弾ける銃声。どうやら味方の突撃が始まったらしい。一気にスナイパーとマシンガンナーを失いヤケになったと思われるM60使いが出てきたので約束通り射殺。もう二、三人狙撃で『喰えた』が、味方の獲物まで横取りってのはリーダーのすべき事じゃないのでやめておく。
「ふぅ、まぁそれにしても、VSSにしといてよかったー」
VSSは狙撃銃だがセミオートで連発可能。しかもその速度もなかなかの物がある。流石旧ソ連の特殊作戦用ライフル、同じロシア製でもボルトアクションのモシン・ナガンやセミオートでも銃身が長いドラグノフ(今回はどっち使うか結構悩んだものだ)だったらこうはいかなかった。
「でもま、それより…M14で狙撃たぁ、いい趣味していやがるぜ」
さっき俺が倒した敵に向かい、心のなかでそう告げる。また今度ゲームしようぜ。
ノートパソコンの画面で繰り広げた銃撃戦、オンラインFPS『アンチェイン・バレットⅣ』(通称UBCⅣ)の画面から一度目を離し俺、種子島知樹は缶コーヒーをググッと飲み干す。対戦待ちモードに戻った画面には、さっき戦いを繰り広げた仲間、クラン『ブリザード・オロチ』のメンバーと相手クラン『第七極光分隊』のメンバーたちがチャットで互いの健闘を称え合っている。ので俺もさっき狙撃しかけ、返り討ちにあったM14使いに『ナイスファイト』とチャットで(ボイスチャットは戦闘中だけなので)送ってみる。すると『こんどは負けねー』との返事とともにログアウト。それに続くように他のプレイヤーも落ちて(ログアウトして)いく。
ふと気になり、机の上の時計を見れば、ちょうど午前一時半。(ちなみに俺は二階の自室でゲームをしている)まだまだFPS廃人の夜は長いのだが、午後十時半にログインすることかれこれ三時間。トップクランの運命として今日も今日とて激戦激闘の嵐。ここで一旦休んでおかないと正直持たない。そこで今だ勝利の興奮冷めやらぬメンバーに『三十分くらい一度落ちて休む。もし一時間たってもこなかったら寝てるからそん時はゴメン』とコメントし、一度ログアウトする。
机を離れ、ベッドに倒れ込む。寝てしまわないように気を付けつつ目を閉じ、思う。
母さん、俺はあなたを超えられるんでしょうか…?
あの後三十分程音楽を(いろいろ聴いたが戸松遥の『ユメセカイ』が一番印象に残った)聴いて、俺は再びゲーム画面に戻る。明日じゃなかった今日は日曜日なので遠慮せずにさらに三時間半遊ぶ。別れの挨拶と共にログアウトした時には既に時刻は午前五時半。自室のカーテンと雨戸を開けると父が車のドアを開けていた。
あーそういや父さん、今日接待ゴルフとか言ってたな…
「が、頑張ってねぇ~」
睡眠不足による疲労で猛烈な眠気が襲い来る。ここで眠ってしまうのは簡単だ。しかし俺はもう一つだけ、やることがある。疲れた体に活を入れ、俺は一階へと降りる。
「お、おはよぉ~~うかぁさ~~ん」
「おはよう知樹。昨日、ってより今日はどうだった?」
「いいゲームができたよ。特に『第七極光分隊』ってのが強かった。それにしても『オロチ』初期メンバー凄いな」
今日も何度か助けられた。
「当ったり前よ!」と胸を張る母。「何せかつてわたしと戦場を駆け、互いに高め合った仲なんだもの!」
「そう言えばそうだね…。クラン『ブリザート・オロチ』初代クランマスター『千里のリーン』さん」
「まーた懐かしい名前を…」
母さんと会話する傍から眠気が俺を襲うが、どうしても気になったことがあるので質問してみる。
「そういやさっき俺が戦った『第七極光分隊』ってあったじゃん?アレって第一から第六まで他にあるのかな…母さん心当たりとかある?」
「おおっ、知樹するど~い。実際わたしや父さんが現役だった頃は第一から第七まであって、それで『極光大隊』なんて大きなクランだったの。でも時代の流れか次々に消滅、あるいは弱体化していったの…でもよかったぁ、第七だけでも生き残ってて。ってそれより知樹?何か用事あったんじゃないの?」
「あ、ああ。徹夜でFPSやってたからこれから寝る。たぶん11時には起きると思う」
普通の親が聞いたら怒りそうな内容だが、運のいい事にこの母親は若干だか普通じゃない。のであっさりと「分かったよ~。起きた時に知樹の分の昼食つくっとくね!」と返事が返って来る。
「そだ、今日美紀と勇気は?」
家にいるなら起こすなって言わなきゃな。
「美紀はサッカーの練習、勇気は竜間山にARGのゲームよ」
「ARGって…あああの拡張現実で戦うFPSの事か?」
勇気が小5の時に出た体感型ARゲームで、アイツは俺と母さんにしつこく勧めるが俺はUBCⅣの方が忙しくてやる時間がない。
「そうだ母さん、勇気と美紀が起きたら俺が「起こしたらブッコロス」って言ってたって伝えて」
「分かった」
「んじゃ、おやすみ…後どうでもいいけどさ、母さんって結構変わってるよね」
「どういう所?」
「俺が徹夜でネトゲやってても怒らない事とか…かな?」
「あのね知樹…過去の自分がやってた事を息子に禁止させるなんて…バカらしくない?それに何だかんだ知樹、結構成績良いし」
「志望校のランクは一つ下げたけどな…」
もし俺が受験前日までFPSやってなかったらもう一、いや二ランク上の高校に行けただろう。
「まぁいいじゃん。元々のランクが高かったんだから」
「それもそうか、じゃあ改めておやすみなさい」母の「良い眠りを~」の声を聴きつつ俺はコケないように階段を上がる。そして自室のベッドに倒れ込む。
眠りに落ちる刹那、俺の脳裏にあったのは、両親の高校生活も、こんな感じだったのだろうか?という疑問であった。
今回も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございます。
番外編、もし続くなら知樹の高校生活を書く予定です。
誤字、脱字等ありましたら指摘お願いします。
追伸 なろうコンに応募する事、決めました!