果たし状はラブレターの前に! 7
一か月も引っ張っておいてまだ完結できなくてごめんなさい。
ちなみに肉弾三勇士の話は実話です。歌も銅像もあります。興味があったら調べてみてください
あぁ、やってしまった。轟いた銃声に思わず撃ち返してしまい後悔する。
「ちょ勇気ッ!何やってんだよ!」
僕の放った初弾が外れた時点で圭太も三点バーストでAK47を撃つもこちらも外してしまう。
二階の階段を降りた所にいる僕等と部室棟の右端にいるサヤエンドウと佐和田さん。その距離約二十メートル。さえぎる物のない一直線のため、戦闘は避けられない事は覚悟の上だが、あっちのペースに乗せれらた形になってしまう。
「作戦?」
珍しい正宗からの提案に興味の湧いた僕は聞いてみることにする。
「圭太曰くサヤエンドウの動きって半端なく激しいんだよね?」
「ああ、真田の方も動き回ってたせいもあるが、誤射が怖くて撃てなかった」
「ええ?そのレベル?」
僕等の中で一番の照準力を持つ圭太でも捉えきれないなんて…
「って事は、自由自在に動かれると徒にこっちが弾薬浪費されるだけか…だったら敢えて動かせよう!」
「は、はい?」
動かれるとまずいのになぜ動かせるのか、正宗の発言の意図が分からない。
「つまり正宗が言いたいのは、この三人で『射線の包囲網』のような物を作ってサヤエンドウの動きをある程度制限させるって事か?」
「圭太正解!」僕も必死で考えてみる…「ってことは正宗?動かれても僕等で対処できるくらいの包囲網作って、その中でジャンプした着地とかの隙を縫って仕留めるって事?」
「勇気も正解!」
嬉しそうな正宗。僕もスコーピオン時代(小六の頃から前坂はチームを率いていて、僕等は初期の頃からのメンバーだった)自分が提案した作戦を分かってもらえた時は嬉しかったからなぁ。
「あのー私どうしたら…」
おっといけない。麻乃を忘れてた。
「橋立さんは包囲網の外を警戒してて、サヤエンドウに本気出させない為に、ある程度ゆるく包囲するから」
逃げ場のない包囲は相手を死にもの狂いにさせる。それを防ぐ為にあえて一方を空けておき、そこにスナイパーを置く…か。分かってるな正宗。
「まあどの道三人じゃあ四方は囲めない、麻乃には遠くからの狙撃に集中してくれ」
と圭太。麻乃も反対しないので、この作戦で行くことにする。
はずだったんだけど…。一気に突っ込んでくるサヤエンドウに向かってこちらも吶喊すながら後悔する。本当ならば圭太と正宗が両翼から、そしてその後僕が中央から行く作戦だったのだが、散弾銃の爆発の如き銃声にビビった僕が先に飛び出してしまった形になっている。
まぁこの世に完璧なんてないし、ずれたなら修正すればいい。あせるな焦るなと自分に言い聞かせ、僕はガッ、ガガガッ!M4A1を『指切りバースト』――二、三発に区切って撃つ短連射で、サヤエンドウに向けてぶっ放す。肩付けでいまいち狙いの甘い銃撃、わずかに動くだけで躱せるそれを、サヤエンドウはこちらの背後を取るために斜め前に大きく跳ぶ。それに合わせ僕も彼女とすれ違うように跳ぶ。そして着地と同時に、吠える。
「正宗ッ!」
「分かってるッ!」
返答と共にイングラムM10の銃声が響く。見ずとも狙いはサヤエンドウの足元だろう。
「チィィ!」
やっとこちらの狙いに気付いたサヤエンドウ。しかし着地の隙はどうにもできず、一気に体力ゲージを三割近く削り取る。
「やった!」
思わず上がる歓声。このまま一気にいけるか?と淡い期待を描いた僕を嘲笑するかのように、サヤエンドウはジャンプやその着地にフェイントを織り交ぜ、ステップの速度を上げていく。しかし二人三人で同時に銃撃し続ければどんなに動かれてもかすりはするもので、五パーセント、三パーセントとじわじわ削っていく。強引に突破しようとすれば僕等の誰かによって足元を撃たれ牽制される。
その様子に苛立ちを増すサヤエンドウ。
間違いない。『射線の包囲網』は効いている!勝利への道が見えた刹那…
さっきまで激しく動き、ステップでこちらを幻惑し、それこそ母の言っていた『もう一つの速さ』を体現していたサヤエンドウが急に動きを止めググッとしゃがむ。その直前僕等の放った弾丸がその頭上を通過すると、彼女は全身のバネを使い斜め前に跳躍。砲弾のような勢いで正宗に肉薄する。
「このぉぉぉ!」
これは逃げられないと直感したのか、正宗は腰のホルスターからもう一つのイングラムM10を抜く。これでイングラムは二丁。銃と銃の戦いというよりは牙をぶつけ合うような接近戦へと移行。こうなってしまったからには僕も圭太も誤射を恐れて発砲出来ない。
「正宗…」
祈るように戦闘中の二人へ視線を送る。
「見せてくれよ。二挺短機関銃の力を…」
圭太も同じように祈るような、それでいてどこか楽しむような視線を送っている。
視界にクロスヘアがもう一つ追加される。春休み後半から練習中の二挺サブマシンガンを実戦で初めて使った正宗の心に浮かんだ感想は、まだ扱いづらいな…というものだった。
(それでもまぁ、サブマシンガン一丁でショットガンとやり合うよりましか)
超至近距離故にばら撒けば当たる。命中率をある程度度外視できるのも大きい。
突き出される散弾銃を体を半回転して躱し、その直後に逆方向に回転。横に振った両手のイングラム二丁をバースト射撃。しかしこれを先ほどと同じようにしゃがんで躱した沙耶は低い姿勢からウィンチェスターを発砲。斜め後ろに飛んで回避する正宗。空中と地上で両者の目が合う、そして正宗は二丁のイングラムをフルオートで放つ。二つの銃口から銃火が弾け、大量の空薬莢が宙を舞う。空中+片手持ちという不安定な姿勢をARGのモーションセンサーが感知したためクロスヘアはガタガタだが気にせず撃ち続ける、と右手に握ったイングラムの方が先に残弾ゼロに。
(やっぱり利き手の方が無意識に多く撃っちゃうのかなぁ~。つーか弾数ゲージも二つあったっけ今)
右のイングラムにマグチェンジしかけた手が―――止まる。着地で生じた一瞬の隙で、沙耶が先の攻防で生まれた数メートルを一気に詰める。
(マグチェンジは…間にあわねぇ!だったら)
閃光手榴弾のピンを抜き、地面に転がす。そして最後の悪あがきにと、左のイングラムの残弾を全て放つ、最後の銃撃で体力を二割ほど削った所で、真正面からの散弾に撃破される。
「正宗ェ!」
悲鳴に近い声を上げる圭太とシエラがマサムネを撃破したと告げるキルログからあえて思考を切り離した僕の視界には、正宗の近くに落ちた物が映る。あれは―――。
「圭太!今すぐ目ぇ閉じるか下向いて!」
カァァァ―――――ッ 。
直後、足元の閃光手榴弾から光が迸る。僕と圭太は目を閉じていたからさほどダメージは受けなかったものの、至近距離で、しかも目を閉じずに不意打ちの構図で閃光を喰らったサヤエンドウは「きゃっ」としゃがみこむ。その間に僕と圭太は戦場を離脱し、麻乃のいる所まで帰還する。
「だ、大丈夫だったか?」
一足先に麻乃の所にいた正宗が問う。
「あ、うん。ありがと。お蔭で助かった」
「それにしても」圭太が呟く「とんでもない威力だなあれ…サヤエンドウのヤツこそアレをほぼノーガードで喰らっちまったんだろ?大丈夫かアイツ」
「ま、まぁ大丈夫…だと思う」
ARGはあくまでゲーム。実際の閃光手榴弾並の光は出てないはず、強いて言えば不意打ちで喰らったため回復に時間がかかるくらいだろう。
「それよりこっちの心配しよーぜ勇気…」
サヤエンドウの目に影響が無いことを確認した圭太が一転、深刻そうな顔で考え込む。
「僕らは助かったとはいえ、アタッカーの正宗はやられちゃったからなぁー」
「わ、悪ぃ」
「いいって、これはゲーム。勝つこともあれば負ける事もある」
それより問題は今だ。数の上では三対一とこちらが有利なれど、アタッカー二名を欠いた陣容ではアタッカー。特にスピード型のサヤエンドウ相手は少しどころか結構キツイ。
「あ、俺に名案が!」
「何なのさ圭太」
「どっちかが体に今俺らが持ってる手榴弾を全部体に巻きつける」
「ほうほう」
「そんでもって爆発の範囲内に着いたらドッカーン!」
「なるほど」これもありか…「で、それ圭太がやるんだよね?」
こういうのは言いだしっぺがやる物だろう当然。
「イヤだよ何で俺が、勇気がやれよ」
「僕だって嫌だよ、そんな肉弾三勇士みたいな真似。ゲームだから覚悟の自爆も美談にならないじゃん」
「大丈夫俺は三日くらい覚えておくよ。それにだぜ勇気、肉弾三勇士って覚悟の自爆じゃなくて爆薬の誤爆らしいぜ」
「え?そうだったの?」
これは歴史に多少は詳しい僕も初耳だ。ちなみに肉弾三勇士とは第一次上海事変で中国軍の陣地の壁を爆破して自分も爆死した三人の日本兵の事だ。詳しい事は真田さんが知ってると思う。
「あ、あのー二人とも…」
やいのやいのと汚れ役の押し付け合いをしている僕と圭太に、おずおずと麻乃が話しかける。
「「何!…ってごめん怒鳴って」」
いつまでも自爆役が決まらないものでイラついてた僕等は同時に怒鳴り、そして反省する。
「沙耶ちゃん、無理してでも倒す必要ないと思う」
「どゆこと?」
「さっき勇気が言ってた通り、今回のルールは爆破。だから倒さなくても拠点さえ爆破できればこっちの勝ちじゃん」
「そりゃそうだけど…」
それじゃあやられた真田さんと正宗の仇が討てない。同じ事を考えていたであろう圭太が「正宗はそれでいいのか?」と尋ねる。
「いいって、今回はどっちかっつーと俺が欲かいて二挺サブマシンガン使ったから負けたようなモンだし」ここで一度言葉を切り「つーか俺がそれ完成させたらまた改めてサヤエンドウ倒すから、それまでは誰も、それこそ真田さんもアイツを倒さないでほしい」
「わ、解った…」
どーしよ。僕このゲームに勝ち次第サヤエンドウと佐和田さんチームに勧誘しようと思ってたのに…まあ同じチームでも訓練や模擬戦で戦えばいいし。
「だぶんミヤミヤも同じこと考えてると思う」それまではだれも云々もか…「さっそく連絡してみる…ってあれ?」通信リストに名前が無いことに気付いたのだろう。
「ゲーム中はやられた仲間に通信できないよ。正宗、悪いけど携帯で真田さんに連絡して」
「ああ、了解」
麻乃が去った後の中一の屋上、一人残って夕日を眺めていた光也の携帯が着メロをマ撫でる。曲は「抜刀隊」―――って事はチーム内の誰かか。ちなみにクラスメイトからのは「The Winnre」それ以外からは「イギリス征討歌」が鳴るようにしている。
『もしもし真田さん?』
「ああ近藤君か、キルログ見たぞ。残念だったな」
『あはは、やっぱ強ぇーなアイツ』
「確かに…ってそれを話すために電話しにきたのか?」
『違う違う。ちょっとした相談があって』
「は、はい?」
今まで一人で戦ってきた光也にとって仲間からの相談というのは今だ新鮮で、つい間の抜けた反応をとってしまった。
『俺もやられて今残ってるのは、勇気と圭太、それに橋立さんだけ。アタッカー無しでこの状況を切り抜けるにはアイツ倒さずに拠点爆破するしかない』
「そうなのか、だとしてもそれをどうして私に?」
『実は勇気のアホが俺と真田さんのカタキ取るって言い出して聞かないんだ。俺は後ででもいいって言ったんだが真田さんにも聞いてって言うから連絡してみた』
「私も君と同じだ。改めてあの動きの対策を講じた上で今度こそ自分の手で彼女にトドメを刺したい。それまでは誰にも、それこそ近藤君にも倒されてほしくない」
『俺も全く同じ事考えてた、俺達って気が合うね』
「そうだな、同じチームのアタッカー同士、気が合うのはいい事だ」
『そーゆー意味じゃあないんだけど…まいっか。じゃあ切るね』
「ああ分かった。勇気君に頑張ってって言っといて」
『りょーかい』
ガチャ、ツーツーツー。正宗からの電話を終え、ポケットに携帯をしまった光也は再び喜びに浸る。
「勇気君と出会いチームで戦うことの面白さに気付き、あのショットガン使いに挑んだ事で同じスタイル同士の真っ向勝負のスリルも知った。今年はいい年になりそうだな…」
「りょーかい」
と真田さんに告げ、電話を切る正宗。
「で、どうだった?」
「別にカタキは取んなくていい、むしろ自分で倒すってさ。俺より先に」
うわー、もし勝ってサヤエンドウと佐和田さんがチーム入るって知ったら怒るだろうなぁ絶対。でも手を抜いて負けたらもっと怒るだろうな、だから今はどうやってサヤエンドウを突破するか考えなくては。 再度曲がり角から顔を出し、廊下の様子をうかがう。敵の武器はショットガンでこの距離では当たらないと分かっていても怖い。
「あ、あれ?いない」
という事は横の空き教室で休憩でもしているのかな、まぁいいや。おかげでじっくりと決戦の舞台を確認できる。
「あ、やっぱりあったよ爆弾」
二重三重に展開された対人地雷と爆弾のトラップ。あの量から推定するにあれがあっちの最後の手。スイッチの持ち主であるはずの佐和田さんを先に倒しといてホント良かった。
さてと、何か使えそうな物は…っと。視線を廊下にぐるっと巡らせるが特にはない。ならば上だ、天井付近を捜す。正直期待してなかったのだが、思わぬ物を発見した。
水道管の一部が天井に出ていたのだ。これは使える。すると人間の脳とは不思議なもので、何か一個でも手ががりがあれば一気にアイディアが広まっていく。いったいそれまでの時間は何だったのだと言わん勢いで一つのイメージが浮かび、固まっていく。
「お、その顔は勇気、何か思いついたっぽいな」
「正解だよ圭太。僕の読みどうりならこれで勝てる」
「へぇ、どんな作戦?」
「よくぞ聞いてくれました麻乃!」
「焦らさないで早く教えろよ」残り時間が五分を切ったからか焦り気味の圭太。「五分強長考した挙句くだらん作戦だったら怒るぞ俺」
「まぁまぁそうイライラせずに」
作戦の一部始終を皆に伝える。
「以上を踏まえた上で聞いてほしい」
「おう」
「圭太、君に犠牲になってほしい」
「はぁ?と言いたい所だが、いいぜ。やってやろう」
「ありがとう、キミの犠牲は忘れない…三日間位は」
「勇気てんめぇぇぇ!って俺はアホかこんな事してる場合じゃぁねえ!おら行くぞ!」
「りょーかいっ!」
勇気達が動き出す少し前、沙耶は拠点の隣の空き教室で休息を取っていた。
「はぁ、はぁなかなかやってくれるじゃない正宗」
二丁サブマシンガンの話はたまに聞いてたものの、命中率の関係から完全に机上の空論だと思っていたので、正宗がもう一つのイングラムを召喚した時にはかなり驚いた。
「でもそれをあっさり倒しちゃう沙耶ちゃんはやっぱすごいや」
さっきの戦闘をここで見ていた杏梨が感嘆の声をあげる。
「言う程あっさりだったわけじゃないわよ。それにアレ、どう考えてもまだ未完成。完璧に二丁のサブマシンガンを使いこなすアイツとなんて、正直言って戦いたくない」
本音である。あの銃剣使いだけかと思いきや、まだまだ強力な近接戦型がいたなんて…
「あ、くるよ沙耶ちゃん!」どうやら敵も動き出したらしい。時間も残り少ない、この攻防でカタがつくだろう。
「じゃあ、行ってくる。大丈夫、杏梨の仇は絶対取ってくるから」
残り三人をこの手で倒し、こっちの完全勝利でこの決闘を終わらせる。その決意とともに白の学ランを翻し、廊下へと出る。
やっと出てきた二挺サブマシンガンが上手く書けなかった。ひょとしたら書き直すかもしれません。
次でラブレター編、完結…の予定です。