15『切り札をさらけ出しても』
勝って嬉しいのは、相手を強いと認めているから。
負けて悔しいのは、自分も強いと思っているから。
闘えば分かるお互いの本心、そして実力。
闘う内に、心に根ざす意地など融けて無くなる。
ただ相手の強さを認め、素直にそれに勝ちたいと思う。
それは益のない勝利かもしれない。
だがそれでも、どうしても勝ちたいと思う。
その勝ちが、後に自らの損を招き寄せるとしても。
「初ダメージは両者相打ちスか……。凄い闘いになりやしたね」
「ああ、滅多に見られるもんじゃねーよな」
そう言ってリクは右手でカーエスから預かった眼鏡を弄びながら頷いた。
それは、後ろの三組の師弟も同じ意見のようだ。二人の息もつかせぬ攻防に、皆固唾を飲み、まばたきするのを忘れるくらい凝視している。
「ところで、さっきジェシカさんがカーエス君の《弾きの壁》に弾き飛ばされやしたよね。あれは何でなんスか?」
あの時、カーエスの視界はジェシカの攻撃で舞い上がった土で塞がれていたはずだ。しかも《弾きの壁》は魔法効果が短い為、唱えるタイミングが難しい魔法なのである。はたから見ていても、ジェシカの姿が見えなかったカーエスがどうして、あのタイミングで《弾きの壁》を使用する事ができたのか説明がつかないのだ。
「あれはただのカン……と言いたいとこだけど、多分《電光石火》のせいだろ。あの魔法は一瞬で移動出来る。だから、カーエスはあの呪文が終わった後すぐ《弾きの壁》を唱えれば、それでタイミングは合うんだ」
もちろん、ジェシカがその危険性に気付いてタイミングをずらす可能性も多分にあったが、それでも何もしないよりかは遥かにマシな手だった。
ただ、視界を失い、多少の混乱は仕方がなかった状況で、それだけの判断を行える魔導士は中々いまい。しかもカーエスは弾き飛ばしたジェシカを《茨の網》で捕らえ、《ぶちかまし》で追撃を行おうとしているのである。
「それを返すジェシカもジェシカだと思うけどな」
ジェシカもまた《弾きの壁》で吹っ飛ばされた時点で思考力を失っていても可笑しくはなかったが、正確にカーエスの動きを確認し、《石塁》で《ぶちかまし》を防いだばかりかその《石塁》を使って反撃さえしてみせたものである。
リクが今まで呼んだ書物の中にこう書かれたものがあった。魔導士としての最大の資質は持っている魔力の大きさや性質、魔導制御力、憶えた魔法の数などではなく、どんな状況でも冷静に、適切な魔法を行使できる判断力なのである、と。
その条件によれば、カーエスも、ジェシカも、魔導士の資質として最上のものを持っている事になる。
「兄さん、ホントにあの二人と闘って勝ったんスか?」
そのコーダのからかうような質問に、リクは苦笑して肩をすくめた。
「俺自身も疑わしくなってきたところだ。まあ、二人とも精神的にキツい時期にだったらしいからなぁ。今やったらどうなることやら」
*****************************
―――君は自由になれるんだ。罪を償いきり、堂々と自由に生きられるんだよ。
ダクレーの研究室を出た後、リク達が向かったはずのティタの研究室に向かって歩いて行くフィラレスの脳裏には、そのダクレーの言葉が反芻されていた。
償えない罪だと思った。だから、これ以上人を傷付けない為に、罪を重ねない為にも、世界の猛者が集まるファトルエルの大会で自分を殺せる人間を見付け、自分の命を捨てようと思ったのである。
ところが、償う方法が見付かった。確かに、自分が“セーリア”の動力源となり、エンペルファータを守れば、魔導文明自体を守ると言う事になる。確かに自由は無くなるが、死ぬわけではない。
元来、フィラレスは奉仕欲の強い少女だった。要するに健気なのである。しかし、“滅びの魔力”の発現以来、人の役に立つどころか傷付け、迷惑をかけるばかりの自分を、フィラレスは酷く疎ましく感じていた。だが、それも無くなる。
この事を知ったら、リク達は止めるだろう。必死で止めてくれるだろう。だが、彼らと一緒にいても自分はほとんど役に立たない。
そんな事を考えている内に、ティタの研究室に着いて、ノックをしようと思った時、丁度ティタが扉を開けて出てきた。いきなり顔を合わせた二人は、お互いに目を丸くして驚いた様子を見せたが、相手を認識すると、すぐにその緊張状態は解かれた。
「な~んだ、フィリーじゃん。扉を開けたらいたからびっくりしちゃったよ。カーエス達ならここにはいないよ。今、学生ラウンジで待たせてあるんだ。アタシも今行くところだったからさ、一緒に行こう」
ティタはフィラレスに向かって明るく笑いかけると、取り敢えず中央ホールの方に向かって歩き始めた。
歩行の際に、足から伝わってくる一定の振動が、フィラレスを再び思考の沼に沈める。
いかに健気なフィラレスとは言え、ほとんど死んだと同じ状態になることに全ての心を挙げて賛意を抱いているわけではない。死ぬつもりで臨んだファトルエルの大会の直前ならば、それこそ一欠片の迷いさえも起こらなかっただろうが。今は、あの時とは違うのだ。
彼女の中では罪を償えるという事に喜びと魅力を感じる一方で、“セーリア”の動力源となる事を拒否する心があった。リクへの恋心である。ファトルエルで彼と出会い、自分の気持ちを自覚してからというもの、毎日がとても幸せに感じたものだ。
彼と離れたくない。彼の言葉を余さず聞きたい。昨日一晩リクと離れた所為か、今日のその想いはより強い。今も、用事が思ったより早く終わり、一刻も早く彼に逢いたい一心で歩を進めているのだ。
だが、大きな罪を背負う自分が、こんな幸せに浸っていていいのだろうかという気持ちもある。以前の自分なら許さなかっただろう。そんな意識を揺らがせる程に、リクと共にいるという事はフィラレスにとって魅力的な事なのだった。
恋心と罪の意識。昨日までバランスをとっていた二つの心が、今は彼女自身を引き裂かんばかりに心を引っ張り合う。
「フィリー……ちょっと、フィリー?」
ティタの声に呼ばれて、フィラレスははっと目を上げた。物思いにふけってしまい、我を忘れていたらしい。
慌てて自分を見つめ返すフィラレスにティタが訪ねた。
「どうかしたのかい? 浮かない顔しちゃってさ」
フィラレスはふるふると首を振った。
とりあえず、その答えにはあまり興味がなかったのか、ティタは大して反応を見せず、周りを見渡している。
いつの間にか、彼女らは学生ラウンジに辿り着いていた。
今は休み時間となっているため、数十人からの生徒達が談話に耽っている。
ティタの話では、ここでリク達が待っているはずだったが、取り敢えず見える範囲に彼らの姿はない。
「おっかしーなー。待ち合わせの時間まで魔導学校でも探検してるのかねぇ」
時計を見てみると、待ち合わせの時間まで、まだ大分時間がある。ずっと座って待っているというのも不毛だと考えるのは不自然な事ではない。
仕方がないので、彼らがここに戻ってくるまで二人で待っている事にした。
近くのの椅子に腰掛けようと椅子を引いた時、一人の魔導学校の生徒が学生ラウンジに走り込んできた。
「みんなァ! 闘技場にいってみろ! カーエス先輩が闘ってるぞ!」
「え!? マジで!?」「誰とやってんだ!?」
「昨日一緒にいた鎧の女だ! めちゃめちゃ盛り上がってるぜ!」
「マジマジ!?」「何で何で!?」「すぐ見に行こう!」「授業なんかクソくらえだ!」
その騒ぎに、フィラレスとティタは思わず顔を見合わせた。
「カーエスと……ジェシカが?」
*****************************
闘技場はかつてない程の盛り上がりを見せていた。
この闘技場では定期的に魔導学校の生徒達による試合が行われ、毎回盛り上がるのだが、今回は別格だった。
今行われている試合のレベル自体が別格だからという事が、その第一の原因だった。同じ魔導学校の生徒とはいえ、既に教師達でもそうそう適う者のいないであろう実力を持つカーエスと、彼と互角に渡り合う女騎士。
双方の実力は素人目に見ても拮抗しており、双方全力に近い実力を発揮して、その技を競っていた。
手に汗握る闘いに、見る者達はすっかり興奮してしまっている。
今にも闘技場内に流れ込みそうな勢いで、闘いに魅入っている者達をかき分けて、ティタは闘技場の縁の席で闘いを見守っていたリクとコーダを見付けた。
リクはティタの姿を見てたいそう驚いた。あわててコーダに時間の確認を頼む。
「あはは、まだ時間は大丈夫だよ。学生ラウンジに来てみたら皆騒いでたもんでね。ところで、一体全体こりゃどういうこと? 何でカーエスとジェシカが闘ってるんだい?」
その問いに、リクがかいつまんで事情を説明した。
「……呆れた。これがただの喧嘩なんて、ここにいる人間の何人が信じるだろうねェ? まあ、こういうノリは嫌いじゃないからいいけどね。それより面白そうだし、アタシも見物させてもらうかな」と、ティタはリクの隣に腰を下ろした。
フィラレスも、不安げな視線を闘う二人に投げかけながら自分も腰を下ろした。
「で、今のところの戦況はどうだい?」
これにはコーダが答えた。
「見ての通り拮抗している感じスよ。最初はジェシカさんが押してたんスけど、あの森を魔法で出してからは、あの森を利用していろいろ仕掛けていやス」
接近戦になると、白兵戦中心のジェシカが圧倒的に押すが、カーエスも隙を見逃さず距離をとって魔法戦に持ち込む。
さっきから、そのパターンの繰り返しだ、とコーダはティタ達に説明した。
「で、リクはどっちが勝つと思う?」
「さあ、俺には分からねーな。……だが、強いて言うなら、先に本気を出した方が勝つんじゃねーか?」
リクの発言に、ティタは首を傾げた。
彼の視線の先にいる二人は、今現在、激しい魔導戦を繰り広げている最中だ。どちらも相手の手を良く読み、隙を見付け、勝負を決めるべく攻撃に移る。
それのどこが本気の勝負ではないと言うのだろう。
「このままだったら勝負は付かない。自分が隠しもっている“切り札”を使わない限りな」
「“切り札”?」
ティタが聞き返したのを受けて、リクが頷いた。
そして続ける。
「平たく言やぁ、一撃必殺魔法だよ。放てば最後、並みの手段や魔法じゃ防御不能って代物だ」
「そんなのがあるなら、さっさと使えばいいじゃないさ」
拍子抜けしたようなティタの意見だったが、リクはそれには首を横に降って答えた。
「勿体振ってこそ“切り札”なんだ……って冗談は置いておいてだな、やっぱり自分の“切り札”は温存しとくべき物なんだよ。いきなり使われるから、“切り札”は“切り札”でいられるんだ。頻繁に使ってたら対策が練られ、簡単に対処できるようになる。つまり、その時点で“切り札”は“切り札”じゃなくなるんだ」
この試合は大したペナルティもない。お互い、命をとる為に闘っているわけでもないし、何か大切な者を賭けて闘っているわけでもない。そんないい加減な試合程度で“切り札”は使うべきではないのだ。
ところが、今の局面では“切り札”を使わなければ勝負が付かない。切り札は使いたくない。しかしお互い負けたくはないだろう。
「両方とも、そんな葛藤に悩んでいるはずだ。だから、より相手に勝ちたいと思っている方、つまり自分の“切り札”を晒してでも勝つ方を選んだやつが勝つ。ただ……」
「ただ?」
聞き返したティタに対し、リクは少し間を置いて答えた。
「俺は、この勝負は勝ち負けじゃないと思ってる。問題はそれに二人が気付くかどうか、ってことなんだ」
「光を持って光を奪え、《目くらまし》っ!」
掲げられたジェシカの手の平が太陽のように眩く輝いた。そのあまりの眩しさに、その場にいる全員が、一瞬目を閉じてしまう。
ジェシカはその隙に《電光石火》を使って、カーエスとの間合いを一気に詰めた。
「もらった!」
確信に満ちた発言と同時に槍を突き出した次の瞬間、彼女の表情が凍り付いた。
眩さに目を閉じていたはずのカーエスが目を開けていたのだ。そしてカーエスは突き出された槍をひょいと避けると、ジェシカの懐に潜り込んで魔法を詠唱した。
「風を集めて凝らせし《風玉》よ、触れし者全てを吹き飛ばせ!」
詠唱と共に風がカーエスの掌中に集まり、凝縮され、一つの玉を形作った。彼はそれを彼女の腹部に向かって放つ。それがジェシカに当たった瞬間、それは小さな竜巻きと化し、ジェシカは、その風圧に数メートル後方まで吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされている間、ジェシカは自らの愚行を反省していた。
(失態だ。“先読み”の能力を甘く見ていた……!)
カーエスの“魔導眼”は魔力を見る。つまり、魔法を行使する為に行う魔導を見る事ができるわけで、それを見れば、その魔導で次にどんな魔法を使おうとしているのか、常人より遥かには早く判断できるのである。
先程の《目くらまし》も、ジェシカが魔導を行った時点で見抜かれ、あの光が放たれた瞬間は目を瞑って眩しさに光を奪われる事を避けていたのだろう。
一方のカーエスはこの機を逃さず、ジェシカを追撃せんと呪文を詠唱していた。
「木の葉達よ、刃を持て! 風に乗って舞い踊り、《木の葉乱舞》となりて我が仇を切り刻め!」
詠唱が終わった瞬間、強風が巻き起こった。カーエスの《恵みの森林》に生える木々をなぎ倒さんばかりに吹き荒れ、その木の葉を千切りとる。
千切りとられた木の葉は風に乗って舞い上がり、体勢を崩しているジェシカに殺到した。
「くっ……!」
ジェシカは何の防御行動がとる事も出来ずに木の葉達に教われ、顔や手など露出している部分に切り傷を作って行く。
しかし、数は多いものの、木の葉一つ一つの攻撃力は無視していてもいい範囲だ。少し我慢していれば、十分に体勢を立て直し、反撃に出る事ができるだろう。
何とか立ち上がって、攻勢に出ようと考えた時、ジェシカは自分の足元を見て戦慄した。
足元には、赤い円が描かれていた。
「燃え立ち上がれ、《火柱》!」
「《耐火》よ、我に火をも恐れ得ぬ肉体を!」
咄嗟に唱えた防御魔法の効果が現れ、ジェシカの肉体を火に耐えうるものにした時、《火柱》が発動した。赤い円に囲まれたものを焼き付くさんと炎を上げる。
しかしそれだけでは終わらなかった。
ジェシカの周りにあるのは、《木の葉乱舞》で飛ばされた木の葉達だ。その木の葉に燃え移り、《火柱》は周りを明るく照らす程に激しく燃え盛る。
その炎は《耐火》で防護している身体をも焼き、ジェシカの身体を焦がし始めた。
(いかん……このままでは……!)
この状況を脱出する術は幾つかあった。そのうちの一つが通常の魔法を使うもの、そして更にもう一つは自分の“切り札”を出すことである。
普通の魔法で脱出できるのなら、そうするに越したことはないだろう。しかし、それではおそらく決着は付かない。そんな確信に似たような感情があった。
もう一つの方法が“切り札”を使うことだった。これならば脱出することはおろか、決着をあっさりとつけることができる。
しかし、それでいいのだろうか。お互い決着を付けようという気持ちは本物であるが、負けて何を失うわけでもない、いい加減な試合だ。
そんな試合に熱くなり、“切り札”を曝け出してまで勝ちに行く。
普段の自分なら、そんな愚行は許さないだろう。いつか、本当の敵に相対した時、“切り札”が“切り札”で無くなってしまっている事を考えれば、ここで勝ちを譲ることなど何でもないはずだ。
だが、彼女の全身は、その常識を無視し、その判断を拒んでいる。
(私はやはりこの男に勝ちたい……!)
“切り札”を出してでも勝ちたかった。
それは、試合が始まった当初抱いていた意地からくる感情などではない。実際に今、自分がどうしてカーエスと闘っているのか、考えても良く分からなくなっていたからである。闘いを始めた当初の腹立たしい気持ちは、今は綺麗に吹き飛んでいた。
単純にカーエスが強いと認めたが故の、純粋な気持ちだった。
改めて考え、そんな気持ちに気付いた時、彼女の表情は闘いの最中とは思えないくらいに柔らかいものとなっていた。
(……良かろう。貴様ごときには勿体無いかもしれんが、私の奥義、くれてやろう)
決断したジェシカは気を取り直して集中し、槍を構えた。
槍に魔力が込められ、それが輝き出す。
槍を構えたまま、唱える。
「猛者たる条件は《強力》、魔力よ、理力の源となりて我を猛者と成せ!」
ジェシカの全身に力がみなぎる。
「我得るは《一時の怪力》!」
そしてもう一度唱える。
「我得るは《一時の怪力》!」
槍をぎりぎりと引き、炎の向こうに見えるカーエスを見据え、更に槍に魔力が満ちさせた。
「喰らえ……! 我が槍技の一つの極み、“彗星突”!」
掛け声と共に突き出した槍から、“流星突”とは比べ物にならないくらい太い光線が放出される。その反動で出た衝撃が、ジェシカの身体を覆っていた炎を吹き飛ばし、光線はカーエスに向かって一直線に伸びて行く。
その先にいるカーエスは避ける様子も見せず、右の手の平を光線に向かって持ち上げて唱えた。
「我が前に立ち塞がりし《増幅する魔鏡》は、受けた光を倍に増して反射する!」
魔法攻撃を倍にして返す障壁がカーエスの手元に現れ、“彗星突”の光線を迎え撃った。
その時、ジェシカが叫んだ。
「そんな手鏡で、私の奥義が破れるかッ!」
そして光線が《増幅する魔鏡》にぶつかった瞬間、そのあまりの威力に、受けた右手が跳ね上がり、その勢いをもって、カーエスの身体を後方に転がした。
しかし一応、《増幅する魔鏡》は効力を発揮したようで、倍に増幅する事はおろか、跳ね返す事さえ出来なかったものの、方向を変えることはでき、直撃する事だけは避けられた。
しかし、防いだとはいえ、カーエスは無傷というわけにはいかなかった。
“彗星突”の光線を迎え撃った右手が、見た目にも明らかに骨折していた。おそらく迎え撃った時の衝撃がその原因であることはハッキリしていた。
だが、カーエスはジェシカを見据えるのを止めず、さらに呪文を口にしようとしたその時、闘技場にリクの声が響いた。
「そこまでだ!」
全員の注目が集まる中、リクは《飛躍》の魔法を使い、客席から二人の中間点に降り立った。
二人は一瞬、リクに対し、責めるような視線を送ったが、それに答えるようにリクが続ける。
「もう十分だろ? これは何かが懸かってるような闘いじゃない、ただの試合だ。それに、俺から見ると、この闘いの目的はとっくに果たされているように思えるしな。二人ともスッキリしたんじゃねーか?」
リクの最後の問いかけに、二人は黙って構えを解いた。
その二人の様子に、リクは満足そうに頷いた。
「よし。じゃあ、とりあえず、医務室に行かなきゃな。……と、その前に……」と、リクは観客席にいる者達を見上げ、声を張り上げた。「ほら、両者の退場だ。拍手!」
途端に歓声と拍手が闘技場の中に満ち溢れた。