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魔法使い達の夢  作者: 想 詩拓
第一部:ファトルエルの決闘大会
20/114

20『恐怖、そして逃走』

 圧倒的な強者を前に、逃げるのは恥じる事ではない。

 生きれば何かの道はある。


 しかし逃げられない状況で逃げようとするのは、あまりの愚行だ。


 大切なのは生き延びる事。

 その為にする事は、敵から逃げる事ではない。

 死から逃げる事だ。




 シノン=タークス VS ジルヴァルト=ベルセイク

 その闘いは周りから見ると、ただのフリーの参加者と前回の優勝者という優勝候補のつまらない対戦のはずだった。

 しかしそれを観る者達の表情は、みるみる内に戦慄と驚愕に凍り付いて行く事となる。


 対戦は先ずシノンの先制攻撃から始まった。

 睨み合っていた体勢からシノンの凛々しい顔が引き締まり、魔法の詠唱が始まる。


「《電光石火》によりて我は瞬く早さを得ん!」


 唱え終わると、剣を構えたシノンの身体が閃光を放った。かと思うと、シノンの姿はそこからは消え、ジルヴァルトの背後に走り抜けていた。

 ジルヴァルトは、両腕で急所をガードし、その腕に浅い切り傷を負う。

 《電光石火》はスピードを得られるが、攻撃力が伴わない。傷を負っても大した事はあるまい。

 だが、先手をとり、相手の気を反らすにはもってこいの魔法だった。


「猛者たる条件は《強力》、魔力よ、理力の源となりて我を猛者と成せ!」


 振り向き様唱えた魔法で、筋力を増幅させる魔力の膜を自分の身体の上に纏うと、シノンは躊躇なく、次の魔法を唱えた。


「《電光石火》によりて我は瞬く早さを得ん!」


 確かに《電光石火》は攻撃力を伴わない。しかし《強力》によってその攻撃力は補われ、再び同じようにガードしたジルヴァルトの腕に先程とは比べ物にならない深い裂傷が刻まれる。

 しかしシノンはそこで流れを止める事などしなかった。

 剣を地面に突き刺すと、魔法で得た筋力をもって力ずくで振り抜く。

 砂が舞い、ジルヴァルトの目を覆った。

 更に間を置かず、次の攻撃に入る。


「我得るは《一時の怪力》、我唱えるは五度の《電光石火》、我が描くは五芒星!」


 “七星剣”!


 閃光が文字どおり五芒星の形に走り、ジルヴァルトの全身に《一時の怪力》によって高められた攻撃力によって五つの大きな裂傷が走り、血が噴き出す。

 五芒星を描き切ったところでシノンはジルヴァルトの懐に潜り込み、下から剣を振り上げる。これで六撃目だ。

 それを振り切ると同時に、シノンは《飛躍》の魔法を使い、上空に飛び上がる。

 そして自分の真下に《更なる重力》を使い、自分の落下スピードを上げる。

 真下のジルヴァルトを見据え、シノンは最後の一撃の剣を振りかぶった。


「終わりだ、ジルヴァルト=ベルセイク!」


 しかし、七撃目がジルヴァルトに届く事はなかった。

 彼は傷だらけの右腕をゆらりと上げ、人さし指と中指のたった二本の指先でその剣を止めてしまったのだ。


「なっ……馬鹿な……!?」

「茶番は終わりだ」


 一言呟くと、ジルヴァルトはそのままの姿勢を保ちつつ静かに詠唱を始めた。


「我傷負いし、汝傷付けし。我が傷はやがて癒え、汝が罪、遥か昔に定められし教典によりて裁かれ、汝の身に返るであろう」


 そして、ジルヴァルトはシノンの腹部に掌を当て、静かにその魔法の名を告げる。


「《報復の裁き》」


 次の瞬間、驚くべき事に、ジルヴァルトの身体についていた傷が全て癒え、かわりにシノンが全く同じ場所、同じ傷を負った。


「ぐっ……ああ!」


 手を離し、支えを失ったシノンは鮮血を噴き出しながら、前のめりに倒れる。

 そのシノンに、後ろで控えていたカンファータの魔導騎士団の残りの二人のうち、何故か顔に鉄仮面を付けた一人が駆け寄った。

「シノン様!」


「貴様、よくもシノン様を!」

 もう一人は戦斧を構えて《強力》で攻撃力を強化し、《一時の怪力》で更に攻撃力を増幅しながらジルヴァルトに突っ込む。

 そして攻撃に入る前に、もう一度《一時の怪力》を唱えた。

「食らえェ!」


 しかし、ジルヴァルトはその斬撃を軽やかに躱すと、その男を睨み付けた。

 その男と一瞬目があったと思うと、突然その男は全身の力が抜け、その場に崩れ落ちるようにして倒れた。

 残る一人、仮面を付けた魔導騎士はもう一人がやられたのを知ると、シノンの傍に立ち上がり、ジルヴァルトを睨み付けた。

 倒れた男を見下ろしていたジルヴァルトがその視線に気付いて顔を上げる。


「……お前も俺とやる気か?」

「……同胞がこれだけやられたのだ。黙っている訳には行かない」と、持っている針を大きくしたような、完全に刺す為だけのスピアを構えて答えた。

「止めておけ。お前は俺には勝てん」

「ほう……大体想像はつくが根拠を聞こうか」


 仮面魔導騎士は臨戦体勢を崩さずに尋ねる。


「大会に出場しているライバルであるにもかかわらず、お前達が様を付けて呼び、敬愛するシノン=タークスを倒したのが一つだ」

「敬愛しているからといって私がシノン様より弱い訳にはならない」


 すかさず仮面魔導騎士は答えた。ジルヴァルトがすぐに反論してこないのを見て、仮面の中でほくそ笑む。

 しかし、一息置いてジルヴァルトは発言を続けた。


「もう一つある」

「ほう?」

「お前が自分の性別に負い目を感じ、そのような仮面を付けている事だ」


 言うが早いか、ジルヴァルトは掌を仮面魔導騎士に向け、衝撃波を放った。

 その衝撃波が鉄仮面を襲い、仮面魔導騎士は背中から仰向けに倒れる。そのショックで仮面は後ろの方へと飛んでしまった。

 その仮面の下にある顔は、金髪の髪に碧眼、どこか気品を漂わせるきりっとした面持ちを持つ美しい女性だった。


「自分を偽るような甘い人間が、そこに転がっている前回の優勝者より強いとは思えん」


 ジルヴァルトはそれだけ言うと、彼女に背中を向けて歩み去って行く。



   *****************************



 そのジルヴァルトの圧倒的な強さに、リクはただただ戦慄を覚えるのみであった。

 始め、シノンが押していたのを見ていたが、彼にはどうしてもジルヴァルトが負けるようには思えなかった。

 あれだけの傷を負わされていながらも眉一つ動かさなかったのだ。

 ただ、何かをジッと待っていた。それがあの《報復の裁き》だとまでは分からなかったが。

 そして二人目を倒した時、あれは自分がやられたのと同じものに違いない。客観的に見るのは二度目だが、一度やられた後である所為か、あの時より感じる悪寒が倍増していた。


 その後、仮面を付けた魔導騎士とジルヴァルトが何やら会話をし、突然衝撃波を放った時、その魔導騎士は死んだと思った。

 しかし実際は仮面が剥げただけで、その中身が女性である事、そしてジルヴァルトがその女性を殺さなかった事が二重の驚きだった。

 殺す人間と殺さない人間。

 ジルヴァルトの中はどう言う法則が成り立っているのだろうか。

 ただ、気紛れだとはどうしても思えない。


 ジルヴァルトがその場から去ろうとリクの方に向きを変えた。

 その瞬間、リクは今来た方向に逃げ出した。

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