第8話 縁側の尋問、幼馴染の「ぷっくり」は止まらない
夕暮れ時、甘い醤油の香りがふわりと漂う縁側。
準備を整えた僕は、隣で「ほうじ茶」の温度を厳しくチェックしているひなたと一緒に、主役の到着を待っていた。
「――で? そのななか先輩、今日は何時に来るのよ」
ひなたが湯呑みを盆に並べ替えながら、探るような視線を僕に向けてきた。さっきから五分おきに同じことを聞いている気がする。
「放課後すぐ、って言ってたからもうすぐだと思うけど。……そんなに急がなくても、先輩は逃げないぞ?」
「逃げないでしょうけど、うちの看板娘がわざわざお茶を淹れて待ってるんだから、遅刻は厳禁よ。……それにしても伊織、あんた本当にその先輩のこと、お団子をあげるだけの『モニター』だと思ってるんでしょ?」
「もちろんだよ。あんなに美味しそうに食べてくれる人、他にいないからな。……あ、でも、昨日『天才かも』って言われた時は、正直ちょっと嬉しかったけど」
「…………天才、ねぇ」
ひなたが小声で、「お人好しの天才の間違いじゃないの」と毒を吐いたのが聞こえたが、僕はあえてスルーした。
「でも、不思議なんだよな。学校ではあんなにみんなに囲まれてキラキラしてるのに、お団子のことになると、急に迷子の子犬みたいになるんだ」
「子犬って……百七十センチもあるんでしょ? どっちかっていうと、大型犬じゃない」
「いや、瞳がすごく純粋なんだよ。こう、亜麻色の髪をさらっとさせて、じーっとお団子を見つめる姿とか……凛としてるのに、ほっとけないっていうか」
「…………」
僕が昨日の光景を思い出して熱心に語ると、ひなたの頬が、ななか先輩とは別の意味で「ぷっくり」と膨らんだ。
「ふーん。凛としてて、ほっとけないんだ。……私のことは『放っておいても勝手に起きる』くらいにしか思ってないくせに」
「え? 何か言ったか?」
「別に! 何も言ってないわよバカ伊織! ほら、お団子が乾燥して硬くなったらどうするのよ。早く蓋をしときなさい!」
ひなたはパタパタと手で顔を仰ぎながら、落ち着かない様子で膝を揺らしている。
「……でも、そんなに綺麗な人が、本当にお団子一つでそんな……その、『ぷっくり』なんて顔、するわけ?」
「するんだって。本当にリスみたいなんだ。一口食べた瞬間に、こう、シュッとしたフェイスラインが内側から弾けるみたいに――」
「はいはい、もういいわよ。その『ぷっくり』は、今から私のこの目で確かめてあげるから」
ひなたは「ふんっ」と鼻を鳴らして庭の先を見据えた。
ライバルを偵察するような、あるいは獲物を待つハンターのような鋭い目。……なのに、その手は緊張のせいか、さっきから何度も自分のツインテールの毛先をいじっている。
その時、カラリと表の門が開く音がした。
「……ごめんください」
夕日に縁取られた門の向こうに、長い影が落ちる。
そこに立っていたのは、学校での喧騒を脱ぎ捨てたかのような、どこか心細げで、けれど期待に瞳を潤ませたななか先輩だった。
「……あ、お団子の……伊織くん、……来た」
先輩の視線が、僕――というより、僕の隣にあるお団子の皿へ一直線に突き刺さる。
その瞬間、隣に座るひなたの全身が、ビシッと凍りついたのを僕は感じた。




