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第39話 天の川をすくう小さなスプーン。……孤独な織姫に居場所をくれた星空の水羊羹(ななか視点)

 ……甘くて、冷たい。

 すっと溶けるような寒天の中に、小さなお星さまが隠れている。


 伊織くんと、ひなたちゃんが二人で作ったという『星空の水羊羹』。

 ガラスのお皿に乗ったその深い青のグラデーションは、……ため息が出るくらい、綺麗で、美味しかった。


「先輩、お口に合いましたか?」

「うん。伊織、先輩すっごくいい顔して食べてるじゃない」


 私の目の前では、伊織くんとひなたちゃんが、どこかホッとしたような、嬉しそうな顔で笑い合っている。


 さっき縁側に来た時、ひなたちゃんはなぜか顔を真っ赤にしていて、伊織くんはひどく動揺していた。……たぶん、私が来る直前に、二人だけの特別な時間があったんだと思う。

 ……でも、二人は私を邪魔者扱いなんてしない。

いつものように、当たり前みたいに、縁側の真ん中に私を座らせてくれる。


 学校での私は、いつも一人だ。

 誰も、本当の私には近づいてこない。

「高嶺の花」とか「ミステリアスな美人」とか。……誰も触れちゃいけないような、名前をつけて。


 お昼休みや放課後、私をお世話しようとしてくれるお友達はたくさんいても、……等身大の、本当の私自身に近づこうとしてくれる人は、誰もいなかった。

 ……本当は、ただ甘いものが好きで、誰かと同じ時間を分け合いたいだけの、普通の女の子なのに。

見えないガラスの箱に閉じ込められたみたいで。……ずっと、孤独で、息苦しかった。


 でも、この縁側は違う。

 伊織くんは、私のお腹を満たすために一生懸命お菓子を作ってくれる。

 ひなたちゃんは、「また食べてばっかり!」って呆れながら、温かいお茶を淹れてくれる。


 ……二人は、私を特別な『ガラスの箱』から引っぱり出してくれた。

 ただの、ちょっと食いしん坊な『ななか先輩』として、この温かい空間に置いてくれる。

 ……それが私にとって、どれだけ泣きたくなるくらい救われることか。きっと二人は、一生気づかない。


 7月になり、もうすぐ夏休みが始まる。

 学校が休みになったら、ここへ寄り道する口実がなくなってしまう。


 ……それが、少しだけ怖かった。

 私は、最後のお星さまを飲み込んで、ぽつりと口を開いた。


「……夏休みも、ここに来ていい?」


 いつもの私の声。でも、ほんの少しだけ、震えていたかもしれない。

 伊織くんは目を丸くした後、すぐに柔らかく笑った。


「もちろんです! いつでも特等席を用意して待ってますよ」

「そうよ先輩! 先輩が来ないと、伊織のやつ、和菓子の感想をもらえなくて干からびちゃうんだから」

「ひなた、それは言い過ぎだろ……」


 わちゃわちゃと言い合う二人の姿を見て、……私の胸の奥に、じんわりと温かい灯りがともる。


「……よかった」


 私は短く呟いて、二杯目の水羊羹をねだるようにお皿を差し出した。

 ひなたちゃんが、伊織くんにとって特別な、かけがえのない『相棒』だということは分かっている。二人の間にある絆は、きっと私が入れるようなものじゃない。


 でも。


(……ここは、私の大切な場所)


 私は、もう一度口の中に広がる甘く冷たい夜空を味わいながら、誰にも聞こえないように、心の中でそっと呟いた。


(……誰にも、渡さない)


 夏の夜の風が、縁側の笹の葉をサラサラと揺らしていた。

 ……私の秘密の想いも、この星空に、少しだけ溶けていくような気がした。


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