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第33話 ……ひなたちゃん、どうだった? 縁側に咲いた優しい笑顔

 ひなたの部屋で長居してしまい、すっかり安心しきった足取りで自分の家へ戻る道すがら。

 僕はハッと足を止め、一気に血の気を引かせた。


(……やばい!! ななか先輩を、うちの縁側に放置したままだ!)


 自分のポンコツ具合に絶望しながら、僕は大慌てで自宅の庭へと駆け込んだ。

 雨が上がり、雲の隙間から夕日が差し込み始めた静かな縁側。そこには、膝を抱えてちょこんと丸まり、大人しくお留守番をしている亜麻色の髪の美少女の姿があった。


「す、すみません先輩! 遅くなりました!」

「……ん、おかえり」


 僕が平謝りすると、先輩は怒る様子もなく、パタパタと小動物のように手を振ってくれた。

 僕は急いで台所へ向かい、約束通り作っておいたお詫びの特盛り『みたらし団子』と、温かい『完璧な杏のくず湯』をお盆に乗せて縁側へ運んだ。


「お待たせしました。これ、お約束の」

「……!!」


 お盆を見た瞬間、先輩のミステリアスな瞳がパァッと星のように輝いた。

 さっそく、出来立てのくず湯と艶やかなみたらし団子を交互に口へ運んでいく。


 迷いが消え、ひなたを想って作った完璧なとろみと爽やかな甘さ。そして、僕が職人としての情熱を取り戻したからこそ作れた、いつも以上の特製みたらし。

 その絶妙なハーモニーを味わった先輩のシュッとしたフェイスラインは、過去最大級の「特大ぷっくり」へと限界突破した。


「……おいひぃ……。あんず、とろとろ……お団子、もちもち……」

「あはは、よかったです」


 幸せそうに「ふにゃぁ……」と目を細めるその無防備な姿に、僕も職人として、そして心の底から安堵の息を漏らす。

 至福の咀嚼を終えた先輩は、ずずっ、と温かいほうじ茶を一口飲み、ふと優しい瞳で僕を見上げた。


「……ひなたちゃん、どうだった?」


 その声は、いつものふんわりしたトーンだったけれど、確かな気遣いが込められていた。

 僕は照れくさそうに頭を掻きながら、隣の家での出来事を思い出す。


「泣かせてしまいましたが、最後はちゃんと笑ってくれました。……僕の和菓子には、ひなたが必要だって、ちゃんと伝えられましたよ」

「そっか」


 僕の報告を聞いた先輩は、まるで自分のことのように柔らかく微笑んだ。


「……よかった」


 短く、けれど最高に温かい言葉。

 ただの食いしん坊なだけじゃない。誰よりも僕たちの不器用な関係を見守り、一番大切なことに気づかせてくれたこのミステリアスな天使に、僕は深い感謝を抱いた。


「本当に、先輩のおかげです。ありがとうございます」

「……ん。……また、お団子、食べにくる」

「はい。いつでも、最高の特等席を用意して待ってますから」


 雨上がりの澄んだ空気が、庭の木々を揺らしていく。

 雲の隙間から差し込んだオレンジ色の夕日が、甘い醤油の匂いがする縁側と、先輩の優しい笑顔を温かく照らしていた。


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