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第24話 家庭科室の特別レッスンと、阿吽の呼吸

 放課後に使用許可をもらった家庭科室。

 エプロン姿に着替えた僕とひなた、そして結衣の三人は、調理台を囲んで立っていた。


「よし、じゃあ早速始めるか。今回作るのは『抹茶の生チョコ大福』だ」

「生チョコ大福……! すごく美味しそうだけど、私に作れるかな……?」


 不安げに首を傾げる結衣に、僕は胸を張って頷いた。


「大丈夫。和菓子の『求肥(ぎゅうひ)』……つまり周りのお餅の部分は、白玉粉を使えば電子レンジで簡単に作れるんだ。中の生チョコさえ丸めて冷やしておけば、あとは包むだけだから失敗しにくい」

「しかも、抹茶の粉をまぶせば一気に高級感が出るのよ。男の子って、ちょっとほろ苦いのが好きだったりするでしょ?」


 すかさずひなたが、看板娘らしい的確なアドバイスを添える。

 結衣は「なるほど……!」と感心したようにメモを取っていた。


「じゃあ、まずは俺が見本を見せるから」


 僕は耐熱ボウルに白玉粉と砂糖、水を入れ、ダマにならないように混ぜていく。

 和菓子作りとなると、自然と手つきも真剣になる。ラップをしてレンジで加熱し、取り出しては木べらで練る。それを数回繰り返すと、生地に透明感と強いツヤが出てきた。


「よし、いい感じだ。ひなた、」


 僕がボウルから目を離さずにポン、と右手を差し出すと。

 何も言わなくても、片栗粉をたっぷりと敷き詰めたバットが、すっと手元に差し出された。


「はいよ。火傷しないようにね」

「サンキュー。ヘラも頼む」

「ん」


 使い終わった木べらを渡すと、ひなたは流れるような動作でそれを受け取り、代わりに茶こしに入った抹茶パウダーを手渡してくる。

 生地をバットに広げ、手早く均等に切り分ける。

冷やしておいた生チョコを中央に置き、対角線上の生地を引っ張るようにして、隙間なくきゅっと包み込む。

 仕上げに抹茶をふわりとまぶせば、コロンとした可愛らしい『抹茶の生チョコ大福』の完成だ。


「……すごい」


 結衣が、目を丸くして感嘆の声を漏らした。


「お店みたいに綺麗……! っていうか、それ以上に……」

「ん? どうした?」


 結衣は僕とひなたを交互に見つめ、口元を手で覆ってクスクスと笑い始めた。


「ふふっ。伊織くんとひなたちゃんのコンビネーション、すごすぎるよ。言葉なんてなくても、次何が必要か完全にわかってるんだもん」

「えっ?」

「……あ」


 結衣に言われて、僕とひなたは顔を見合わせた。

家の工房で当たり前のようにやっているやり取りが、無意識のうちに学校の家庭科室でも出てしまっていたらしい。


「やっぱり二人の間には、誰も入れないね。なんだか、本当の夫婦の共同作業を見てるみたいだった」

「っ〜〜!!」


 ひなたの顔が、バッ!とトマトのように真っ赤に染まる。


「ち、ちがっ! 違うからね結衣ちゃん!? これは、家でいつもこき使われてるから、体が勝手に動いただけというか、ただの腐れ縁の悲しき習性というか……っ!」

「あはは、ひなたちゃん顔真っ赤だよ?」


 慌てて両手を振って弁解するひなたを、結衣が微笑ましそうにからかっている。


(……夫婦の共同作業、か)


 いつもなら僕も「だよな、あり得ないよな」と一緒に否定して笑い飛ばすところだ。

 でも、今日の僕は、なぜかすぐにその言葉を口に出せなかった。


 家庭科室の窓から差し込む、傾きかけた西日。

 いつもの『三色堂のエプロン』じゃない、学校指定のシンプルなエプロン姿のひなた。

 低い位置で結えられたツインテールの髪から覗く、真っ赤になった耳の先。

 モールからの帰り道、夕暮れのなか無防備な笑顔を向けられた時のあの強烈な記憶が、フラッシュバックする。


 ドクン、と。

 まただ。最近、ひなたのちょっとした仕草を見るだけで、胸の奥で厄介な音が鳴る。


「……ちょっと伊織! あんたもボーッとしてないでなんか言いなさいよ!」

「えっ、あ、いや……まあ、阿吽の呼吸ってやつ? 俺たち、長いし」

「なっ……! そこは否定するとこでしょこのバカ! 結衣ちゃんが変な誤解するじゃない!」


 僕が変に誤魔化したせいで、ひなたはさらに顔を赤くして僕の背中をポカポカと叩き始めた。

 やっぱり、少し痛い。でも、その手から伝わる体温とフローラルな香りが、僕の厄介な鼓動をさらに加速させていくのだった。


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