第21話 クレーンゲームの戦利品と、小さなヤキモチ
試着室での心臓に悪いイベントを乗り越え、僕たちは休憩がてらゲームセンターの賑やかなフロアに足を踏み入れた。
色とりどりのアーケード機や、ピコピコと鳴る電子音。
両手いっぱいの紙袋をベンチに置き、ふと視線を彷徨わせた僕の目に、あるクレーンゲームの景品が飛び込んできた。
「……あ」
ガラスケースの中に山積みになっていたのは、両手でドングリを抱え、頬袋を限界までパンパンに膨らませた丸っこいリスのぬいぐるみだった。
(……ななか先輩の『ぷっくり』そっくりだな、これ)
柏餅を頬張った時の、あの幸せそうな顔。
思い出すと自然とクスッと笑いが漏れて、僕は吸い寄せられるように100円玉を投入していた。
ウィーン、という機械音とともにアームが降りる。和菓子作りで培った指先の感覚が冴えたのか、アームは絶妙なバランスでリスを掴み、ゴトン!と景品口へ落とした。
「お、一発ゲット」
「……ふーん」
リスを取り出して振り返った瞬間。
隣から、シベリアの永久凍土並みに冷たい声が降ってきた。
見ると、ひなたが両腕を組み、先ほどのリス顔負けの勢いで頬を膨らませている。
そのジト目は、完全に僕の手の中にあるリスのぬいぐるみに向けられていた。
「せーっかくの休日で、私の荷物持ちの最中なのに。……結局、頭の中はあの先輩のお団子ほっぺでいっぱいってわけね」
「えっ、いや、これはただ似てるなって思って……」
「言い訳は聞きたくありませんー。だいたいあんたは、いつもいつも……」
ぷいっ、とそっぽを向いてしまうひなた。
試着室でのあの甘い空気はどこへやら、完全に「拗ねた妹」モードに入ってしまっている。
だけど、今日の僕はいつものように「はいはい」とやり過ごすつもりはなかった。
「……ひなたには、こっちだな」
僕はもう一枚100円玉を取り出すと、隣のクレーンゲーム機に投入した。
「え?」
ひなたが怪訝そうに振り返る前で、僕は真剣な顔でアームを操作する。
狙うは、黄色くてフワフワした、少しツリ目の元気そうなヒヨコのマスコットだ。
何度かアームの角度を微調整し……これも見事に、一発で釣り上げることに成功した。
「はい、これ」
「……なにこれ」
差し出された手のひらサイズのヒヨコを、ひなたはきょとんとした顔で見つめる。
「なんか、いつも怒ってツッコミ入れてる時のひなたに似てたから。元気で、小生意気で……でも、なんか放っておけない感じが」
「はぁ!? 誰がこんな小生意気なツリ目の……!」
文句を言いかけたひなたの言葉が、ふいにピタリと止まった。
「……私のこと、見てくれてたの?」
「そりゃ、ずっと隣歩いてるんだから見るだろ。さっきのワンピースだって、すごく似合ってたし」
僕がリスとヒヨコを並べて笑うと、ひなたの頬が、カァッと分かりやすく朱色に染まった。
ヤキモチで膨らんでいたほっぺたがシュルシュルと萎み、代わりに照れ隠しの焦りが顔中に広がっていく。
「っ……! ほんっとうに、あんたって奴は……! そういう不意打ち、やめなさいって言ってるでしょ!!」
「痛っ、また叩く!」
ポカポカと僕の腕を叩きながらも、ひなたはその黄色いヒヨコのマスコットを、落とさないように両手でギュッと大切そうに握りしめていた。
「……でも、まあ。取ってくれたんだし、もらってあげる」
「おー、大事にしてくれよ」
「言われなくても。……ありがと」
最後の一言は、ゲームセンターの喧騒に掻き消されそうなくらい小さな声だったけれど。
ふにゃりと綻んだその笑顔は、さっきまでのヤキモチを完全に吹き飛ばすくらい、最高に可愛かった。
リスと、ヒヨコ。
僕たちの手の中に収まった二つの小さな戦利品は、今日のこのくすぐったい距離感を、そのまま形にしたみたいだった。




