第17話 五月の風に舞うツッコミと、縁側を包み込む金平糖の魔法
(さあ、どうだ。ひなたと二人で見つけ出した、特製の味は……!)
僕とひなたが息を呑んで見守る中。
先輩の小さな桜色の唇が、ゆっくりと、その真っ白なお餅を迎え入れた。
「……んんっ!!」
次の瞬間。
ミステリアスなフェイスラインが、内側から弾けるように、過去最大級に「ぷくぅぅっ」と膨れ上がった。
もっちりとしたお餅の弾力と、白味噌のまろやかなコク。
みたらしとはまた違う、上品で後を引く甘じょっぱさが口いっぱいに広がったのだろう。
先輩は幸せそうに目を細め、リスのように「もぐもぐ」と咀嚼を繰り返す。
「……おいひぃ……。これ、いままでで、いちばん……しあわせ……」
とろんとした表情で僕とひなたを交互に見つめる先輩。
その無防備すぎる「ぷっくり」を前に、僕の職人魂は静かに、だが確かなガッツポーズを決めた。
「……ひなたちゃんのお茶も、すごく、あう。……おいしい」
「ふ、ふんっ。当たり前でしょ、私が淹れたんだから」
照れ隠しでそっぽを向くひなたも、その口元はだらしなく緩んでいる。
やっぱり僕たちの特等席には、この幸せそうな笑顔が一番似合う。
あっという間に一つ目を平らげて新茶を一口飲んだ先輩は、ふと、何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「……あ、そうだ。これ」
先輩は持ってきた小さな紙袋をごそごそと探り、小瓶を取り出した。
「……いつも、ごちそうになってるから。私から、おみやげ」
中から出てきたのは、色とりどりの星が詰まったような、可愛らしい『金平糖』だった。
先輩は小瓶の蓋を開けると、ピンク色の小さな一粒を細い指でつまみ上げた。
そして、フワフワとした笑顔のまま、流れるような自然な動作で僕の口元へと手を伸ばしてくる。
「……伊織くん、あーん」
「えっ、あ、はい」
お昼休みのマシュマロ事件ですっかり飼い慣らされて……いや、免疫ができていた僕は、条件反射でパクッと口を開けてしまった。
カリッ、と甘い星が弾ける。
「……な、ななっ!?」
隣でひなたが、目を見開いて完全にフリーズしていた。
「ちょ、ちょっと伊織! あんた何ナチュラルに餌付けされてるのよ!? っていうか先輩! なんでそういうこと無自覚に――」
「……ひなたちゃんも、あーん」
「んぐっ!?」
文句をまくしたてようと大きく口を開けたひなたの隙を突き、先輩は素早く黄色の金平糖を放り込んだ。
「……んんっ!? あま。……じゃなくて! こういうの、心臓に悪いからダメだってば!」
「……ふふっ。おいしいね」
ひなたの必死の抗議も、ぽわぽわとした先輩の笑顔の前では完全に無力だった。
先輩は自分も一粒口に放り込み、幸せそうに「ころん」と舌の上で転がしている。
初夏の風が吹き抜ける縁側。
甘じょっぱい柏餅と、甘くて小さな金平糖。
呆れながらも結局は金平糖の甘さに頬を緩めてしまうひなたと、天使のような笑顔でこちらを見つめる先輩。
僕の黄金週間は、これ以上ないくらい温かくて、最高に甘い時間になっていた。




