七
その日の、帰り道。
「サギ師。ウソツキ。ペテン師。かってにバラしやがって。考えなし」
中島さんがジト目で陽太くんをにらみました。
「うう……」
陽太くんは頭をかかえました。
放課後、日暮先生に呼ばれて、工作の資料をわたされ、材料や作り方をまとめて……などしていたら、すっかり遅くなりました。
クラスのみんなは先に帰ってしまって、中島さんと二人、なんとなく、帰りもいっしょみたいな流れになったのでした。
そしたら、中島さんがブツブツいいだしたのです。
なんだよ、助けてやったのに、と、陽太くんは思いましたが、われながらむちゃくちゃだった自覚はあるので、責められると「そうかも」とも思うのでした。
でも、そのあと、すぐに――
「でも、ありがと」
中島さんは、ぼそっと、小声でそうつけたしたのでした。
うつむいた顔がまっ赤になっていました。
さっきまでの罵声は、ぜんぶ、てれかくしだったのかもしれません。
陽太くんはほっとしました。
とたんに、胸のなかが熱くなりました。
こみあげてきたのは、どうしようもないうれしさでした。
自分でもびっくりしました。中島さんにお礼をいわれたくらいで、どうしてこんなにうれしいのか。わかりません。わからないまま、でも、とにかく、うれしくて、たまらなくて、つい、まいあがって……
学級会での興奮が、まだ、さめきっていなかったせいもあったでしょうか。ふだんならとてもいえないようなせりふまで、いってしまいました。
「まあ、あれだ。『きみが虹の中に住みたいなら、虹を作ってあげなけりゃならんからね』――だろ?」
ふつうなら、いってしまってから、赤面するところです。
でも、そのときは、中島さんが「!? 読んだの?」なんて、すごい勢いで、食いついてきてくれたので、てれているひまもありませんでした。
「そりゃ、まあ、さすがにね」
陽太くんは頭をかきました。
中島さんの愛読書は、かなり有名な本だったようです。ショッピングモールの本屋さんできくと、すぐに文庫本が、それも何種類か、見つかりました。
読みはじめると、おもしろくて、二、三日で読み切ってしまいました。もちろん、プリズムの場面もです。
でも、
「やっぱり、よくわからないんだよな」
あの日、ききそびれた疑問を、陽太くんは、ふと思いだしました。
「あの小説だと、足をけがしたペンデルトンさんが、虹をみせてくれるんだろう? おれは逆に、足のわるかったばあちゃんに、虹をみせてやりたかったんだぞ。――どこがパレアナみたいなんだ?」
なんだ、そんなこと、と、中島さんは笑いました。
「だって、あんた、おばあちゃんを思いだして、サンキャッチャーを買ったんでしょう? 実際に、おばあちゃんに見せてあげたわけじゃないじゃない。むしろ、おばあちゃんのほうが、あんたに、虹をみせてくれたんだわ」
そしてハマったのよね? いっしょじゃない。
そう、中島さんは、いうのでした。
陽太くんは、目をしばたたきました。
しばらく考えて……
「そうか」
胸のなかに、さっきの熱さとはまたちがう、あたたかいものがこみあげてくるのを感じました。
「そうかあ……」
深い息を吐いて、そうくりかえしました。
どこかで、おばあちゃんが、笑っているような気がしました。なんだい、この子は、なんて、いっていそうです。
「なに笑ってんのよ」
中島さんが、肩をぶつけてきました。
べつに、と、いいすてて、陽太くんはかけだしました。
待ちなさいよ、と、中島さんが追ってきます。
影が長く伸びました。冬の日はずいぶんかたむいています。
でも、クリスマス会の二十二日は、冬至です。
そのあとは、また日が長くなっていくのです。




