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パレアナ・プリズム  作者: 七瀬みる


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5/7

 その日も、いつものように踊り場で会ったあと、さきに教室にもどる中島さんを、陽太くんは、見送りました。ひとりで踊り場で時間をつぶし、チャイムが鳴るのを待って、教室に向いました。

 廊下のむこうから、担任の日暮先生が歩いてくるのが見えて、すこし、急ぎました。

 教室のほうから、どっと、異様などよめきが聞こえてきたのは、そのときでした。

 そして、勢いよくドアがひらいて、中島さんがとびだしてきたのです。

「委員長?」

 中島さんは、陽太くんの顔をみると、一瞬、立ち止まって……

 その目にじわっと涙をにじませると、陽太くんのわきをすりぬけていきました。

「中島さん!?」と、日暮先生が――一瞬、ドアのまえでたちどまって、教室のなかをのぞき込んだあと――中島さんを追いかけていきました。

 陽太くんは教室のなかをみまわしました。

 クラス全員が、気まずそうでした。

 とくに、三村くんと早川くんは、すねたようにくちびるをとがらせていました。

 先生の登場は、よほど都合の悪いタイミングだったようです。


 そうこうするうちに、日暮先生が、中島さんをつれて、もどってきました。

 緊急の学級会がひらかれました。

 バレないように気をつけたつもりでしたが、やはり、不自然だったのでしょうか。このところ昼休みになると、陽太くんと中島さんが、ときどき、時間差で教室をでていくことに、三村くんが気づいたのです。

 そして、ついに、早川くんと二人、あとをつけて、待ち合わせの現場を目撃したのでした。

 三村くんと早川くんは、さっそく教室に「大ニュース」をもたらし、中島さんが帰ってくると、二人が「デキてる」とはやしたてたのです。

 教室は大さわぎになったそうです。

 三村くんと早川くんが「デート現場」の寸劇を演じ、ふだん中島さんに反感をもっている男子たちはゲラゲラ笑い……恋バナ好きの女子たちは女子たちで、中島さんに好奇の目を向け、あることないこと詮索したのだそうです。

 でも、そのときには、まだ、中島さんは超然としていました。

 中島さんが顔色を変えたのは、三村くんが、「あんなオモチャ、学校にもってきたらいけないんだぞ!」と、非難したときでした。いつも口うるさい「委員長」の校則違反。男子たちにとってはかっこうの標的でした。

 そうして、いたたまれなくなった中島さんが、教室を飛び出していったのです。


「その……オモチャっていうのは?」

 日暮先生が陽太くんを見つめました。

 陽太くんはゴクリと喉をならしました。

 もともと、バレないように、気をつけてはいました。それでも万一バレたとしたら――いちおうイイワケも考えてはありました。

 でも、あらめて思い返せば、ただの浅知恵みたいな気もします。むしろ妄想です。中二病です。そんなのでごまかせるわけがあるでしょうか。

 心臓がバクバクしました。逃げたいと思いました。でも、くちびるを噛んでうつむいている中島さんの姿を見ると、なにもしないわけにはいきませんでした。

 陽太くんは立ち上がりました。無言で窓のほうへ歩きました。そんな芝居がかったことをやっていると、舞台度胸ではありませんが、かえって、落ち着いてくるような気もしました。

「これです」

 窓に背をむけて、手をのばすと、サンキャッチャーの多面体を、午後の光のなかに垂らしました。

 南向きの大きな窓からさす冬の日ざし。

 その絶好のロケーションのなかで、きらきらかがやくプリズムが、教室いっぱいに、虹のかけらをまき散らしました。

 教室中が、おおっと、どよめきました。

 女子の一部からは、歓声さえあがりました。

 日暮先生すら息をのんでいました。

 それくらい、みごとな光景でした。

 まさか、こんなにあっさりひみつをバラすとは思わなかったのでしょう。ただひとり、中島さんだけが、ぽかんと、あっけにとられたように、陽太くんを見つめていました。

 陽太くんが手にしているのは、手持ちのなかでいちばん大きな、四つめのサンキャッチャーです。ほかの三つにくらべると、虹のかけらもあざやかで、くっきりしています。

 午後の強い日ざしのなかだと、圧巻でした。

 陽太くん自身、思わず、見とれてしまったくらいです。

 でも、すぐに、われにかえると……

「なにこれ!」

「きれい!」

「すごっ!」

「どこで買ったのよ」

「あたし知ってる、サンキャッチャーでしょ!」

 一部のキラキラ好きの女子たちの興奮した声が耳に入ってきました。

 何人かは、席を立って、陽太くんにつめよりかねない勢いでした。そこまででなくても、感心したように近くの席の子と顔を見合わせ、おしゃべりをはじめる生徒は、男子にも女子にも、いくらもいました。

 ざわめきと雑談と興奮に、教室中が生気をとりもどしていました。


 さすがに、日暮先生が、咳払いをして、騒ぎを制止しました。

「田代くん、それで?」先生がききました。

 陽太くんは、はあ、と、こたえて、

「相談してたんです。これ、クリスマス会でつかえないかなって」

 え?と……教室中が虚をつかれました。


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