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パレアナ・プリズム  作者: 七瀬みる


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3/7

「ちぇっ」

 陽太くんは空き教室の前で舌打ちしました。

 そうじゃないかと思ってはいましたが、ドアにはやっぱり、カギがかかっていました。

 ここは、校舎の西側。特殊教室が集まっている一画。ふだんはほとんど人けがありません。少子化のせいで空き教室もふえていますから、なおさらです。

 その空き教室に、もしかして、入れるのではないかと……昼休みに、こっそり、のぞきにきたのでした。


 サンキャッチャーを昼の日ざしに、といっても、平日は学校があります。

 土日はとうさんもかあさんも家にいます。べつにコソコソすることもないのですが、「なんだそれ」「へー」「おもしろいじゃないか」なんて……かまわれるかもしれないと思うと、たとえ好意的にだったとしても、やっぱり、ちょっと、めんどうです。

 そこで思いついたのが、空き教室でした。

 校舎は、校庭に面して、南向きに建っています。だから教室の窓も南向き。冬でも、長時間、直射日光がさしこんできます。そのうえ人けもない、となれば、願ってもありません。


 でも、やっぱり、そう甘くはないようでした。

 カギのかかったドアを、しばらくガチャガチャやってみましたが、それでどうなるわけでもありません。

 昼休みも残りわずか。

 うなだれて、帰りかけました。

 でも、そのときでした。

 上履きのつま先を、ふわっと、虹のかけらがよぎった気がしたのです。

 え?と、陽太くんは顔を上げました。

 三階から屋上へつづく階段のまえでした。

 その途中の踊り場から、きらきらした虹色の粒が、放射状にふりそそいでくるのでした。

 いまではもうよく知っている、見慣れた虹でした。

 けれど、これだけあかるい光のなかで見るのは――売り場の見本をのぞけば――ほとんどはじめてのことでした。

 人けのない西階段。窓からさしこむ強烈な午後の光。その光をあびて、あのキラキラした虹のかけらが、空間全体に、ひろがっている。ゆれている。おどっている。それはちょっとした壮観でした。

 思わず、声がもれました。

「おお……」

 その陽太くんの声に、窓辺の人影が、ビクッと、反応したのでした。


 中島さんは、かたい表情で、陽太くんを見下ろしました。

 ほとんど、にらむといっていい目つきでした。

 むりもありません。

 こんな、いってしまえばオモチャみたいなものを、こっそり学校にもってくるなんて……告げ口されれば叱られますし、クラスメイトにばれればイメージ失墜。ふだん、男子のマンガ本なんか告発している中島さんですから、ここぞとばかり仕返しだってされるでしょう。

 でも、陽太くんは、むしろ親しみを感じました。

 ルール破りをするくらい、中島さんも、この虹にハマっているのでしょうか。やっぱり、日当りのいい、人けのない場所を、さがしたのでしょうか。

(あの委員長がね……)

 思わず、くすっと、笑いました。

 反対に、中島さんは身構えています。頬が神経質にふるえています。

 陽太くんとはちがって、中島さんは、陽太くんが同好の士だなんて、まだ知らないのです。

 このさい、いい機会かもしれません。

 陽太くんは階段をのぼりはじめました。

 歩きながら、ポケットの中をさぐりました。

 空き教室がつかえたら、ためしてみるつもりで、陽太くんも、ひとつだけ、サンキャッチャーをもってきています。

 踊り場にたどりつくと、それをとりだし、日にかざしました。

 虹は、ぱっと、一瞬でひろがりました。

 ゆらゆら揺れて、もとからあった中島さんの虹と、重なりあいました。

 中島さんが、目をみはりました。

 陽太くんは、なにかこういう場合にふさわしい、かっこいいリアクションはないかと考えました。でも、こっぱずかしくて、むりでした。

 えーと、とかなんとかいいながら、困ったような、ひきつった笑みをうかべるのが、やっとでした。


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