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パレアナ・プリズム  作者: 七瀬みる


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2/7

「三村! 早川! まじめにやんなさいよ!」

 五年一組の教室に、今日も中島さんの声がひびきました。

 下校まえの掃除の時間。

 男子ふたりが、手のひらにホウキをのせて、バランス競争をしていたのです。

 ひとしきり、いつもの言い争いがありました。

 よくあきないな、と、前川くんがささやきました。

 ほんとねぇ、と、長谷川さんがうなずきました。

 陽太くんは、何もいわず、中島さんの姿を目で追いました。

 あれ以来、二週間ほどすぎましたが、学校での中島さんの様子は、それまでと何もかわりません。あれはほんとうに中島さんだったのか。ふしぎに思えるくらいでした。

(あいつが、あんなものをねぇ)

 陽太くんがサンキャッチャーを買ったのは、おばあちゃんのことがあったからでした。

 中島さんは、どうなのでしょう?

 やっぱり特別な理由があるのでしょうか。それともたんにあのキレイな虹が好きなだけなのでしょうか。

 考えているうちに、掃除の手がお留守になっていたようです。

「なに見てんのよ」

 じろっと、中島さんににらまれたのは、今度は、陽太くんのほうでした。


 中島さんの小言をくらいながらも、どうにか掃除を終わらせ、おわりの会もやりすごして、陽太くんは教室を出ました。

 まだちょっとムカついていましたが、いちいち気にしているひまはありません。急ぎ足でショッピングモールに向いました。

 四つめのサンキャッチャーを、買うのです。


 二つめを買ったのは、最初に買った、すぐ次の日でした。

「いや、ほら、ちょっと、デザインがさ」

 なんて、自分にイイワケしながら、売り場に直行したのです。

 二つを並べて飾ると、虹の数が倍になりました。

 べつべつにゆらせば、虹のゆれかたもべつべつになりました。

 おもしろがって動かすと、LEDの光のなかで、虹はめまぐるしく踊りました。

 こんなの、おばあちゃんが見たら、どんなにかおどろくでしょう。おやおや。まあまあ。目をまるくするおばあちゃんの顔が、目に浮かぶような気がしました。

 そして、思ったのです。

 二個でこれなら、三個になったら、どうなるだろう?

 でも、十一月のおこづかいは、残りわずかでした。

 買えるのは、いちばん小さい、安いやつだけでした。プリズム効果も小さくて、ちょっと物足りないのでした。

 多面体がもっと大きいやつ――三個目はもちろん、最初の二個よりもっと大きいやつなら、どんな虹をつくるんだろう?

 気になりました。

 だから、一週間、二週間。ずっと待っていたのです。

 月がかわって、十二月のおこづかいを、もらえるのを。

 

 でも、売り場にたどりついたときでした。

 お店の人が、催事コーナーを片付けていました。

 十二月になったので、クリスマス仕様に変えるのだそうです。

「ごめんね」とお店の人がいいました。

 ハロウィンのあと、クリスマスまで中途半端に期間があまったので、おためしで仕入れてみたのが、あのサンキャッチャーだったのだそうです。

 それも、お試しセットなら返品保証付きだというから、店長がその気になっただけのことで、再入荷の予定もなければ、売れ残りも返品してしまうのだというのです。

「せっかくお得意さんが二人もきてくれるようになったのにねえ」

 店員さんは、さみしそうに、わらいました。


 返品まえに、段ボール箱のなかから、最後のひとつを選ばせてもらいました。これまでよりプリズムパーツが大きめのやつです。

 家に帰って、まずはそのひとつだけで照らしてみると、さすが、値段だけのことはありました。まえの三個より、虹があざやかで、粒も大きく、くっきりしているのです。

 陽太くんは満足しました。

 でも、どこか、物足りなさもありました。

 売り場がなくなるときいたことも、関係していたかもしれません。

 冬の夜のLEDがつくりだすクリアな虹は、きれいだけれど、どこか冷え冷えとして、その日にかぎって、やけにさみしい気がしたのです。

 最初に一度、西日のなかで店頭見本でつくった虹は、もっと、あたたかかった気がします。

 おばあちゃんといっしょに虹をながめる空想だって、やっぱり、南向きのあたたかい日だまりに、きまっています。

 夜の虹だって、悪くはないのですが……

 でも、サンキャッチャーというのなら、やっぱり、太陽のひかりをあびてこそ。

 せっかく四つも買ったのです。もっとあたたかい光のなかで見てみたい。明るい日ざしをあびたら、どれほどキラキラするんだろう。おばあちゃんにだって、見せてあげたい。

 そう思うのでした。


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