二
「三村! 早川! まじめにやんなさいよ!」
五年一組の教室に、今日も中島さんの声がひびきました。
下校まえの掃除の時間。
男子ふたりが、手のひらにホウキをのせて、バランス競争をしていたのです。
ひとしきり、いつもの言い争いがありました。
よくあきないな、と、前川くんがささやきました。
ほんとねぇ、と、長谷川さんがうなずきました。
陽太くんは、何もいわず、中島さんの姿を目で追いました。
あれ以来、二週間ほどすぎましたが、学校での中島さんの様子は、それまでと何もかわりません。あれはほんとうに中島さんだったのか。ふしぎに思えるくらいでした。
(あいつが、あんなものをねぇ)
陽太くんがサンキャッチャーを買ったのは、おばあちゃんのことがあったからでした。
中島さんは、どうなのでしょう?
やっぱり特別な理由があるのでしょうか。それともたんにあのキレイな虹が好きなだけなのでしょうか。
考えているうちに、掃除の手がお留守になっていたようです。
「なに見てんのよ」
じろっと、中島さんににらまれたのは、今度は、陽太くんのほうでした。
中島さんの小言をくらいながらも、どうにか掃除を終わらせ、おわりの会もやりすごして、陽太くんは教室を出ました。
まだちょっとムカついていましたが、いちいち気にしているひまはありません。急ぎ足でショッピングモールに向いました。
四つめのサンキャッチャーを、買うのです。
二つめを買ったのは、最初に買った、すぐ次の日でした。
「いや、ほら、ちょっと、デザインがさ」
なんて、自分にイイワケしながら、売り場に直行したのです。
二つを並べて飾ると、虹の数が倍になりました。
べつべつにゆらせば、虹のゆれかたもべつべつになりました。
おもしろがって動かすと、LEDの光のなかで、虹はめまぐるしく踊りました。
こんなの、おばあちゃんが見たら、どんなにかおどろくでしょう。おやおや。まあまあ。目をまるくするおばあちゃんの顔が、目に浮かぶような気がしました。
そして、思ったのです。
二個でこれなら、三個になったら、どうなるだろう?
でも、十一月のおこづかいは、残りわずかでした。
買えるのは、いちばん小さい、安いやつだけでした。プリズム効果も小さくて、ちょっと物足りないのでした。
多面体がもっと大きいやつ――三個目はもちろん、最初の二個よりもっと大きいやつなら、どんな虹をつくるんだろう?
気になりました。
だから、一週間、二週間。ずっと待っていたのです。
月がかわって、十二月のおこづかいを、もらえるのを。
でも、売り場にたどりついたときでした。
お店の人が、催事コーナーを片付けていました。
十二月になったので、クリスマス仕様に変えるのだそうです。
「ごめんね」とお店の人がいいました。
ハロウィンのあと、クリスマスまで中途半端に期間があまったので、おためしで仕入れてみたのが、あのサンキャッチャーだったのだそうです。
それも、お試しセットなら返品保証付きだというから、店長がその気になっただけのことで、再入荷の予定もなければ、売れ残りも返品してしまうのだというのです。
「せっかくお得意さんが二人もきてくれるようになったのにねえ」
店員さんは、さみしそうに、わらいました。
返品まえに、段ボール箱のなかから、最後のひとつを選ばせてもらいました。これまでよりプリズムパーツが大きめのやつです。
家に帰って、まずはそのひとつだけで照らしてみると、さすが、値段だけのことはありました。まえの三個より、虹があざやかで、粒も大きく、くっきりしているのです。
陽太くんは満足しました。
でも、どこか、物足りなさもありました。
売り場がなくなるときいたことも、関係していたかもしれません。
冬の夜のLEDがつくりだすクリアな虹は、きれいだけれど、どこか冷え冷えとして、その日にかぎって、やけにさみしい気がしたのです。
最初に一度、西日のなかで店頭見本でつくった虹は、もっと、あたたかかった気がします。
おばあちゃんといっしょに虹をながめる空想だって、やっぱり、南向きのあたたかい日だまりに、きまっています。
夜の虹だって、悪くはないのですが……
でも、サンキャッチャーというのなら、やっぱり、太陽のひかりをあびてこそ。
せっかく四つも買ったのです。もっとあたたかい光のなかで見てみたい。明るい日ざしをあびたら、どれほどキラキラするんだろう。おばあちゃんにだって、見せてあげたい。
そう思うのでした。




