6 再会の花
その後、聖光教会の教皇や大司教も加わり、客人館の大食堂で軽食をとる形の食事会が催された。
イレーネは見送りの時を待つため待合室で他の聖女や司祭と共に待機していた。
そこには、第二王子が連れてきた随行者の一部もいる。護衛や側近は食事会に出席していたが、連絡官ユリウスは待合室に姿を見せていた。
目が合った瞬間、ユリウスは静かに目を伏せ、丁寧に会釈した。その仕草だけで、イレーネの頬は赤く染まる。
「先日はお世話になりました、大聖女様」
「いえ、こちらこそ」
長い足でゆったりと歩み寄る姿に、エリナが思わず「ほうっ」と声を漏らす。
「妹たちにはお菓子を買って帰りましたが、大喜びでしたよ。やはり花より団子でした」
「まあ……。私は、あの花を今も部屋に飾っています。とても素敵な花です」
「えっ、飾ってくださっているんですか? ……それなら、もっとちゃんとした花を贈ればよかったな」
「いえ、あの花が気に入ってしまったのです。ありがとうございました」
イレーネの微笑みに、ユリウスはハッとしたように目を逸らし、照れ隠しに頭を掻いた。
そこへソフィアがそっとイレーネの肘をつつく。
「イレーネ様、ご紹介を」
「はい。こちらはユリウス・ヴァルター様。殿下の連絡官を務めておられます。ユリウス様、こちらは聖女ソフィア。そして世話係のエリナ」
「はじめまして」
さらにイレーネは司祭を指し示す。
「あちらがベネディクト司祭です」
思いがけず紹介され、ベネディクトは慌てて立ち上がり、右手を胸に当てて礼を取る。
「ユリウス・ヴァルターと申します。これから一年、皇国に滞在します。どうぞよろしくお願いいたします」
そのとき、耳元で小さな銀がきらりと光った。イレーネは思わず視線を奪われ、胸の奥がどきりと高鳴る。片耳のピアス――それは装飾というより、妙に大人びた雰囲気をまとわせていた。
ベネディクトが気づき、声を上げる。
「その耳飾り……魔術通信の受信符、ですか?」
「えぇ」ユリウスは軽く頷いた。
「幸い、僕は魔力を持って生まれました。そのおかげで殿下の連絡官として、こうして務めを果たせているのです」
「連絡官とは、どのようなお役目なのですか?」
ベネディクトの問いに、ユリウスは柔らかく笑う。
「殿下への連絡は暗号化された魔通信で届きます。僕はそれを受け取り、解読してお渡しする。あるいは殿下の言葉を暗号化して国へ送る。……いわば中継点ですね」
「大学校へも同行されるのですか?」
「いいえ。大学校へ入られるのは殿下と側近、護衛官だけです。私はその間は待機ですよ」
ベネディクトの瞳がきらりと光る。
「それなら、ぜひ教会にいらしてください。我々はユリウス様なら歓迎いたします」
「それはありがたい。ちょうど一年の過ごし方を考えていたところです」
小声で「グッジョブ!」と囁き合い、拳を握るソフィアとエリナ。その様子にイレーネは首を傾げつつ、微笑ましく二人を見守った。




