4 密やかな作戦会議
「これより会議をはじめます!」
エリナが小さなテーブルに手をつき、妙に重々しく宣言した。
奉仕活動の合間の休憩時間、狭い部屋には聖女ソフィア、司祭ベネディクト、そして数人の見習い聖女や若い助祭が押し込められている。
「なんの集まりなんですの?」
ソフィアが隣のベネディクトに問いかけるが、彼はただ首を振った。
――次期大司祭と目され、人望も厚い彼がここにいるのも、エリナが強引に引っ張り込んだからに他ならない。
「私のイレーネ様に……好きな人ができたようなのです!」
その言葉に部屋は騒然となり、ソフィアとベネディクトの顔は同時に青ざめる。
「エリナ、分かっているのか?」ベネディクトが低く言う。
「聖光教会では姦通は御法度だ。過去に戒律を破った聖職者は、鞭打ちで済めば幸運なほど苛烈な罰を受けている」
「か……かん……?」
真っ赤になって固まるエリナに、ソフィアが慌ててベネディクトに小声でささやく。
「そういう話はエリナにはまだ早いですわ」
「え!? あ、ご、ごめん」
しゅんと肩を落としたエリナは、それでも小さな声で言った。
「恋愛が御法度なのは分かっています。イレーネ様ご自身も、お気持ちに気づいたり向き合ったりはなさらないでしょう。でも……少しでもお心が癒されたらと、思ったのです」
ベネディクトは腕を組み、深いため息をついた。短く整えられた金の髪が、薄暗い部屋の中でも微かに光を放っている。
「……最近、大司祭様にやけに食い下がって聞いていた青年のことか。ユリウス様、だったな」
「そうです!」エリナは勢いよく頷く。
「徹底した調査の結果、なんとユリウス様は第二王子殿下の留学に同行なさるとのこと。つまり、一年は皇国に滞在されるのです!」
「徹底した調査って……大司祭様に付き纏っていただけだろう」
ソフィアが呆れたようにため息をつく。
「それに、第二王子殿下は王立大学校に留学なさるのよね? 教会にいらっしゃるのは視察のときくらいでは?」
「かもしれません! でも!」エリナは拳を握りしめた。
「それをなんとかするのがソフィア様とベネディクト様です!」
「えぇ!?」
「まぁ!」
二人は一層青ざめる。
「俺たちにどんな権限があると思ってるんだ!」
「そうですわ! わたくしたちも教会の外にはそうそう出られませんのに!」
「イレーネ様に、笑っていただきたくはないのですか……?」
うるんだ瞳で訴えるエリナに、二人は言葉を詰まらせる。
「……うっ」
「涙は反則ですわ、エリナ」
そのとき廊下の鐘が鳴り、時間を告げた。
「休憩時間、終了です! 解散!」
エリナが宣言し、即席の“作戦会議”はあっけなく幕を閉じた。




