表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

31 曖昧な一文

教会、図書室特別区域。


 来る日も来る日も、聖職者たちは古経典と向き合っていた。


「うぅー……目が痛くなってきた!」

 ベネディクトが声を上げると、周囲にくすくすと笑いが広がる。

「イレーネ様のためですわ。頑張りましょう」

 ソフィアが柔らかく励ますが、その顔にも隠しきれない疲労が滲んでいた。


 司祭たちは石板の古い文字を紙に書き起こし、さらにそれを現代語へと訳す。時間のかかる作業に加え、まだ幼い助祭や見習いたちは机に突っ伏して眠ってしまう。日頃なら厳しい叱責が飛ぶが、この時ばかりは誰も咎めなかった。


「同じような記述が延々と続いたり、初代大聖女様の偉業ばかりだったり……。普段なら面白く読めるかもしれないけど、今回はしんどいな」

 ベネディクトが愚痴をこぼすと、皆も苦笑しながら頷く。


「そもそも“イレーネ様を救うヒント”なんて、どこを探せばいいのか曖昧すぎる。目星もつけられない」

 こめかみを揉みながら、ベネディクトが呻いた。


「ソフィア様、ここを見てください!」

 エリナが小さな声を上げ、訳文の一枚を差し出す。ソフィアが受け取り、指差された一文を読み上げた。


「――“相応しくないものは聖女にあらず”」


 一瞬、場に沈黙が落ちる。

 ベネディクトが眉を顰めた。

「……聖女を選ぶ時の言葉じゃないのか?」

「前後を読むと、そこまで限定していないようですわ。ただ……何が“相応しくない”のか、どういう状況を指すのか。古語らしい遠回しな表現が続いていて、明確ではありませんわね」

 ソフィアの言葉に、あちこちから深いため息が漏れた。


「ダメですか……」

 エリナがしゅんと肩を落とす。


「まだ決めつけるには早いわ。もう少し丁寧に読み込みましょう。……日が沈む前に、できるだけ進めて」

 ソフィアが声を掛け、皆は再び目の前の古経典に向き直る。


 ベネディクトは窓の外を見上げた。赤く燃える夕陽が目を刺し、思わず瞼を強く閉じる。長く息を吐きながら――胸の奥に、わずかな不安と期待を同時に抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ