3 白き花の邂逅
翌日、隣国セレスタ王国の使者一行が聖光教会アルテンベルク教区会に到着した。
使者は三名。皆、物腰は柔らかで、威張ることもなく、案内された作業所では助祭や聖女見習いにまで気さくに声をかけていた。その振る舞いは、宗教と軍事を柱とするアルブレヒト皇国の人々には珍しい、セレスタ王国ならではのおおらかな優雅さを湛えていた。
客人館の応接間に入ると、護衛の配置についての話が始まった。大司祭マルケルスが護衛官たちと議論を交わし、イレーネは扉の傍らに控え、静かに見守っていた。
ふと、隣に控えていた使者の一人と視線が合う。
「あ、僕のことですか?」
思わず見つめてしまったと気づき、イレーネは慌てて俯き、小さく「ごめんなさい」と謝った。
「いえいえ。僕はただの連絡官ですから。護衛の話がまとまるまでは待機しか役目がなくて。ですから、ここでご一緒に待たせていただこうと思っただけです」
にこりと笑った青年に、イレーネは息を呑んだ。背は高く、黒い髪を背でひとつに結び、切れ長の黒い瞳はどこか大人びている。それでいて立ち居振る舞いは洗練され、着ているのは質素な紺のジャケットにもかかわらず、ただそこに立つだけで絵になる。先ほど「ユリウス・ヴァルター」と名乗った青年であった。
ふと、彼のジャケットの胸ポケットに白い色が覗いているのに気づく。
「……お花ですか?」
ユリウスは自分の胸元を見下ろし、「あぁ」と柔らかく微笑んで、小さな白い花を摘み取った。
「道すがら見つけて、つい手に取ってしまいました。セレスタには見かけない花ですが、可憐で素敵でしょう? 宿に戻ったら栞にして、妹に渡そうと思っていたんです」
「まあ……お優しいのね」
黒い瞳にまっすぐ見つめられ、イレーネは頬が熱を帯びるのを感じた。
ユリウスは少し照れたように顎をかき、その花を差し出す。
「大聖女様に差し上げるなんて失礼かもしれませんが……この儚げで可憐な白い花は、貴女にとても似合うと思ったのです。もし不要なら、後で捨ててください」
イレーネは両手で花を受け取った。わずかに指先が触れただけで、鼓動が速くなる。
「……よろしいのですか?」
「もちろん。妹たちは花より、皇国のお菓子の方が喜びますから」
「ふふ……」
掌に残る小さな花の温もり。胸に広がるその優しさに、イレーネは自然と微笑んだ。




