26 賢人たちの沈黙
五賢人会議の間。
高窓から射し込む冷たい光が、長机に並ぶ銀の燭台を淡く照らしていた。
重々しい沈黙を破ったのは、宰相の声だった。
「……セレスタ王国からの抗議が我々のもとに届いております。第二王子殿下の使者に対し手をあげたとの件。これは軽んじるべきものではございません」
皇王レオポルドの顔がたちまち険しくなる。
「下らぬ! 他国の使者ごときが何だというのだ。皇国の威光を知らしめただけだろう」
重苦しい空気の中、教皇グレゴリウスが静かに言葉を落とした。
「陛下。国の顔である大聖女に無体を働くとは……それはすなわち、この皇国そのものを貶めることに他なりませんぞ」
その一言に、他の三賢人の視線が揺れる。
「……確かに、猊下のお言葉はもっともですな」
普段は皇王の代弁者である宰相が、珍しく頷きを見せた。
「軍もまた、皇国の威信あってこそです。兵たちの士気にも関わりましょう」
軍務卿が重々しく続ける。
「民も市も、不安を募らせれば経済に響きますぞ」
財務卿は眼鏡を押し上げながら冷静に言い添える。
三人の言葉は、いつになく皇王を支えるものではなかった。互いに視線を交わし、グレゴリウスの方へと静かに傾いていく。
「……貴様ら、私を裏切るのか!」
レオポルドが声を荒げ、椅子を蹴立てるようにして立ち上がった。
「勝手にしていろ!」
足音高く、王は会議の間を去っていった。
残された四人。しばし、言葉を失ったように沈黙が満ちる。
「……もはや、これ以上は見過ごせませんな」
宰相が低く呟き、軍務卿と財務卿も静かに頷く。
その様子を確かめるように、グレゴリウスは一人ひとりに視線を巡らせた。
「時は……満ちつつある」
三人の賢人は互いに目を交わす。
「聖光の下に正しく導くのは、盲目的な皇王ではない。ここに座す我らだ」
教皇が机を軽く叩き、言葉を結んだ。
他の三人の目に、否を唱える光はなかった。




