25 覚悟はありますか
教会、大司祭室。
ベネディクトたちは深呼吸を合わせ、重い扉を叩いた。すぐに「どうぞ」と返事がある。三人は互いに頷き合い、扉を開けた。
昼の日差しが差し込み、執務机に座る大司祭の姿を照らしていた。その両脇には、無言で控える教会護衛官。彼らは聖職者を守ると同時に、監視し、戒める役目を持つ教皇直属の組織だ。
「大司祭様……どうかお話を聞いていただけませんか!」
息を切らしたように告げる三人に、大司祭は驚き、護衛官へ視線を送る。
「少し……外していただくことはできませんか」
いつもなら即座に「否」と返るはずだった。だが護衛官たちはしばし見交わし、無言で頷く。
「我らは扉の外に控えております」
扉が閉じる音を確認し、大司祭は三人に向き直った。
「……話とは?」
ベネディクトが大きく息を吸い込み、迷いなく口を開いた。
「大聖女イレーネ様を――還俗させることはできないでしょうか」
「……還俗だと?」
低い声が室内を震わせる。
「度重なる皇王陛下の酷い御所業。もう見ていられません! どうか、彼女を檻から解き放ってください!」
ソフィアが続ける。
「彼女はただ瞳の色ゆえに、本人の意思もなく大聖女に選ばれたのです。どうか……お救いくださいませ!」
エリナも涙を堪えながら叫ぶ。
「大司祭様、どうかお願いします!」
大司祭は目を固く閉じた。
どれほど庇っても与えられる苛烈な罰。若き聖職者を閉じ込める堅牢な檻。彼自身、幾度となくその理不尽に苦悩してきた。
「……還俗か。それしか道はないかもしれません」
吐き出すように呟いた声は重かった。
「しかし、容易ではありません。大聖女を還俗させるためにはそれ相応の口実が必要です。……その過程で、彼女の心を深く傷つけることになるかもしれません」
視線を上げ、三人に問う。
「それでも……あなた方に、その覚悟はありますか?」
三人は息を呑み、互いに目を見合わせた。
やがてベネディクトが毅然と頷く。
「はい。覚悟しております」
「私も……覚悟いたします」ソフィアも声を震わせる。
「わ、私も……イレーネ様のために!」エリナも涙を拭いながら言った。
大司祭は苦しげに、それでも優しい微笑を浮かべた。
◇◇◇
その扉のすぐ外。
「……教皇猊下のお言葉どおり、芽吹いたな」
「すぐ猊下に知らせを」
「そうしてくれ」
護衛官の一人が静かに廊下を駆け去っていった。




