25 救いとは
奉仕活動の休憩時間、狭い掃除用品倉庫でベネディクトとソフィアとエリナは膝を突き合わせていた。
「もうあの皇王、許せないですぅ!」
エリナが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「本当に。人でなしにも程がありますわ!」
ソフィアも強く頷く。
ベネディクトはしばし沈黙した。顎に手を添えたまま視線を落とし、やがて苦い顔で拳を握りしめる。
深く息を吸い込み、二人を見据えた。
「……イレーネ様を、このまま教会に縛り付けておくべきじゃない。命も尊厳も、ここにいる限り守りきれない」
言葉を絞り出すように一拍置き――。
「還俗。それしか道はないんじゃないか」
「還俗ですって……?」
ソフィアとエリナが同時に息を呑む。
ベネディクトは震えそうになる手を組み合わせ、かろうじて抑えながら続けた。
「ユリウス様が言っていた。セレスタでは魔力を持つ者は血を残すことが求められるそうだ。……なのに、なぜ俺たち聖力を持つ者はそれを許されないんだ?」
「でも、それは戒律で定められていて――」
ソフィアの声はか細く震える。
ベネディクトはソフィアの目を見ながら、大きく頷いた。
「そうだ、戒律だからと、疑いもしなかった。だが俺たちは信者の方々に“人としての自覚と誇りを持って歩みなさい”と説いてきた。その方々が信じてついてきてくださるのに、俺たち自身はどうだ? 自分で考えることをやめ、自分が何を望むかすら考えずに生きてきた。これでは人ではなく、ただの家畜じゃないか」
「自分の望み……」
エリナがはっと顔を上げた。
「……イレーネ様は、以前おっしゃっていました。『普通の女の子になりたい』って……」
小さな声だったが、確かに二人の胸に突き刺さった。
「イレーネ様が……」
ソフィアが唇を震わせる。
ベネディクトは目を閉じ、苦悩を押し殺すように声を絞る。
「還俗は恐ろしく重い言葉だ。だが、あの皇王に尊厳を踏みにじられるくらいなら……解放して差し上げたい」
長い沈黙。
やがて、エリナが涙を浮かべて声を震わせる。
「私も……イレーネ様を解放して差し上げたいです!」
「わ、私も……覚悟をいたしますわ」
ソフィアも静かに頷いた。
三人は視線を交わし、膝の上で拳を固めた。




