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14 優しき手のぬくもり

「水差しはありますか?」

「はい! こちらに」


 エリナが差し出すと、ユリウスはイレーネの頭を支えるようにして持ち上げ、口元に水を添えた。喉がこくりと動くのを確かめ、そっと寝かせ直し、布巾で口元を拭う。額にかかった髪を指先で払う仕草は、驚くほど丁寧だった。


 ユリウスは再びイレーネの手を握り、もう一方の手で布団の上からそっとトントンと叩いた。

「イレーネ様……大丈夫ですよ。きっと良くなりますからね」

 囁くように優しい声が、部屋の静けさに溶けていく。

 トントン、トントン……。


「大変でしたね。僕も、エリナさんもここにいます。……そばにいますからね」


 その様子をエリナは黙って見ていた。

 彼女は父も母も知らない。物心ついた時には教会の前に置き去りにされていた。

 もしかしたら、もっと幼い頃に誰かがこうして看病してくれたのかもしれない。

 懐かしさに似た、けれどもう二度と手に入らない温もりを思い出すようで――エリナの目からは、ぽたぽたと涙が落ちていた。

 ユリウスに気づかれぬよう、声を殺して静かに泣いた。


「大丈夫ですよ。頑張り屋さんのイレーネ様のこと、みんな大切に思っています。……きっとすぐ、元気になります」

 トントン、トントン。


 額の布を濡らし直してのせ、ユリウスは絶えず優しい声で「大丈夫」と語りかけ続けた。


 やがてイレーネの表情は和らぎ、寝息も穏やかになる。

 ユリウスが額にそっと手を触れた。

「……熱、少し下がったかもしれませんね」


 ハッと顔を上げたエリナは、窓の外が闇に包まれていることに気づく。

「もうこんな時間! ユリウス様、本当にありがとうございました!」

「夜に大聖女様のお部屋にいるのは、さすがにまずいでしょう。……申し訳ないですが、僕はこれで」

「いえ! ここまでしていただいて……なんとお礼を申し上げれば」

「エリナさんも、無理をしないように」


 大きく温かな手が、そっと彼女の頭を撫でる。エリナはまた泣き出しそうになった。

「教会の門までお送りします」

「大丈夫です。どうかイレーネ様のそばにいてあげてください。……では、また」


 静かな足取りで去っていくユリウスの背中に、エリナは深々と頭を下げ続けた。

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