1 大聖女の烙印
41話で完結予定です
「この無能が!」
乾いた打撃音が、天幕の張られたアルブレヒト皇国聖騎士団の拠点に響いた。
打たれた大聖女イレーネは疲労困憊の身を地面に投げ出される。
「陛下! おやめください!」
「イレーネ様!」
大司祭や司祭、見習い聖女たちが一斉に駆け寄るが、若きレオポルド・アルブレヒト皇王は足を振り上げ、庇った大司祭ごとイレーネを強く蹴り飛ばした。
「なんだあの軟弱なバリアは! あんなものが、我が皇国の誇る大聖女の聖力だと? 笑わせる!」
「申し訳……ございません……」
よろよろと起き上がったイレーネは、深く頭を垂れる。麦色の髪が肩から零れ落ちた。
その時、鎧を鳴らして聖騎士団副団長が入ってきて、レオポルドに耳打ちする。皇王は舌打ちをし、振り向きざまにイレーネの髪を乱暴に掴むと、地面へ投げ捨てた。再び倒れ伏すイレーネを一瞥し、皇王は踵を返して天幕を出ていく。
その背を追う前に、副団長はわずかに立ち止まり、申し訳なさげに頭を下げてから去った。
皇王がいなくなるや否や、あちこちから声があがる。
「イレーネ、大丈夫か?」大司祭が彼女を支え、
「こんなの、ひどすぎます!」と見習い聖女エリスが泣き出す。
「エリス、泣いてはなりません」ソフィアが叱りつつ、頬の腫れを見て眉をひそめた。
「誰か、冷やすものを持ってきて」
「こちらに!」
司祭や聖女たちが次々とイレーネを囲む。
今回の合同軍事演習は、他国との魔獣討伐を想定したものだった。レオポルドは皇国の威光を示すため、イレーネに大規模な聖女の結界を展開させようとした。しかし、彼の望んだ規模と強度には到底及ばなかった。
他国の目から見れば、それでも十分な成果だったのだが、皇王の誇りは傷つけられたのである。
だが現実は、初代大聖女の時代を除けば、皇王が望むような大結界を展開できた者などいなかった。国として聖力は衰退し、現代の聖女たちの力はどんぐりの背比べ。イレーネもまた例外ではなかった。
彼女が大聖女に任じられた理由はただ一つ――初代と同じ「金の瞳」を持っていたから。それ以上でも以下でもない。
泣きじゃくるエリスの頭を撫でながら、イレーネはかすかに微笑んだ。
「仕方のないことなのです。……私は“大聖女”なのですから」




