「あなたの幸福を願います」
「これから俺が1つ言う。その前に何か言いたいことある?」
通話口から聞こえる、肉声に構成された電子音。
とてつもない熱が籠もっていると思った。
そして、冷ややかさを感じた。
まるで死刑宣告をされる直前のような。
直感として感じた。
この人とはもう二度と会えない。
「2つあるかな」
「ほう」
「1つ目は……君へ、ありがとう。2つ目は、私は彼を失いたく無い」
「なんで、ありがとうって言った?」
「最悪な想定をした。君が今から何か一言を言って電話を切り、もう二度と連絡が取れなくなるんじゃないかって。その可能性があったから一番伝えたい言葉を伝えた」
私は君のことを知っている。
「そうか。察しがいいな」
「流石にね」
「俺は自分の存在を賭けてお前が絶望できるのならそれで良いと思っている」
「今の私だったら多分絶望しないよ」
「そうだろうな。今のお前には何をしても刺さらないんだろう。俺の力不足だ」
通話口からため息が聞こえる。
相手の言葉が続く。
「だが、長期的に絶望させることはできるかもしれない。君の人生において俺と同じ役割ができる人は恐らくもう二度と現れない」
呪いを吐かれた。
強く抗う気持ちは沸かなかった。
私は、この人と過去にもう別れを済ませていて、私にとって今はロスタイムだった。
その時に言いたいことも聞きたいことも全て解消したからエネルギーもなかった。
「嫌だなぁ」
「嫌だねぇ。俺だって言わされているんだよ」
「そっか」
一理はあった。
責任を転嫁するなとも思った。
「じゃあな」
「お世話になりました。楽しかった」
そして。