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お古の装備品

ここは村の巨木の上に建つ、風変わりな宿「銀竜亭」。

昼は静かでも、夜になると冒険者たちが集い、ジョッキを鳴らし、どうでもいい話に花を咲かせる。

この夜も、酒場の片隅には3人の若者の姿があった——


登場人物

・ライナス(人間♂)

 罠や鍵開けを生業とする若者。今日も今日とて罠解除。


・サーレー(ホークマン♂)

 陽気な吟遊詩人。今日も空を飛びながら音を奏でる。


・ダントン(ドワーフ♂)

 無口ではないが物静か。二人の兄的存在。年齢も近め。

「おい、それ……なんだそのゴツい腕輪」


 ライナスが眉をひそめたのは、サーレーの右手首に巻かれた金属製の腕輪を見たときだった。

 打ち出しの鈍い銀光り、ふつう吟遊詩人が身につけるような代物ではない。


「ああ、これ? 筋力が上がる腕輪ってやつ」


「……吟遊詩人の君がなんでそんなもん着けてんの?」


「今日のパーティにバーバリアンの人がいたんだけど、その人が途中でめちゃくちゃ良い装備を手に入れてさ。“これもういらねーからやるよ”って」


「あー、パーティ組んでる時によくあるやつな」


 ライナスが苦笑まじりに頷いた。


「上位装備拾った前衛が、お古の装備を後衛に回す。で、空気が悪くなるから断れないし、売ることもできないしな」


 ダントンがぼそっと付け加える。


「で、それずっと着けてるの?」


「うん、外すの忘れてて……ってのもあるけど」


 サーレーは腕輪をくるりと回しながら言う。


「筋力上がると、運べる荷物の量が増えるじゃん? あれ、地味にありがたくてさ。

 ……まあその分、パーティーの荷物を運ぶ役になるけど」


 ジョッキを片手にサーレーが肩をすくめると、ライナスが吹き出した。


「あるあるだな……戦闘で何か得るたびに、後衛に道具とか装備が回ってくる」


「そうそう。他にはさ、《信仰心が増すアクセサリー》とかもあったよ」


「え、お前がそれ着けたらどうなんの? 神に祈る歌とか歌いたくなるの?」


「……悔しいけど、そうなんだよ」


 ジョッキを両手に持ち替えると、サーレーがぼそっとつぶやく。


「“ああ、この歌、神様に届け〜”って気持ちで歌うやつだ……って、自然と出ちゃう。なんか、こう……精神が影響される感じでさ」


「こえぇよ……魔法具って」


「でもな、そういうの着けてる時に限って、味方とか客の反応よかったりするんだよ。

 “今日の詠唱、胸に響きました”とか、“神殿で聴いてるみたいでした”とかさ……」


 サーレーが腕輪をぽん、と叩きながら笑う。


「ちなみに、格闘系のダントンが《信仰心が上がる装備》つけたらどうなんの?」


 しばらく沈黙のあと、ダントンがジョッキの底を見つめたまま、ぽつりと呟いた。


「……できるだけ、敵が苦しまずに天に召されますようにって……いつもより拳に力が入る」


 それを聞いた二人は、同時につっこんだ。


「怖いよダントン!!」

「“やさしさ”で拳が強くなるってどういう特性だよ!!」


 ライナスが爆笑し、サーレーはテーブルを叩いて笑い転げる。


 だがダントンはまったく悪びれた様子もなく、天を見上げながら静かに言った。

 その瞳はうっすらと涙で湿っているようにも見えた。


「命ってのは……いつか終わるものだ。だからこそ、なるべく静かに送り出してやりたい」


 その一言に、笑いを止めたライナスが目を細めて、そっと訊く。




「……いま、信仰心が上がる装備、着けてる?」

ジョッキに浮かんだ氷が一つ、カランと鳴る。

こうして今日も、銀竜亭の夜はふけていく。

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