第1話 罠で健康に?
ここは、とある村の巨木の上に建つ風変わりな宿「銀竜亭」。
昼は静かでも、夜になると冒険者たちが集い、グラスを鳴らし、どうでもいい話に花を咲かせる。
この夜も、酒場の片隅には3人の若者の姿があった——
登場人物
・ライナス(人間♂)
罠や鍵開けを生業とする若者。今日も今日とて罠解除。
・サーレー(ホークマン♂)
陽気な吟遊詩人。今日も空を飛びながら音を奏でる。
・ダントン(ドワーフ♂)
無口ではないが物静か。二人の兄的存在。年齢も近め。
「ちょっと腰のあたり見てくれる?」
背中をひねりながら、ライナスがサーレーとダントンに声をかけた。
「怪我でもしたのか?」とダントン。
「罠解除を失敗しちゃってさ。火球魔法の罠だったんだけど、なんか……弱かったんだよね」
「弱かった……? 火球の威力に弱いとかあるのか」
サーレーが笑う。
「なんか温い感じ? 腰に喰らっちゃったんだけどさ、じんわりと暖かくて。服は焦げたけど、気のせいか腰が楽なんだ」
「火球で……温熱治療?」
サーレーがさらに笑いながら目を細めた。
「そうそう! 熱で筋肉がほぐれた感じ。ほら、薪ストーブの前でうたた寝した時のアレに似てる」
「例えが微妙だな……」
「でさ、思ったんだよ。火球でこれなら、飛び出す針の罠を針治療に使えるかもって」
「……お前、罠で健康法を確立しようとしてる?」
「《古代遺跡式ツボ刺激法》ってどうかな! “1日1罠で体スッキリ!”みたいな」
「響きは悪くないのが腹立つな」
サーレーが吹き出した。
「それどころか……壁が迫ってくるやつ、あれ全身圧迫で血行促進! とか」
「……圧迫の強度を加減できれば、まあ気持ち良いのか……?」
「ダンジョンで健康になろう! 題して“冒険療法”!」
ライナスがマグを掲げて笑うと、サーレーも調子を合わせる。
「参加者全員、生き残れば健康!」
黙って聞いていたダントンが、ポツリと言った。
「……それ、罠である必要あるか?」
マグに浮かんだ氷が一つ、カランと鳴る。
こうして今日も、銀竜亭の夜はふけていく。