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人工知能は作家を殺すか?

作者: 東堂柳

 その人工知能が初めてこの世に公表されたとき、驚く者など誰もいなかった。

 開発初期の人工知能が出力した文章など目を覆うほどの酷さで、というより文章といえる代物ですらなく、俺たち作家は面白がりこそすれ、不安を感じることなど微塵もなかったのだ。


「なあ、人工知能が書いた文章っての、見たことあるか?」


 俺はPCの画面を指さして、苦笑しながら作家仲間に尋ねた。そこには意味不明な単語の羅列があった。


「こんな様子じゃあ、こいつが俺たちにとって代わるなんてのはまだまだ先の話になるだろうな」


 作家仲間も画面を見て同じく苦笑する。


「まったくだな。そもそも人間の読める文章を書けるようになるまで、一体どれだけかかるんだか」


 しかしながら、技術が進歩するにしたがって、奴らの能力は飛躍的に向上した。半年もすると、人工知能はまるで人間が認めたかのような文章とストーリーを生み出したのだ。そしてそれが、俺たちの全てを変えてしまった。


 三年の月日が経つ頃には、俺は自分の目を疑うことしかできなくなっていた。かつて入り浸っていた書店の棚にはもう、人間の書いた書物など一冊も存在していなかったのだ。気付けば、その昔嘲笑していた存在に作家としての仕事を奪われていたというわけだ。

 俺はその書店の中から一冊のベストセラーと謳われている本を手に取った。一体どうしてこんなことになったのか。これを読めばわかるかもしれない。そう思ったからだ。

 だがその場でページを進めていくうち、溜まっていくのはフラストレーションばかりだった。

 なんだこの捻りのないプロットは。なんだこの薄っぺらいキャラクターは。その上この、深みも複雑さも存在しない淡白な文章。


 とても参考にはならないと憤慨しながら店を出ると、近くの若者たちが、人工知能の出す次の小説を今か今かと楽しみにしていることを話し合っていた。

 耐えられなかった。これが現実だということが。今の多くの読者は人工知能が濫造したこんな程度の物語で満足しているということが。

 だが俺は、俺には人工知能が書いた紛い物よりももっと素晴らしいアイディアがある。


 それから数年の間、俺は自分の人生全てを次の小説に注いだ。何年も温めておいたとっておきのストーリーだ。何度も徹夜しては狂ったように書き続けた。真っ白なページと睨みあいをしながら、これまで鬱積してきた自分の言葉をそこに吐き出す。それが黒く染まるたびに、俺は充足感を得た。

 途中、何度も諦めそうになった。作家仲間がまた一人また一人と筆を折っていき、社会の歯車として生活していくことを決める姿を見るたびに、自分もそうすればどれだけ楽かと思った。だが、俺の中で燃え続けている物語への情熱が、それを引き留めた。俺を先に進ませていたのは、もはやそれだけだったのだ。

 小説に支配された俺は、いつでもどこでもそのことを考えていた。完璧な言い回しに理想的な文章。その中で生きるキャラクター。彼らの喜び、痛み、苦労。それらすべてがあたかも自分のもののように感じられた。

 そして、ついにその時がきた。

 最後の言葉を原稿に書き終えたとき、自分の内側に合ったすべてを出し切った俺は、これまでの人生で感じたことのない達成感に浸った。これは傑作だ。自身の最高傑作とか、そういうちゃちなレベルじゃない。歴史で語られる一作となるべき存在なのだ。

 意気揚々、俺はその傑作を出版社に送り込んだ。俺の文壇デビュー作を扱ってくれた出版社だ。面白いものを見分ける目のあるここなら信頼できる。


 それから数日が経って、俺はその出版社に呼び出された。現れたのは連絡してきた若い編集者だった。

 俺はいてもたってもいられず尋ねた。


「それで、どうでしたか。あの小説は?」

「いやぁ、驚きました。あれほどのものをいただけるとは」

 

 やはりだ。ここならわかってくれる。俺の心臓の鼓動は彼の発する言葉をひとつ聞くたびに早くなった。


「それで、一体どこの人工知能があれを書いたんですか?」


 俺は愕然とした。自分が心血を注いだ一作であることを説明しながらも、心臓が冷たい手に掴まれるような感覚に陥った。

 そしてやはり、その悪い予感の通り、編集者は溜息を吐いて首を振った。


「申し訳ないんですが、今現在、人手で書かれた小説というのは、受け付けていないんですよ。というのもね、昨今の書籍はとにかく売れないでしょう。薄利多売になりつつあるのが現状なんです。そんな状況では、とても人間の方の満足できる印税なんてお支払いできないんです」


 眩暈と嘔気がして、その言葉の半分くらいは俺の耳を通り抜けていた。


「それにね、人間の書いた小説には、なんていうか、その人の思想みたいなのが反映されているわけじゃないですか。最近は何かと差別的表現には厳しいんです。人間が書いたとなれば徹底的に粗を探されて、重箱の隅をつつくような糾弾を受けるわけです。その辺、人間の作家さんは頑固でしてね。こちらが注意してもなかなか変えてくれない。ところが人工知能はその辺が非常に柔軟で、アップデートでいくらでも修正が効くし、読者の方も人工知能が書いたのだからと、多少は甘い目で見てくれるわけです」


 小説に自分の思想を反映させることを否定されたら、俺は何を書いたら良いのだ。俺は自問自答した。編集者の言葉の一部がぐるぐると頭の中を駆け巡る。そこから先も編集は何か喋っていたようだが、もう何もわからなかった。

 プライドが跡形もなくなるほど打ちのめされた。俺のあの苦労はいったい何だったのだ。文芸の世界は変わってしまった。取り返しのつかないほどに。そこに人間の創造性や独創性などもはや存在しないのだ。

 気が付けば俺は家にいて、天井からぶら下がったロープの輪に首を通していた。


 *


 その頃、若い編集者と編集長は、出版社の一室で今しがた肩を落として帰路に就いた作家の話をしていた。


「おい、あいつ帰ったか?」

「ええ。編集長の言う通りにしたら、あっさりと引き下がりましたよ」


 編集長は安堵したように煙草に火をつける。


「そうか……」

「でもいいんですか、あんな嘘八百言っちゃって」


 編集長が手のひらを振ると、吐き出した煙が霧消する。


「構わん構わん。どうせ今時まだ作家になろうなんて奇特な人間、あいつくらいしかいないし、毎度毎度しつこい持ち込みでうんざりしてたんだから」

「でもいいんですか? 人間の小説は受け付けてないなんて言いきっちゃって。こちらのポリシーとしては、面白いものは誰が書こうが出版するはずでしょう?」

「面白ければな。で、面白かったのか、それ?」


 編集長は若い編集者のPCを指さす。


「いやいや、とんでもない。今回のこの小説も酷い出来ですよ。こんな自己満足の塊じゃあ、ベストセラーどころか書店の倉庫に置いてもらうこともできないでしょう」

「またか……。まったく、あのレベルの小説を面白いと思っているようでは、やはり小説家の才能なんてとうの昔に枯れ果ててしまったんだろうな。人工知能が片手間に書いた小説のほうがよほど面白いよ」

「ほんとう、時間の無駄でしたね」


 若い編集者は吐き捨てるようにそう言って、受け取った原稿をPCから削除する。ワンクリックでその文字列はすべてハードディスクから消滅した。

この小説はChatGPTを利用して執筆しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ChatGPTでもこんな風な作品ができるのか、凄いなと思いました。 おそらく、いろいろな細かい指示をされたのだろうなとは思いますが。 [一言] 普通に、人間が書いた作品だと思って読んでいま…
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