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人の業

 「お主……あの時の黒衣の……いや、それにしては妙。まるで気配が薄い。」


 それはかつてアークベインの一撃を止めた黒衣の者。エムナと名乗り幽斎と激戦を繰り広げていた筈の異郷者であった。


 「今の俺はただの残り香だ。その武器で斬るにすら値しない、最後の欠片。聞け宗十郎、全てはこの壁画から始まった。五代表とは、そして俺たちが倒すべき敵とは。」


 エムナは宗十郎の意思を無視して語りだした。この世界の成り立ちを。そしてこの世界の危機を。頼れるのは宗十郎しかいないと。ノイマンもこのことは知っているが、彼だけでは限界があるということを。そして……。


 「師匠が敵だと……!?」

 「悪いが細かい話をする余裕はない。連中はこの瞬間を狙っていた。状況は急変するだろう。急げ、急いで奴らのもとへ駆けろ。手遅れになる前に、お前に全てを託したぞ。」


 エムナは光となって宗十郎の腕に吸い込まれる。言いたい放題言ってエムナは消滅したのだった。


 ───師匠が敵。


 それはまぁ置いておいて、五代表の真実と目的を知らされた時、胸騒ぎがした。急ぎ跳躍してこの地下空間から脱出!カーチェの元へと駆け出したのだ!今、彼女は最悪の相手に一人向かっていることになっているのだから!!



 広々とした空間。均等感覚に設置された白色の柱は神聖さを思わせる。赤絨毯。普段は人がそれなりにいた場所だが今は誰もいない。一人カーチェはオルヴェリン中央庁内を走っていた。

 議事堂へと駆け出す。警戒しながら中央庁舎内を駆け出しているが、思った以上に何もなかった。宗十郎を襲った謎の存在には疑念が残るがカーチェはただひたすらに走り続ける。

 そして大きな扉の前へとやってきた。思えば宗十郎を案内した時以来だった。よもやこんな形でもう一度来ることになるなど……。カーチェは奇妙なめぐり合わせを感じながら、その扉を乱暴に開ける。


 「ひぃ!カーチェ!?貴様……オルヴェリンへの大恩を忘れおって……!」


 大きく響いた扉を開ける音に五代表たちは驚きカーチェを睨みつける。


 「黙れ!既にお前たちがやってきたことは分かっているんだ!知らないとは言わせないぞ!私腹を肥やし、市民を洗脳し、略奪の限りを繰り返す!全て私がこの目で、この身で体験したことだ!」

 「オズワルドからの報告は本当だったようだな……余計なことを知りおって。」


 魔王のいた世界で行われていた略奪の数々。それはオルヴェリンの倫理的にも決して許されない。それを平然としてきたこの都市に反吐が出るのだ!


 「では聞くが略奪を辞めてどうするというのだ。見ろ!ここから見える景色を!街は複雑化し、あらゆる生活環境は改善された!全部略奪のおかげだ。お前が言っているのは綺麗事だ。略奪を辞めて苦しむのは他ならぬ市民たちなのだぞ!?」

 「他者を踏みにじって得られる幸福など求めていない!お前たちは、そういった事実を人々に隠し続けている時点で負い目があったんだろ!」


 その言葉を待ち望んでいたかのように五代表はニヤリと笑う。


 「ならば……尋ねてみるか?その人々とやらに。」


 空中に複数の画面が投影される。そこにはオルヴェリンの人々が映っていた。今、ドラゴンから逃れるためにシェルターに逃げ込んでいる人々だ!そして驚きの表情を浮かべている。


 「ノイマンの発明の一つだよ。我々の会話は今、オルヴェリン全体に伝わっている。お前が話した綺麗事……市民の皆はどう思っているか……直接聞くといい!!」


 市民たちは戸惑いを隠せない様子だった。自分たちの知らないところでそのようなことが起きていたということに。だが……。


 「そんなの……俺たちには関係なくないか?」

 「仕事はどうなるんだ?今更原始時代に戻れって?」

 「嫌よわたしは、水道も下水も使えないって不潔で耐えられない。」

 「そ、それよりも亜人たちだよ……あいつらに襲われることになるじゃないか……!」


 それは波のように広がる。彼らの意思は一つ。略奪なんてものは仕方がないという方向でまとまっていく。更にそこから過激な物言いをする者も現れ始める。それはカーチェに対する暴言の数々。余計なことをするな、その程度ならまだ良かった。売国奴、亜人に魂を売った売女だの聞くに堪えない言葉が、少しずつエスカレートしていき、カーチェに画面越しにぶつけられる。

 集団心理であった。皆が言っているのだから許されるという心理が、理性のタガを外し、境界線を越え、際限なしに罵詈雑言は増していく。


 頭の中が真っ白になっていた。汗が垂れる。今まで人々のために行動していたというのに、これは一体何なのか。


 「彼らは弱者だ。弱いことは罪なのだ。弱いからこそいくらでも残酷になれる。だからこそ強者である我々が導く必要がある。」


 かつて対峙した時に放たれたジルの言葉が響き渡る。彼は全てを理解していた。人の業の深さを。

 力が抜け、膝をつく。私は……こんな連中のために命をかけていたのかと……。


 「カーチェ!無事であるか!!?」


 ドアが蹴り飛ばされる。宗十郎とイアソンだった。ずかずかと乗り込んでくる。


 「久しいな五代表!どうやら大将首の名誉はまだの模様!その首もらい受けよう!!」


 サムライブレードを引き抜き、五代表に向けて駆け出す!狙いは一つ、その首一つ!

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